表現の不自由展・その後の中止に対する「ジェンダー平等」としての応答

表現の不自由展・その後の中止に対する「ジェンダー平等」としての応答

 

「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれたことについて、「あいちトリエンナーレ2019」が掲げる重要な指針である『ジェンダー平等』の視点から芸術生産に従事する立場としての意見を述べます。

今回トリエンナーレ事務局に寄せられた多数の抗議や脅迫の対象の、主なもののひとつがキム・ソギョン、キム・ウンソンによる『平和の少女像』であり、この作品は1930年以降から太平洋戦争まで存在した旧日本陸軍、海軍による「慰安婦」制度下における過酷な経験と、その後に強いられた沈黙への告発が出発点となっています。政治問題として扱われることの多いこの問題ですが、本質は女性の人権問題であり、『平和の少女像』も反日プロパガンダのためではなく、被害者女性の類稀なる勇気をたたえ、彼女らの深い傷を公に認知し、市民に平和について考えることを奨励するという意図のもとに制作されたと私たちは捉えています。その作品に対し、作品批評という枠を超え、誤った認識に基づく抗議、憎しみを煽るヘイトスピーチや一部の政治家たちによる不公正で脅迫めいた圧力が起きているこの事態は、女性に対する差別がこの社会において今なお根強く揺るぎないことの証明にほかならず、今回のトリエンナーレが掲げる『ジェンダー平等』に真っ向から反することは言うまでもありません。

また、「慰安婦」制度がうまれた時代から時を経てなお、現在も社会のあらゆる場面で性差による差別は顕然と残っています。その性差別はもちろん男性を対象にしたものも含まれます。そのような状況を受け入れることは、すべてのジェンダー、ひいては社会的弱者に対する人権侵害に加担することです。

これらのことに対して、私たちはいかなる名目でも、被害者の尊厳を傷つける性差別を始めとするあらゆる差別に強く反対します。

今回、トリエンナーレにおいて、作品を通してなされるはずだった議論の機会を奪った暴力が、将来、同様にこの加害の歴史そのものをなかったこととするために利用されるのではないかという強い危惧を抱きます。こうした現状におかれてもなお、私たちは、そのような抑圧的な力に対する抵抗として、過去と現在、そして未来における芸術の創造力、そして人々が持つ他者への共感や愛情の力を信じ、「表現の不自由展・その後」と展示室の閉鎖や一部変更を余儀なくされた複数の作家たちを含むトリエンナーレの自律性をもった完全な回復を求めます。

2019年9月4日

 

以下賛同者一覧 155名 2019年9月4日現在(9月4日以降の更新状況は特設サイトを参照)
(賛同者登録フォーム:https://forms.gle/j17jtEMqV7E9TiBJA

愛敬浩二
粟生田弓
秋山佳奈子
浅野百衣
足立雄亮
天野智恵子
天野知香
アライ=ヒロユキ(表現の不自由展・その後)
安世鴻(表現の不自由展・その後)
アンドリュー・マークル
アンナ・フラチョヴァー
飯山由貴
池崎拓也
井桁裕子
いしかわたくま
石田嘉幸
石原 燃
一条美由紀
いちむらみさこ
井出賢嗣
出津京子
伊藤るり
イトー・ターリ
井上 明彦
井上文雄
入江マキ
岩城京子
岩崎貞明
碓井ゆい
宇多村英恵
うらあやか
遠藤薫
遠藤水城
大久保あり
大坂紘一郎
大嶽恵子
大橋藍(表現の不自由展・その後)
岡本有佳(表現の不自由展・その後)
小川知子
小川希
奥誠之
小倉利丸(表現の不自由展・その後)
小栗沙弥子
尾崎翠 
梶原あずみ
カタリーナ・ズィディエーラー
金井章子
金田勉
狩野愛
神村恵
岸かおる
北原恵
キム・ウンソン(表現の不自由展・その後)
キム・ソギョン(表現の不自由展・その後)
キャンディス・ブレイツ
キュンチョメ
吉良智子
国松里香
グゥ・ユルー
小泉明郎(表現の不自由展・その後)
坂元暁美
坂本夏海
桜井圭介
佐藤麻衣子
ジェイソン・ウェイト
地主麻衣子
篠原久美子
嶋田美子(表現の不自由展・その後)
白井美穂
白川昌生(表現の不自由展・その後)
新保淳乃
スチュアート・リングホルト
住友文彦
高嶋晋一
滝朝子
田口修
Daisuke Takeya
たちばなひろし
田中功起
田中奈津子
タニア・ペレス・コルドヴァ
谷澤紗和子
田野倉康一
タン・ルイ
陳楚翹
Chim↑Pom(表現の不自由展・その後)
津賀恵
津田道子
土屋誠一
東間嶺
戸田貞一
ドラ・ガルシア
中尾英恵
長倉友紀子
永田浩三(表現の不自由展・その後)
中村協子
中村ひろ子
二藤建人
ニーナ・ホリサキ・クリステンズ
日本美術会
パク・チャンキョン
橋本聡
浜崎史菜
原万希子
パンクロック・スゥラップ
樋口鉄平
日比嘉高
ひらいゆう 
平野史恵
福島夏子
藤井光
藤木直実
藤城里香
藤島寛
古川美佳
古川弓子
穂積利明
堀崎剛志
本所稚佳江
本間メイ
真武真喜子
町村悠香
松崎裕子
松下誠子
馬然
Mika Eglinton
水野僚子
宮川知宙
宮越里子
ミリアム・カーン
Min kyung Choi
村井則子
毛利嘉孝
本秀紀
本山央子
モニカ・メイヤー
百瀬文
藪前知子
山本幾代
山本聖子
ユミソン
横地早和子
吉開菜央
芳木麻里絵
Midori Yoshimoto
良知暁
リン・チーウォー+サラ・ウォン
レジーナ・ホセ・ガリンド
渡辺えり
綿引展子
認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)

 

9月5日、あいちトリエンナーレアーティストステートメント事務局より連絡を受け、クレジットを一部修正。
9月6日、「表現の不自由展・その後の中止に対する「ジェンダー平等」としての応答」の特設サイトが開設されたため、URLを追記

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