遠距離現在 Universal / Remote

 

遠距離現在 Universal / Remote
2024年3月 6日(水)- 6月 3日(月)
国立新美術館
https://www.nact.jp/
開館時間:9:30–18:00 (金・土は20:00まで)入場は閉館30分前まで
休館日:火(ただし4/20は開館)
展覧会URL:https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/universalremote/

 

国立新美術館では、5年ぶりとなる現代美術のグループ展「遠距離現在 Universal / Remote」を開催する。

20世紀後半以降、人、資本、情報の移動は世界規模に広がった。2010年代から本格化したスマートデバイスの普及とともに、オーバーツーリズム、生産コストと環境負担の途上国への転嫁、情報格差など、グローバルな移動に伴う問題を抱えたまま、私たちは 2020年代を迎えた。そして、2020年に始まった国境のないパンデミックにより、人の移動が不意に停止されたものの、資本と情報の移動が止まる気配はなかった。かえって、資本や情報の本当の姿が見えてくるようになったと思える。豊かさと貧しさ。強さと弱さ。私たちの世界のいびつな姿はますます露骨に、あらわになるようだ。

展覧会タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、資本と情報が世界規模で移動する今世紀の状況を踏まえたものである。監視システムの過剰や精密なテクノロジーのもたらす滑稽さ、また人間の深い孤独を感じさせる作品群は、今の時代、あるいはポストコロナ時代の世界と真摯に向き合っているようにも見える。本展は「Pan- の規模で拡大し続ける社会」と「リモート化する個人」の 2つを軸に、このような社会的条件が形成されてきた今世紀の社会の在り方に取り組んできた 8 名と 1 組の作品を紹介する。
アジア、欧米、北欧など国際的に活躍しているアーティストたちの作品を通じて、ポストパンデミック社会と個人の在り方を鑑賞者とともに読み解く。

エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》2023年 壁紙、サイズ可変 作家蔵 ©Evan Roth Courtesy of the MOCA Jacksonvill 展示風景:「あなたが生まれてから」ジャクソンビル現代美術館 2019年 Photo by Doug Eng

 

チャ・ジェミン《迷宮とクロマキー》2013年 「遠距離現在 Universal / Remote」 国立新美術館 2024年 展示風景 Photo by Keizo Kioku

 

「Pan-」の規模で拡大し続ける社会

感染を防ぎ、人流を抑制するための国家権力の強化と監視システムの容認という問題は、それなりの成果を上げながらも、同時にポストコロナ社会の大きな課題として残った。人々はかつて経験しなかったほどに、国家の力と国民の自由のバランス感覚を試されているとも言える。しかし資本と情報の移動は、それと関係なく加速を続け、人々を煽り続けるだろう。近年のデジタル通貨導入の動きや、ブロックチェーンを基盤とするNFT(非代替性トークン)経済の過熱もまた、遠隔でも社会が機能し、拡大し続けるための仕組みでもある。このような資本と情報の問題意識に着眼した作品として、井田大介徐冰トレヴァー・パグレンヒト・シュタイエル(ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ミロス・トラキロヴィチとの共同制作)、地主麻衣子をとりあげる。

 

井田大介 「遠距離現在 Universal / Remote」 国立新美術館 2024年 展示風景 Photo by Keizo Kioku

 

徐冰《とんぼの眼》2017年 ヴィデオ、ライブ配信サイトで公開されている監視カメラ映像からの抜き出し(81分) ©Xu Bing Studio Courtesy of the Artist

 

トレヴァー・パグレン《米国家安全保障局(NSA)が盗聴している光ファイバーケーブルの上陸地点、米国ニューヨーク州マスティックビーチ》2015年 Cプリント、121.9×152.4cm 作家蔵 ©Trevor Paglen Courtesy of the artist; Altman Siegel, San Francisco; and Pace Gallery, New York

 

ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチ《ミッション完了:ベランシージ》2019年 「遠距離現在 Universal / Remote」 国立新美術館 2024年 展示風景 Photo by Keizo Kioku 

 

地主麻衣子《遠いデュエット》2016年 HDヴィデオ(40分) ©Maiko Jinushi Courtesy of HAGIWARA PROJECTS

 

「リモート」化する個人

コロナ禍の間もこのグローバル社会は世界規模で拡大を続ける。しかし不思議なことに、逆説的に、個人のリモート化は進行してしまう。オンラインで個人と個人が結びつき、家を出ずして国境をまたぐことは、もはや当たり前のことになっている。コロナ禍がリモート化を加速させたが、今後一層、ますます地理的な距離感は消滅していくだろう。縁もない、実際に見ることも訪れることもない世界へ向けて黙々と労働する姿は、どこか孤独で、底抜けの寂しさを感じさせる。それは、人間の心に大きな影響を与えるのではないだろうか。「非接触」を前提に「遠隔化」される個人の働き方と居住についてティナ・エングホフチャ・ジェミンエヴァン・ロス木浦奈津子の作品を通して考える。地主麻衣子の作品はこの2つのテーマを横断するのもでもある。

 

ティナ・エングホフ《心当たりあるご親族へ――男性、1954年生まれ、自宅にて死去、2003年2月14日発見》2004年 アーカイバルピグメントプリント、120×160×5cm 作家蔵 ©Tina Enghoff Courtesy of the Artist

 

チャ・ジェミン《迷宮とクロマキー》2013年 シングルチャンネル・HDヴィデオ(カラー、サウンド、15分) 作家蔵 ©Jeamin Cha Courtesy of the Artist

 

エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》2023年  「遠距離現在 Universal / Remote」 国立新美術館 2024年 展示風景 Photo by Keizo Kioku

 

木浦奈津子《うみ》《こうえん》《やま》 「遠距離現在 Universal / Remote」 国立新美術館 2024年 展示風景 Photo by Keizo Kioku

 

 

本展は、日に日に忘却の彼方へ遠ざかる 、ほんの少し前の3年間のパンデミックの時期を、現代美術を通して振り返る展覧会である。

今の時代を生きる私たちにとって、「遠さ」を感じることは、困難である。だが、その地理的な「遠さ」は決して打ち消すことはできない。コロナ禍では2メートルという距離が設定されたが、それは「飛沫が届かない遠さ」を確保するためだった。あるいは、入国制限や渡航禁止によって、国家間の「遠さ」が露呈した。停滞した物流は、地球に住む私たちに「遠さ」の認識を改めて突きつけた。ふだんは見えなかっただけ、意識にのぼらなかっただけで、もともと「遠かった」ことをこのパンデミックの時に認識したのだった。リモートワークの定着によって「遠さ」を隠蔽、解消することに成功はしたし、コロナが沈静化すると、早くも「遠さ」の感覚を我々は忘れてしまった。

タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、常に遠くあり続ける現在を忘れないために造語された。本来は万能リモコンを意味するUniversal Remoteを、スラッシュで分断することで、その「万能性」にくさびを打ち、ユニバーサル(世界)とリモート(遠隔、非対面)を露呈させる。コロナ禍を経て私たちが認識した「遠さ」の感覚、また、今なお遠くにそれぞれが生きていることを認識するのは重要なのではないかという思いが、この題名に込められている。

 

 

画像クレジット
ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチ《ミッション完了:ベランシージ》2019年
3チャンネル・HDヴィデオ(カラー、サウンド)、展示空間(47分23秒)
ノイエ・ベルリナー・クンストフェライン(n.b.k.)での展示風景
ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチの共同制作
作家蔵
Courtesy the artists; Neuer Berliner Kunstverein, Berlin; Andrew Kreps Gallery, New York; Esther Schipper, Berlin
Photo © Neuer Berliner Kunstverein (n.b.k.) / Jens Ziehe

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