「JUMP アーティスト+キュレーター国際協働プログラム」、海外3都市での展示概要を発表

 

2026年10月15日、国立アートリサーチセンター(NCAR)は、日本の若手アーティストとキュレーターの国際的な活躍を目的とする育成プログラム「JUMP アーティスト+キュレーター国際協働プログラム」の海外3都市(シドニー、リスボン、ロサンゼルス)での展示概要を発表した。日本のアーティストとキュレーター3組計7名が、現地の美術館と約1年半にわたり協働してきたプロジェクトの成果展示を、2026年11月より順次開催する。

JUMPは、日本の新進アーティストと若手キュレーターの国際的な活躍を支援する育成プログラムとして2024年度にスタートした。海外3都市の美術館の協力のもと、3組のアーティストとキュレーターが、複数回にわたる海外滞在を通じてリサーチを行ない、それに基づく作品を制作し、現地の美術館で展示を行なう。育成対象となるキュレーターは公募で選出され、国際経験や語学力などは不問としながらも、選出後は海外美術館との協働を通じて国際的な経験やネットワークを広げながら、各地でのリサーチに基づく企画・作品制作に取り組んできた。2026年7月には「Open Talk Meet Up!」と題して、これまでのリサーチの様子や海外美術館との協働、展示のコンセプトなどの報告会を行なった。

 

遠藤薫 Courtesy of the artist遠藤薫 Courtesy of the artist

 

2026年11月7日(土)より、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(オーストラリア・シドニー)のアジアランタンギャラリーにおいて、アーティストの遠藤薫(1989年大阪府生まれ)と滋賀県立美術館主任学芸員の荒井保洋(1986年福岡県生まれ)による展示「Sleeping in the 22nd Century(二十二世紀の睡眠法)」が開幕する。本展に向けて、遠藤と荒井は2026年4月にシドニー市内各所をめぐったほか、オーストラリア北部・ダーウィンを訪問し、アボリジナルの人々の語りに登場する「ライトニングマン」や「レインボーサーペント」についてリサーチした。ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館には、アボリジナルの人々が受け継いできた文化に対して盗用を防ぐための厳しいルールがあり、先住民文化との関わり方については、アボリジナルのキュレーターと協議しながら進められた。遠藤は当初、国際芸術祭「あいち2022」で発表した《羊と眠る》のような、羊をモチーフとした展覧会を構想していたが、オーストラリアの厳しい検疫体制や、同館の規則上、有機物の使用が難しいことから、同作の背景にもあった夢を軸とする展示へと変更した。本展は、オーストラリア滞在中に経験した一連の予知夢に応答して制作されたサイトスペシフィックなインスタレーションで、和紙に描いた水墨画、テキスタイル、映像を組み合わせ、それぞれが蛇、水、虹にまつわる古代の神話や図像、龍神の伝説や古代日本の文字に基づいている。会場には遠藤の夢日記が随所に現れ、遠藤はその意味を解釈するために人工知能を用いる。そこではAIが無意識の延長として機能し、直観、記憶、想像力が媒介され、変容していく。

 

青柳菜摘 Courtesy of the artist青柳菜摘 Courtesy of the artist

 

11月28日(土)からは、CAM – グルベンキアン・モダンアートセンター(ポルトガル・リスボン)のサウンドルームとスタジオにて、アーティストの青柳菜摘(1990年東京都生まれ)と山口情報芸術センター[YCAM]キュレーターの見留さやか(1986年生まれ)による展示「Sanitary Fables(衛生寓話)」が続く。青柳が初めてポルトガルを訪れた際に行なったフィールドワークで、歴史的な貯水池との出会いと古い洗濯場の静けさが公衆衛生への関心をかき立て、本展の構想につながった。2026年4月にCAMのディレクターが代わり、サブ会場として使用するはずだった小さな展示室しか使えなくなったことから、ふたりは6月末にリスボンに滞在して展示プランを練り直し、洗濯場や書店、アートスペースなどでリスボンのまちの人々と交流を重ねた。本展は、リスボンの下水道と公衆衛生のインフラを調査し、都市を流れるその流路をたどるビデオ・インスタレーションとなる。青柳は、きれいと汚いを分ける衛生という概念は社会に分断を生み出してしまうかもしれないとし、「衛生」がつくってしまった分断を「寓話」という形式で崩すことを試みる。ここで「衛生」は自らの生命を守る行為として理解され、本作は寓話と人間ならざるものの視点を通した現代社会の再発見を提案する。作品は美術館内にとどまらず、公共洗濯場を含むリスボン市内のさまざまな場所にまたがり、来場者は地図を手にリスボンを探索しながら、作品がその経路に織り込む寓話を見つけていく。

 

MES Courtesy of the artistMES Courtesy of the artist

 

さらに2027年2月25日(木)からは、ロサンゼルス現代美術館(アメリカ・ロサンゼルス)のゲフェン・コンテンポラリーで、アーティストデュオ、MESの新井健(1991年千葉県生まれ)、谷川果菜絵(1991年北海道生まれ)と高知県立美術館主任学芸員の塚本麻莉(1989年大阪府生まれ)による展示「セイ/SE-I/SAY」が開催される。2025年のリサーチでは、第二次世界大戦中に日系アメリカ人が収容されたマンザナー強制収容所を訪問し、2026年2月の1カ月間の滞在では、ロサンゼルスにある日系アメリカ人博物館で行なわれた日系人の「追憶の日」のセレモニーに参加した。こうしたリサーチを重ね、MESと塚本は、高知にもゆかりのあるジャーナリストで、大逆事件によって処刑された幸徳秋水をモチーフにしたパフォーマンス形式のインスタレーションを展示・上演する。幸徳は1905年に渡米し、現地のアナキストらと交流した人物で、大逆事件の判決に対してはアメリカ合衆国でも抗議運動が起こった。本作は、20世紀初頭の日米のアナキストたちによる、国境を越えた連帯の歴史を参照する新作で、幸徳らの言葉、MES自身の声、身体の熱を映し出すサーモグラフィー映像、紙吹雪が舞う祝祭的な演出を通じて、連帯と抵抗の歴史を現代に呼び起こす。会期中の木曜から日曜の午後の時間帯で連続した4時間もの間、MESのふたりが展示会場でパフォーマンスを通しで行なう。

メンターを務める国立アートリサーチセンターエグゼクティブアドバイザー、森美術館館長の片岡真実は、「長く続くネットワークを構築するためには、共に仕事を成し遂げ、信頼に基づいた人間関係を結ぶことがいちばん」と考え、国際協働を実感する仕組みとしてJUMPをデザインしたと述べ、「この機会に国境も言語の壁も、そして未知の世界への躊躇など、さまざまな境界線を飛び越え、その先に長く続く関係性を育てていただけることを期待しています」とコメントしている。制作プロセスはJUMPウェブサイトで公開されており、海外での展示終了後は、国内3カ所(山口、高知、滋賀)でも作品の展示を予定している。

 

Sleeping in the 22nd Century(二十二世紀の睡眠法)
会期:2026年11月7日(土)–2027年1月31日(日)
会場:ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館 アジアランタンギャラリー(オーストラリア・シドニー)
アーティスト:遠藤薫
キュレーター:荒井保洋(滋賀県立美術館 主任学芸員)
https://www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/exhibitions/kaori-endo/

Sanitary Fables(衛生寓話)
会期:2026年11月28日(土)–2027年1月4日(月)※スタジオは2026年11月28日(土)–30日(月)
会場:CAM – グルベンキアン・モダンアートセンター サウンドルーム、スタジオ(ポルトガル・リスボン)
アーティスト:青柳菜摘
キュレーター:見留さやか(山口情報芸術センター[YCAM]キュレーター)
https://gulbenkian.pt/cam/en/agenda/natsumi-aoyagi-sanitary-fables/

セイ/SE-I/SAY
会期:2027年2月25日(木)–3月7日(日)
会場:ロサンゼルス現代美術館 ゲフェン・コンテンポラリー(アメリカ・ロサンゼルス)
アーティスト:MES(新井健、谷川果菜絵)
キュレーター:塚本麻莉(高知県立美術館 主任学芸員)
https://www.moca.org/events/mes-se-i-say

主催:文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会、独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター

 

JUMP アーティスト+キュレーター国際協働プログラム:https://jump-ncar.artmuseums.go.jp/
国立アートリサーチセンター(NCAR):https://ncar.artmuseums.go.jp/

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