ドクメンタからの艾未未
文/牧陽一
撮影:牧陽一
今回はドクメンタ12での「童話」についてのインタビューを選んだ。というのは最近の艾未未に関する状況と結び付くと思われたからだ。
11月1日、脱税追徴課税罰金1522万元(約2億円)を15日間以内に支払うように税務署から請求される。この間、馮正虎(民主運動家)らが艾未未にお金を貸すことを提案。期日の11月16日には3万人から845万元(約1億円)が集まり、異議申し立てをするために支払いを済ませる。さらに11月17日、ファンと撮ったヌードの記念写真が猥褻と見なされ、警察から捜査を受ける。これに対して艾未未のファンサイトでは21日に70人、23日には100人のヌードが掲載され、多くの人々が抗議した。22日、艾未未を批判していた体制側新聞「環球時報」の編集長らのケータイ番号を艾未未が公開。編集長らに批判の電話が殺到する。
今月に入ってかなり活発に活動が展開されている。そしてどれもツイッターなどネットで対処している。警察は4月3日から6月22日の艾未未拘留中に国家政権転覆扇動罪容疑で尋問を繰り返した。保釈後にまず脱税、そして猥褻罪と手を打ってきた。そのたびに艾未未は結果的に強力な大衆動員で切り抜けている。政府側の意図とは裏腹に艾未未の人気と知名度は上がる一方である。艾未未自身が意図したことではないだろう。しかし艾未未に金を貸すという行為、艾未未の様にヌードで写真を撮るという行為の諧謔性や政府の攻撃を逆手に取る爽快さが、多くの人を引き付けている。先の馮正虎は「人民内部矛盾の問題は人民元で解決する」というユーモアのある言い回しで募金を呼び掛けている。「人民内部矛盾の問題」とは毛沢東の1957年の言葉であることは中国人なら誰もが知っているだろう。現在中国共産党員は8千万人いると言われている。階級を無くしたはずの共産党が一つの特権階級をつくっている。世界最大の政党である。だが中国の人口に引き比べればわずか6%にすぎない。いま殆どの中国人は名もない「公民」である。彼らは中国共産党の理不尽な強権によって苦しめられている。
かつて毛沢東は文化大革命で大規模な大衆動員を行った。そして強大になった中国共産党は民主化運動を弾圧し、国家のメンツのために多くの人々を犠牲にしている。経済発展は強権を振るい、民主化を後回しにして成り立ったものだ。強制の産物である。艾未未もまたインターネットという新たな武器で大衆動員を成功させている。その始まりはブログで《童話》に参加する人を募ったことにある。僅かな期間に3000人もの応募があった。そして1001人のカッセルへの渡航、活動、こうした顔の見える大衆動員こそが彼の真骨頂なのだろう。現在も艾未未は全ての情報を公にして、その上で人々の支持を受け取っている。都合の悪いことを隠蔽する政府とは正反対である。とにかく「童話」で多くの人々をカッセルに連れて行った経験、その具体的な経験がその後の艾未未の活動を裏付けているのは間違いないのではないか。言い方を変えれば「まだ『童話』は続いている」といえるのではないだろうか。
かなり政治的だがベンヤミンを引けばこの方向性が見えるかもしれない。つまり毛沢東は毛沢東様式で政治の美学化を進めたが、艾未未は芸術の政治化を実行している。ベクトルが逆方向なのである。彼が酷い迫害を受けながら闘っているのは、今闘わなければいけないからだ。これ以上先に延ばすことはできない。子供たちに闘わせ、犠牲を出したくないからだ。
11月3日、筆者は9月の面談に続いて再度北京草場地の艾未未を訪ねた。監視がついていた9月とは違い今回は実に闊達な様子だった。ポケットから仏手柑、山椒、変なものをたくさん出して私にくれた。魔除けにいろんなものをポケットに入れているのだという。またフェイクスタジオには中国各地からいろいろな名産品も集まっている。貧しい農民のファンが送ってくるそうだ。入口で一緒になった高校生は艾未未に人生相談をしていて、艾未未は丁寧に受け答えしていた。普通の先生みたいだった。誰に対しても差別し蔑むような事はしない。こう書くとかなり入れ込んでいるように見えるが、そうではない。誰かが艾未未はいいアーティストだが、今回の逮捕拘留で偉大なアーティストになってしまった、と言っていたが私も同感だ。彼を偉大な存在にしてしまったのは他でもない中国共産党である。
今回はお母さんの高瑛さんにも会えた。多分、脱税追徴課税罰金を支払うために東四十三条のお母さんの家を抵当に入れる事を相談したのだと思う。ここは文革後、中国共産党が艾未未の父、詩人艾青に用意したものだ。「中国共産党に貰ったものは中国共産党に返す」、これが最後の手段らしい。これも実に爽快な手だ。お母さんが一言私に言った。「誰も彼を止められない」と。
再度の宣伝になりますが、インタビューの全文は現在準備中の『艾未未読本』(集広舎)に掲載されます。お楽しみに。
追記(2012.5.1)
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