東日本大震災10年 あかし testaments @ 青森県立美術館


北島敬三「UNTITLED RECORDS」より《青森県外ヶ浜町》2011年 ©KITAJIMA KEIZO

 

東日本大震災10年 あかし testaments
2021年10月9日(土)– 2022年1月23日(日)
青森県立美術館
http://www.aomori-museum.jp/
開館時間:9:30–17:00(11/26、11/27、12/18は20:00まで開館)入館は閉館30分前まで
休館日:10/11、10/25、11/8、12/13、12/27–1/1、1/11
キュレーター:李静和(政治思想家)
倉石信乃(詩人、批評家)
高橋しげみ(青森県立美術館学芸員)
参加アーティスト:北島敬三、コ・スンウク、豊島重之、山城知佳子

 

青森県立美術館では、甚大な被害を及ぼした東日本大震災から10年、時間とともにうすれゆく震災の記憶をいかに次世代へとつなぎ、教訓を伝えていくか、時代の趨勢から取りこぼされてゆくものに目を向けてきた北島敬三、コ・スンウク、豊島重之、山城知佳子の作品を通して考える展覧会『東日本大震災10年 あかし testaments』を開催する。なお、本展は震災という出来事をより広い歴史の中で、より多角的に捉えるべく、青森県立美術館の高橋しげみに加え、政治思想家の李静和と詩人で批評家の倉石信乃をゲストキュレーターに招いている。

東日本大震災から10年が経ち、被災地では道路や住宅など社会基盤が整えられ、数々の伝承施設が建設されるなど「復興」が進む一方で、東京電力福島第1原発事故直後に出された「原子力緊急事態宣言」はいまなお発令中であり、約4万人におよぶ人々が避難生活を強いられたままという事実が存在している。本展では、現在すでに見えにくくなっており、無かったことにされてしまうのではないかという不安にさらされている震災による被害の現実を前に、過去の負の出来事を見つめ、その中で 「見えなくなったもの」をすくい取ろうとしてきたアーティストの実践に注目する。参加アーティストの北島、コ、豊島、山城の4名はいずれも写真やビデオといったカメラを通じて得られる映像を主な表現形式としており、現実を映しながらも、その現実から完全に独立したものとして存在することで、もうひとつの「現実」を生み出す映像表現に、目に見える近い世界から「見えなくなったもの」の遠い世界へと、観る者を連れ出す大きな可能性を見出してきた。

この4名はそれぞれが「地方」との関わりをもって制作を続けてきたアーティストでもあり、コは韓国の済州島、豊島は八戸、山城は沖縄が出身地かつ活動の拠点で、その場所が創作に大きな影響をもたらしてきた。また北島は東京を拠点に置くものの近年は地方の風景をその被写体に選んできた。政治や経済の中心から遠く離れ、時に差別や搾取の対象ともなってきた地方には、多くの「見えなくなったもの」が堆積している。彼らの作品は「地方」の記憶を浮かび上がらせると同時に、「中央–地方」という構造そのものを問い立てる。

展覧会タイトルの「あかし」は、本展において、過去の暗闇の中に葬られつつあるもの、あるいは葬られて「見えなくなったもの」を照らし出す光を意味する。「あかし」は暗闇に光をともす「灯(あかし)」であると同時に、ひとつの事柄が確かであるよりどころを明らかにする「証(あかし)」でもあり、過去の災厄を見つめる4人のアーティストが展示室にともす「灯=あかし=証」を通じて、時間による風化や忘却がもたらす暗闇の中に、被災地と共に生きるための世界を浮かび上がらせる。

 


コ・スンウク《未知の肖像》2018年 ©Koh Seung Wook


モレキュラーシアター公演《Legend of Ho》2000年、舞踏家・中嶋夏(左)と豊島重之(右)photo: Toru Yoshida

 

参加アーティストの北島敬三(1954年長野県生まれ)は、1970年代に都市の街路を行き交う人々を出会いがしらに捕らえたモノクロームのスナップショットで高い評価を得る。80年代末以降、大判カメラを用いた肖像写真のシリーズ「PORTRAITS」と、日本の地方を巡り、見過ごされ、打ち捨てられた風景を撮影したシリーズ「PLACES」に着手。「PLACES」を前身として、2012年から新たに始めたシリーズ「UNTITLED RECORDS」は、 被写体に東日本大震災の被災地を含みながら現在も撮影を継続する。本展には、同シリーズからの代表作約30点と、並行して進める「PORTRAITS」から約30点を出品する。

コ・スンウク(1968年韓国済州島生まれ)は、ソウルでの初期の活動では実験的なアートを発信するオルタナティヴ・スペース「プール」のディレクターを務めながら(2007–2009)、ユーモアの中にも社会通念に挑む強い意志を感じさせ るパフォーマンスや映像作品を発表する。2012年、故郷の済州島に活動の拠点を移してからは、同地の歴史的出来事に関わる記憶をテーマに、死者という不可視の存在者との対話を促す詩情豊かな写真や映像作品を制作している。本展では、第二次世界大戦後の済州島で多くの島民が犠牲となった「済州島四・三事件」をテーマにした映像作品を中心に、新作映像を含む約10点を出品する。

豊島重之(1946年–2019年/青森県生まれ)は、精神科医として勤務する傍ら、演劇、美術、批評など多方面で才能を発揮し、生涯八戸を拠点としながらも、10か国を超える海外の舞台で作品を発表するなど国際的に活躍した。2000年には八戸市民を中心としたアートプロジェクトの企画集団「市民アートサポートICANOF(イカノフ)」を結成し、キュレーターとしても活動。2019年1月、72歳で死去。今秋、評論集『一目散』(書肆子午線)刊行予定。本展には、「阪神・淡路大震災」と「アメリカ同時多発テロ」というふたつの厄災に触発されて創られたモレキュラーシアターによる舞台作品《直下型演劇》(2002)のセノグラフィー(舞台装置)を中心に写真やサウンドインスタレーション、資料などを出品する。また、開催初日の10月9日には、かつて豊島作品に出演した作曲家の港大尋によるパフォーマンスも行なわれる。

山城知佳子(1976年沖縄県生まれ)は、沖縄戦や基地問題など歴史や社会の具体的な事象に触れた作品を経て、近年は言葉にならない記憶を伝えるべく、抽象的なイメージやフィクションの要素を効果的に取り入れた作品へと展開を見せている。国境や時代を超える普遍性を獲得した作品が国内外で高い評価を得ている。現在、東京都写真美術館で大規模な個展『山城知佳子 リフレーミング』が開催されている。本展には、戦争の記憶をテーマにした初期の傑作《あなたの声は私の喉を通った》を中心にあらたに構成された映像インスタレーション、新作映像《リフレーミング》(2021)より写真作品《覚えているか? 俺たちは珊瑚から生まれてきたんだ》など約6点を出品。

 


山城知佳子《沈む声、紅い息》2010年 ©Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

 

関連イベント ※そのほかの関連イベント(トーク、パフォーマンス、上映会など)は詳細が決まり次第、公式ウェブサイトで発表。
OPENING LIVE+TALK
2021年10月9日(土)13:30–16:00(開場:13:00–)
港大尋ライブコンサート
出演:港大尋(作曲家、ピアニスト、シンガーソングライター)
会場:青森県立美術館アレコホール
アーティスト+キュレーター クロストーク
会場:青森県立美術館シアター
定員:40名(事前申込制、先着順)※申込締切は10/5(火)、申込方法は公式ウェブサイトを参照。
※無料(要企画展チケット、または半券)

ナイトミュージアム
2021年11月26日(金)、11月27日(土)、12月18日(土)

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