シアターコモンズ’25「ブレス・イン・ザ・ダーク/暗闇で呼吸する」
2025年2月21日(金)-3月2日(日)
東京都内複数会場
https://theatercommons.tokyo/
参加アーティスト:ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ、キュンチョメ、メイ・リウ、ルネ・ポレシュ、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク、市原佐都子/Q、佐藤朋子 ほか
チケット購入について:https://theatercommons.tokyo/ticket/
演劇の「共有知」を活用し、社会の「共有地」を生み出すプロジェクトとして、演劇や各種パフォーマンス、観客参加型のプログラムなどを実施する「シアターコモンズ’25」が、2025年2月21日より都内複数会場にて開催される。
9回目となる今回のテーマは「ブレス・イン・ザ・ダーク/暗闇で呼吸する」。ディレクターの相馬千秋は1年前に「芸術に何ができるかという自己証明の問いはほとんど意味をなさない。だが、現実的には何もなす術がない状況を受け入れながら、これらの現実を想像し続ける扉を開き続けるために、演劇・劇場の知(コモンズ)を使い続けることはできるはずだ」と記した自身の言葉に対する応答として、この「シアターコモンズ’25」を「一年分の葛藤と試行錯誤の結果を恐る恐る共有するタイミング」に位置付ける。参加作家のキュンチョメの作品タイトル「ブレス・イン・ザ・ダーク―平和のための呼吸―」を、混迷の時代に実践できる、倫理的かつポジティブな態度を詩的に言い表すものと捉えて全体テーマに引用し、「暗闇で呼吸する」という身振りをシアターコモンズ全体にも敷衍しようとプログラムを構成した。
ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ『オルトシアのめくるめく物語』
ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ『スミルナ』
レバノン出身でパリを拠点に活動するジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュは、レクチャーパフォーマンス『オルトシアのめくるめく物語』(会場:スパイラルホール)だけでなく、上演に合わせて作家自身が現在の中東情勢を踏まえてセレクト3本の映像作品の上映(会場:東京日仏学院 エスパス・イマージュ)を行なう。これまでも一貫してレバノンや中東世界の歴史記述やその物語構築をテーマに作品を制作してきたハジトゥーマ&ジョレイジュの最新パフォーマンスは、パレスチナ難民キャンプの下から出土した、伝説の古代ローマ都市オルトシアを巡る物語。レバノンの北部、ナハル・エル・バーリドの難民キャンプは、2007年の国内武力衝突で破壊されたが、皮肉にもそのおかげで紀元551年の津波によって消失した古代ローマ都市が姿を現した。まさにポンペイに次ぐ考古学的大発見だが、発掘調査は難民たちにとって「第二の強制移住」を強いるものとなる。ふたりはそのジレンマから、考古学者との対話や歴史記録を舞台上に召喚し、暴力と破壊が続く中東の地層に、未来へのタイムカプセルを埋め込もうと試みる。一方、映画上映では、作家自身がルーツを持つ「スミルナ」(現在のトルコのイズミルの古い呼称)について、同じく同地にルーツを持つ画家・詩人との対話を通じて、実際には訪れたことのない都市を想像しながら、複雑な地域における歴史の継承について問いを巡らす『スミルナ』、閉館中のベイルート国立博物館で撮影された『酔った愛たちの石棺』、ギリシャの詩人カヴァフィスの詩とともにベイルートの遠景が移りゆく『蛮族を待ちながら』を紹介する。
キュンチョメ『ブレス・イン・ザ・ダーク―平和のための呼吸―』
メイ・リウ『Homesick for Another World』
芸術を「新しい祈りの形」として捉え、詩的でユーモアあふれる作品を世界各地で制作するキュンチョメは、「呼吸」をテーマとした参加型パフォーマンス『ブレス・イン・ザ・ダーク―平和のための呼吸―』(会場:みなとコモンズ 4F)を発表。「吸って、吐く」という20億年前から途切れなく続いてきた行為を生命の基本と捉え、呼吸を通して、自分自身、他者、他生物、地球、宇宙とのつながりを知覚しなおす連続ワークショップを開催する。
映画の拡張としてのパフォーマンスや映像インスタレーションを制作してきた中国出身でオランダを拠点に活動するメイ・リウは、コロナ禍に自身に起こった出来事を元に、オーラルヒストリーやフィクションを交えながら構築したレクチャーパフォーマンス『Homesick for Another World』(会場:スパイラルホール)を発表。同作はドイツのアーティスト育成プログラム「フォーキャスト・プラットフォーム」にて、日本の写真家・志賀理江子のメンターシップの下に創作したパフォーマンスの最新版となる。
市原佐都子『キティ』©-bozzo 提供:城崎国際アートセンター(豊岡市)
社会における不可触なタブーや性をめぐる矛盾を、大胆不敵かつ繊細に問いつづけてきた劇作家・演出家の市原佐都子は最新作『キティ』を発表(会場:スパイラルホール)。2019年に初演した『バッコスの信女 ─ ホルスタインの雌』で第64回岸田國士戯曲賞を受賞、2023年には『弱法師』をドイツのフランクフルトで開かれた世界演劇祭で発表するなど、その創作に国際的な注目の集まる市原の最新作は、家父長制や資本主義、大量生産・消費システムのひずみから生じる不条理や滑稽、そして欲望のグローバルな均一化を、日本、韓国、香港の俳優陣がくりひろげる懸命かつ批評的ユーモア満載に、痛烈なQ(クエスチョン)に昇華して突きつける。
2021年からシアターコモンズ委嘱シリーズ「オバケ東京のためのインデックス」を制作してきた佐藤朋子は、シリーズ第4弾となるレクチャーパフォーマンス『オバケ東京のためのインデックス 東アジア編』(みなとコモンズ 地下1F)を発表。同シリーズにおいて佐藤は、岡本太郎による「オバケ都市論」を起点に、これまでにゴジラ、カラス、生け花等の「非人間」の視点を通して、都市の「オバケ」的な記憶を浮かび上がらせ、もうひとつの東京を構想するためのインデックスを作りためてきた。本作は、台湾や韓国での長期レジデンスを経て、東京に残る植民地時代の東アジアの僅かな痕跡から東京を捉え直す。上演では観客もまた実際に街に出て、その痕跡を辿る「ウォーク」も実施する。
また、ポストドラマ演劇の旗手として知られ、2021年にベルリンのフォルクスビューネの芸術監督に就任するも2024年2月に急逝した演出家・劇作家のルネ・ポレシュの戯曲『あなたの瞳の奥を見抜きたい、人間社会にありがちな目くらましの関係』を、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクによるリーディングパフォマンスとして上演。本企画では、ポレシュの演劇論が凝縮されたモノローグ台本を、ポレシュの作品に多く出演し、日本語上演の翻訳・演出も手がけた原サチコとともに、観客自身が声に出して体現する。
そのほか会期中には、「演劇とケア」、「演劇と社会」、「演劇と東アジア」と題したフォーラムを開催。また、複数のプログラムを集団で体験し、ナビゲーターや参加者同士でのおしゃべりや交流会などを盛り込んだコモンズ・ツアーの実施も予定されている。各プログラムの詳細や開催日時、チケットの購入方法等は、公式ウェブサイトを参照。
佐藤朋子『オバケ東京』©︎田郷美沙子
ルネ・ポレシュ/小野彩加-中澤陽-スペースノットブランク『あなたの瞳の奥を見抜きたい、人間社会にありがちな目くらましの関係』Photo: Dan Bellman
コモンズ・ツアー