ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチの共同制作《ミッション完了:ベランシージ》2019年 展示風景:「ヒト・シュタイエル」ノイエ・ベルリナー・クンストフェライン(n.b.k.)、2019年 Courtesy the artists; Neuer Berliner Kunstverein, Berlin; Andrew Kreps Gallery, New York; Esther Schipper, Berlin. Photo © Neuer Berliner Kunstverein (n.b.k.) / Jens Ziehe
遠距離現在 Universal / Remote
2023年10月7日(土)―12月17日(日)
熊本市現代美術館
https://www.camk.jp/
開館時間:10:00-20:00 入場は閉館30分前まで
休館日:火
学芸担当:池澤茉莉(熊本市現代美術館学芸員)
出品作家:井田大介、徐冰[シュ・ビン]、トレヴァー・パグレン、ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ+ヒト・シュタイエル+ミロス・トラキロヴィチ、地主麻衣子、ティナ・エングホフ、チャ・ジェミン、エヴァン・ロス、木浦奈津子
展覧会URL:https://www.camk.jp/exhibition/universalremote/
熊本市現代美術館では、コロナ禍の日常生活で浮き彫りになった社会/経済全般における諸問題を、国内外で活動するアーティストの作品を通して考察する展覧会「遠距離現在 Universal / Remote」を開催する。
人、資本、情報が世界規模で移動する20世紀後半以降の社会は、2010年代に入り本格化したスマートデバイスの普及とともに、オーバーツーリズム、生産コストと環境負担の途上国への転嫁、情報格差など、グローバルな移動に伴う種々様々な問題を抱えたまま2020年を迎えた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらしたパンデミックは、医療不足や不安定な雇用など、既に存在していた諸問題を明らかにすることとなった。本展は、ソーシャル・ディスタンシングや非対面コミュニケーションといったコロナ禍社会の条件はもちろんのこと、資本と情報が世界規模で移動する今世紀の状況を踏まえて、タイトルを「遠距離現在」と名づけ、全世界「Pan-」(「全…」「汎…」の意)と、非対面の遠隔「Remote」のふたつの視点からグローバル資本主義やデジタル化社会を問い直す。
井田大介《誰が為に鐘は鳴る》2021年 © Daisuke Ida, courtesy of the artist
井田大介(1987年鳥取県生まれ)は、彫刻という表現形式を問いながら、彫刻・映像・3DCGなど多様なメディアを用いて、目には見えない現代の社会の構造や、そこで生きる人々の意識や欲望を視覚化している。2016年からは世界中の人々がインターネット上にアップロードしている匿名的な画像を素材として、インターネット以降のモノや身体の在り方を彫刻する「Photo Sculpture」を継続的に制作。本展では、3点の映像作品を再構成し、「飛行」「上昇」「落下」のメタファーでコロナ禍社会の可視化を試みる。
徐冰(1955年中国、重慶生まれ)は、実在しない「偽漢字」や漢字のように見える英文「新英文書法」の創作、絵文字と記号のみで書かれた小説「地書」、廃材を用いたインスタレーション作品などで知られる。本展では、徐の初の映像作品《とんぼの眼》(2017)を上映。チンティンという女性と、彼女に片思いする男性、クー・ファンの切ないラブストーリーが語られる本作は、徐と彼の制作チームがネット上に公開されている監視カメラの映像から、約11,000時間分をダウンロードし、若い男女を主人公にした物語に合わせて編集して制作された。
トレヴァー・パグレン(1974年アメリカ合衆国メリーランド州生まれ)は、地理情報と軍事機密、マシンビジョン、監視と通信システム、AIによる自動生成イメージなどをテーマに、写真、映像、立体作品を制作している。本展では、大陸間を海底でつなぐ通信ケーブルの上陸地点の風景を撮影した〈上陸地点〉シリーズ、海に敷設されているケーブルを撮影した〈海底ケーブル〉シリーズ、パグレンが設計したAIエンジンが生成したイメージによる〈幻覚〉シリーズの3シリーズを展開する。
ヒト・シュタイエル(1966年ドイツ、ミュンヘン生まれ)と、シュタイエルにベルリン芸術大学で学んだジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ(1983年ジョージア、クタイシ生まれ)とミロス・トラキロヴィチ(1989年ボスニア・ヘルツェゴビナ、トゥズラ生まれ)の3人は、2019年に共同制作による《ミッション完了:ベランシージ》を、ノイエ・ベルリナー・クンストフェラインで開催されたシュタイエルの個展でレクチャー・パフォーマンスとして発表し、その後、インスタレーションとして再構成した。ファッションをキーワードに、1989年のベルリンの壁崩壊からの30年間の、格差という風景を永遠に見せ続ける資本主義の堂々巡りの旅を説く同作を本展でも発表する。
トレヴァー・パグレン《米国家安全保障局(NSA)が盗聴している光ファイバーケーブルの上陸地点、米国ニューヨーク州マスティックビーチ》2015年 © Trevor Paglen, courtesy of the artist; Altman Siegel, San Francisco; Pace Gallery, New York
地主麻衣子《遠いデュエット》2016年 © Maiko Jinushi, courtesy of HAGIWARA PROJECTS
地主麻衣子(1984年神奈川県生まれ)は、映像、インスタレーション、パフォーマンス、テキストなどを総合的に組み合わせた作品を発表している。近年発表した書籍『葬いとカメラ』(2021)には、死と葬いを映像で記録することをテーマにした文化人類学者金セッピョルとの対話が収録されている。本展で発表する《遠いデュエット》は、自身が「心の恋人」とする詩人・小説家のロベルト・ボラーニョ(1951–2003)にあてた手紙のような、5章からなる約40分の映像作品。
ティナ・エングホフ(1957年デンマーク生まれ)は、記録写真における表象と可視性の問題を扱う作品を制作。主に北欧における植民地主義や福祉国家の制度的暴力、アーカイブの権力構造といったテーマに関心を持ち、コミュニティへの参加や共同制作、アート・アクティヴィズムを中心としたプロジェクトを実践している。本展では、誰にも看取られることなく一人きりでこの世を去った人の部屋を撮影したシリーズ〈心当たりあるご親族へ〉を発表する。
チャ・ジェミン(1986年韓国生まれ)は、映像、パフォーマンス、インスタレーションから執筆活動まで幅広い表現を展開。身体と心理や感情との関係性を扱い、表現しがたい経験を持つ個人に焦点を当てた作品や、技術の進歩によって縮小していく未知の領域を保存することへの関心に基づいた作品を発表している。本展で発表する映像作品《迷宮とクロマキー》は、「ネット強国」を自負する韓国社会の片隅で、「配線」という目に見えないインフラを作る作業者に着目し、大量の情報を支える個人の労働を可視化する。
エヴァン・ロス(1978年アメリカ合衆国ミシガン州生まれ)は、絵画や彫刻からウェブサイトまで多様なメディアにおける芸術制作へのハッカーの哲学の応用を試みている。共同開発した「The EyeWriter」は、身体が不自由なアーティストが眼球の動きのみで絵が描けるよう開発した装置で、2009年に第14回メディアアート芸術祭の優秀賞を受賞している。本展には、自身のコンピューターのキャッシュに蓄積された画像を用いた没入型のインスタレーション《あなたが生まれてから》を発表する。
木浦奈津子(1985年鹿児島県生まれ)は、一貫して風景、特に日常の景色の油絵を描き続けている。その作品は、近郊の風景を撮影した写真を基に、単純で抽象的でありながらも、見たときの風景そのままを内包した画面を特徴とする。本展では、木浦自身が壁面いっぱいを使って、大小さまざまな風景で組み合わせた展示に取り組む。
ティナ・エングホフ《心当たりあるご親族へ――男性、1954年生まれ、自宅にて死去、2003年2月14日発見》2004年 © Tina Enghoff, courtesy of the artist
関連イベント
オープニングトーク
2023年10月7日(土)14:00-15:30
講師:尹志慧[ユン・ジヘ](国立新美術館特定研究員)
会場:熊本市現代美術館 ホームギャラリー
定員:100名(事前申込不要)
https://www.camk.jp/exhibition-event/10877/
ワークショップ「見えないを埋める」①
2023年10月21日(土)14:00-15:30
講師:熊本市現代美術館学芸員
会場:熊本市現代美術館 展覧会会場ほか
定員:15名(事前申込不要)
※要展覧会チケット(中学生以下は無料)
https://www.camk.jp/exhibition-event/10878/
ワークショップ「見えないを埋める」②
2023年11月11日(土)14:00-15:30
講師:熊本市現代美術館学芸員
会場:熊本市現代美術館 展覧会会場ほか
定員:15名(事前申込不要)
対象:中・高校生
※要展覧会チケット(中学生以下は無料)
https://www.camk.jp/exhibition-event/11097/
ワークショップ「見えないを埋める」③
2023年11月25日(土)14:00-15:30
講師:熊本市現代美術館学芸員
会場:熊本市現代美術館 展覧会会場ほか
定員:15名(事前申込不要)
対象:中・高校生
※要展覧会チケット(中学生以下は無料)
https://www.camk.jp/exhibition-event/11098/
巡回情報
遠距離現在 Universal / Remote
2024年3月6日(水)―6月3日(月)
国立新美術館 企画展示室1E
https://www.nact.jp/
遠距離現在 Universal / Remote
2024年6月29日(土)―9月1日(日)
広島市現代美術館
https://www.hiroshima-moca.jp/