「墜ちるイカロス―失われた展覧会」 ライアン・ガンダー展


【タイトル】 墜ちるイカロス―失われた展覧会
【アーティスト名】 ライアン・ガンダー
【会期】 2011年11月3日(木)~2012年1月29日(日) 

①「バン!」(2011)
Bang!
メゾンエルメス8 階フォーラムで開催される、『この美が壊れるところを見なければならない』というタイトルの架空の展覧会のためのポスター。
グーグル・クロームと、オイスターカードのロゴの要素を組み合わせたもの。

②「これが本当の多様性だなんて誰が言った」(2011)
Who said this was true multiplicity anyway
メゾンエルメス8 階フォーラムでこれまでに展示された三十人のアーティストの2038 年の姿を描いた、法廷画家による三十枚の肖像画。

③H
エルジェ作のコミック『タンタンとアルファ・アート』に出てくる、「H」という文字の形をした大きなプレキシグラス製の透明な彫刻を、ガンダーが想像した作品。

④「動いているものをスケッチすることの無益さ」(2011)
The futility in drawing something that is moving
あるアート作品についての詩という形をとったアート作品。詩は、2019 年にマルセル・ブロータスが96 歳で書いたものという設定。
ギャラリーの床に捨てられているように展示される。

⑤「暗闇の匂いがする――(錬金術の箱 ♯26)」(2011)
It smells like darkness ‒ (Alchemy Box 26)
パリのセーヌ川沿いに並んでいる本屋のスタンドが閉店後に蓋を閉めた後のような格好に偽装した「アルケミー・ボックス(錬金術の箱)」。
セーヌ川沿いのスタンドは、普通は川岸の壁に寄せかけてあるが、今回はギャラリーの床に斜めに置かれている。「アルケミー・ボックス」にはフォーラムで
これまでに展示を行ったアーティストたちがそれぞれ選んだ本が入っている。内容の一覧は、壁に書かれている。

⑥マシュー・ヤングが1985 年から白い部屋に落下する(たぶんなるべくしてなったのだろう)」(2009)
Matthew Young falls from the year 1985 into a white room (Maybe this is the way it is supposed to happen)
誰かが窓を突き破って落ちたかのように、割れたガラスの破片と窓枠のかけらがギャラリーの床に散らばっている。ガラスは映画の特殊効果のために使用さ
れる飴ガラスである。この作品のタイトルは、J.G. バラードの短編小説『攻撃目標(The Object of the Attack)』(1984 年)に登場する架空の展覧会、「宇宙時代の彫刻(Sculpture of the Space Age)」を言及している。この展覧会は、1970 年代後半にサーペンタイン・ギャラリーで開催されたことになっているが、バラードの短編のタイトルとして以外には存在しない。

⑦「墜ちるイカロス」(2011)
Icarus Falling
スポットライトによって照らされている部分、壁の汚れた跡と金具が、消えた絵――マーク・タンジー(1949 – ) 作の『深さの神話(Myth of Depth)』――が掛かっていただろう場所を示している。

⑧「複雑なのではなく、あなたが混乱しているだけ」(2011)
It’ s not that it’ s complicated, it’ s just that you’ re confused
小さな液晶モニターが壁にかかっている。画面はヒストリー・チャンネルの番組を一時停止した静止画像で、架空のアーティスト、サント・スターン(Santo
Stern)の若かりし頃の姿と、そばで見ている人が映っている。画面の一隅には停止マークが青で、反対側の隅にはバイオグラフィー・チャンネルのロゴがカ
ラーで入っている。

⑨「こういう、くだらないことが永遠に続く」(2011)
This shit goes on forever
とめ具の跡、うっすら色あせた輪郭、塵。ドアの上の高いところに、透明のアクリル素材の小さな文字が並んでいる。ニューヨークのニュー・ミュージアムのような美術館にありそうな文字。「The Saon De Samothrake Gallery」とられている。サオン(Saon)とは、ギリシャ神話のヘルメスに関連する架空の人物である。このサモトラケ王は芸術の後援者であり、サモトラケのニンフ、レネと、オリュンポスの十二神の一人、ヘルメスの間に生まれたとされている。

⑩「調査♯16――あなたは私にすべてを与えてくれたけれど(マーシュ)」(2010)
Investigation 16 ‒ Although you’ ve given me everything
ティロ・マーシュ(Thilo Maatsch)(1900~1983)の作品『Ohne Titel』(無題)(1928 年、油彩・木、37 x 37.5cm)のアーカイブ写真。
スイス・チューリヒのハウス・コンストラクティヴ所蔵。50 x 66.5cm のサイズの二枚の写真を額装し、10 センチの間隔をあけて横に並べたものである。

⑪「ベストクラブ」(2011)
The Best Club
展示スペースのある壁の前に、黒いカーテンがかかっている。奥にはビデオインスタレーションがありそうだと思わせるために、光が漏れないようにしているらしい。カーテンのそばにあるキャプションによると、奥のビデオインスタレーションは、20 世紀後半に活躍した著名なオーストリア人コンセプチュアル・アーティスト、ゲオルグ・ポール・トーマン(1945 – 2005)なる人物の作品だという。実のところそれは、オーストリアのアート集団、「モノクローム」が作り上げた架空の人物なのだが。

⑫「美学と倫理学、かっこいいだけでは物足りない」(2011)
Aesthetics and ethics, looking good is just not enough
カフェ・オーベットというオーストリアにあるモダニスト・アーティストがデザインしたカフェのために、テオ・ファン・ドースブルフが1927 年に新しくデザインした灰皿。ファン・ドースブルフとモンドリアンが出会っていなかったとしたら、という仮定のもとでの作品。

⑬「ことのなりゆき」(2005)
This Consequence
アディダスの「オールホワイト」のジャージに、金色でロゴの刺繍があしらわれたもの。さらに、上着とパンツに、濃い赤の色で小さな染みが二つ、こっそり刺繍されている。アートディレクターやキュレーター、ギャラリスト、ディレクター、監視員など、作品を展示する施設の関係者が展示スペースに現れる時には、このジャージを必ず着用する。

⑭「そしてあなたは変わるだろう」(2011)

And you will be changed
空っぽのフォーラムの空間を、キュレーターのあとに撮影したドキュメンタリービデオ作品。過去に行われたある展覧会の作品がまだそこに存在しているかのように、キュレーターが想像力と記憶を頼りに案内していくところを撮影した作品である。

⑮「覚えておいて、後で必要になるから」(2010)
Remember this, you will need to know it later
アストン・アーネストのスタジオにある机を、アーネストの死去直後に発見されたままの状態で撮影した白黒写真。

⑯「鍵のかかった部屋」(2011)

The Locked Room
リアム・ギリック(1964 -)のアート作品「Woody」を、2034 年の時点から想像した作品。展示スペースの床いっぱいに複雑なボードゲームが広がっていて、その上に黒いエナメル塗料を塗った薄紙のランプシェードがぶら下がっている。片側には小さなゲームボードが置かれている。
素材 塗られた薄紙のランプシェード、革張りのカード

⑰「なるほど、確かに?」(2011)
In Spades?
三十面体のサイコロ。フォーラムで行われた過去三十回の展覧会一つ一つを表わす、ガンダーによって考案されたシンプルなサインや文字、印が記されている。

⑱「観測所、あるいは悪いのはそれではなく、あなたが混乱しているだけ」(2011)
The Observatory, or, it’ s not that it’ s bad, it’ s just that you’ re confused
ドガのモデルを思わせる若い女性の踊り子のブロンズ像。いかにもバレリーナ然とした姿勢でギャラリースペースに立ち、人差し指と親指でフレームの形を
作って、同じ空間に展示されている別のアーティストの作品を覗いている。像と同じ空間には、一辺2.5cm のウルトラマリンブルーの立方体と、10 x 6 x 6cmの展示壁と同じ色で塗られた展示台が置かれている。

⑲「展覧会のための別の時間枠」(2010)
An alternative timeframe for an art exhibition
展示会場の床に置かれた二つのブラウン管に、テレビ業界で用いられる一分間のカウントダウン時計が表示されている。そのうち一つの時計は通常のカウントダウンを行い、最後の20 秒は針が見えないようにブランクになっている。二つ目の時計は、1 分を数えているように見えながらも、実は51 秒で一周期となるよう調整されている。この1 分あたり9 秒のロスは、営利目的のチャンネルで、収入源となる広告を入れるために削られる時間の平均値に相当する。時計は二つともループする。

⑳「『先天的な人間の装置としての抽象をあざ笑う』ラモ・ナッシュ」(2011)
“Scorning the abstract as an innate human device” Ramó Nash
油彩の絵画作品。ベルギーの漫画家エルジェ作のコミックで、未完に終わった『タンタンとアルファ・アート』に登場する絵画を、実際に制作したもの。この漫画はタンタン・シリーズの第24 巻にして最終巻となる予定だった作品で、エルジェの死後1986 年に、未完ながらカステルマン社とエルジェ財団の協力によって刊行された。2004 年に新たな素材を付け加えて再版された。

21 「僕は壊れている」(2011)
I am broken
ドナルド・ジャッド(1928 – 1994)の小さな「積み重ね(Stack)」という作品と同じ形を、スウェーデンのIKEA 社の世界一売れている棚、「LACK」 システムのみを用いて表現した作品。棚板はのこぎりで大まかに切って用いている。


◆プレスカンファレンスインタビュー

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