グレン・ライゴン『In A Year with a Black Moon』@ ラットホールギャラリー


Glenn Ligon Untitled (2019) Courtesy of the artist and Rat Hole Gallery

 

グレン・ライゴン『In A Year with a Black Moon』
2019年12月20日(金)- 2020年3月14日(土)
ラットホールギャラリー
https://www.ratholegallery.com/
開廊時間:11:00-19:00
休廊日:日、月

 

ラットホールギャラリーでは、過去の文学者や活動家らの文章やスピーチなどから引用したテキストを使った抽象画やネオン作品で知られるアメリカ合衆国出身のアーティスト、グレン・ライゴンの個展『In A Year with a Black Moon』を開催する。同ギャラリーでは2度目となる本展では、李朝白磁のひとつ、「月壺」に想を得た新作立体作品をはじめ、新作ドローイング、旧作の絵画作品を発表する。

グレン・ライゴンは、近代絵画やコンセプチュアルアートの遺産を批評的に援用し、絵画、版画、写真、ドローイング、彫刻的インスタレーション、ネオンといったさまざまな媒体を駆使して、アメリカ合衆国の歴史、文学、社会を鋭く探求してきた。その作品において、「黒」はしばしば批評性と美を兼ね備えた要素として存在してきたが、本展に出品される新作立体作品も、美のオブジェクトかつ文化的・社会的批評の担い手の黒い器を生み出すという欲求から導き出されている。その名を満月を思わせる形状と乳白色の釉薬に由来する月壺は、李朝時代(1392-1910年)の韓国でつくられた伝統的な白磁で、日本では「提灯壺」と呼ばれる。ふたつの半球を中央部で接合してつくられた壺はどれもやや不揃いだが、こうした形状は李朝時代の美的感覚として高く評価されるような、ナチュラリズムや自然発生性、そして峻厳な仕上げを超えた「破形の美」をもたらしている。ライゴンは日本在住の韓国人陶芸家との協働のもと、白色の粘土を漆黒へと変化させ、黒い月壺を制作。独特の黒い色彩と質感のスペクトルを通じ、月壺の形式的・概念的可能性を探究することで、伝統的な陶磁器の境界の拡張を試みた。

新作立体作品のほか、ガートルード・スタインの小説『三人の女(Three Lives)』(1909)から引用されたフレーズ「negro sunshine」をオイルスティックで幾度も繰り返し描きこむという、ライゴンが10年以上にわたって継続している同シリーズから、背景に白ではなく、鮮やかな赤を用いた新作《Study for Negro Sunshine (red)》を発表。また、2011年にホイットニー美術館で開かれた自身初の包括的な回顧展『Glenn Ligon: AMERICA』(ロサンゼルス・カウンティ美術館、フォートワース近代美術館を巡回)以来の発表となる《Self Portrait》(2002)は、ジェイムズ・ボールドウィンのエッセイ「村のよそ者(Stranger in the Village)」(1953)から引用したフレーズを、ステンシルを用いて黒のオイルスティックで塗り重ねた絵画作品。同作は、本展の他の作品と暗示的な関係を結び、引用や協働、そして文化的対話といったものの本質を省みるよう促すものとなる。

 


Glenn Ligon Study for Negro Sunshine (red) #6 (2019) Courtesy of the artist and Rat Hole Gallery

 

グレン・ライゴン(1960年ニューヨーク、ブロンクス生まれ)は、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインを経て、ウェズリアン大学で学士号を取得したのちに、ホイットニー美術館インディペンデント・スタディ・プログラムに参加。アーネスト・C・ウィザーズがメンフィス市衛生労働者のストライキを撮影した写真から言葉を引用した《Untitled (I Am a Man)》(1988)、ラルフ・エリスンの『見えない人間』(1952)を引用した《Untitled (I Am an Invisible Man)》(1991)、ゾラ・ニール・ハーストンのエッセイ「黒い肌の私ってどんな感じ(How It Feels to Be Colored Me)」(1928)を引用した《Untitled (I Feel Most Colored When I Am thrown Against a Sharp White Background)》(1990)など、引用と反復、そして、文化・歴史と不可分のアイデンティティという概念の変容を試みる現在へと繋がるような作品制作を1980年代後半に開始した。ホイットニー・ビエンナーレ(1991、1993)、第47回ヴェネツィア・ビエンナーレ(1997)、第24回サンパウロ・ビエンナーレ(1998)、ドクメンタ11(2002)をはじめ、数々の個展、企画展で作品を発表し、2011年にホイットニー美術館で回顧展『Glenn Ligon: AMERICA』(ロサンゼルス・カウンティ美術館、フォートワース近代美術館を巡回)を開催。近年はロンドンのカムデン・アーツ・センター(2014)やオルセー美術館(2019)、ジョージタウン大学マリア&アルベルト・デラクルス・アートギャラリー(2019)などで個展を開催、2015年には第56回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2015)に2度目の参加を果たしている。また、2000年のウォーカー・アートセンターのコレクションを使った『Art in Our Time: 1950 to the Present (Givens Collection)』以来、キュレーションも手がけており、『Glenn Ligon: Encounters and Collisions』(ノッティンガム・コンテンポラリー、テート・リバプール、2015)、2017年に『Blue Black』(ピューリッツァー美術館、2017)などを企画している。

 


Glenn Ligon Self-Portrait (2002) Collection of the artist

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