ハッセルブラッド国際写真賞2026

Zanele Muholi, Bester I, Mayotte (2015) © Zanele Muholi. Courtesy Yancey Richardson, New York and Southern Guild, Cape Town.

 

2026年3月6日、ハッセルブラッド財団は、写真界の発展に多大なる功績を残した写真家、アーティストを表彰するハッセルブラッド国際写真賞を、南アフリカをはじめ世界各地の黒人LGBTQIA+コミュニティの存在、尊厳、その深遠さを讃えるポートレイトを中心とした表現が国際的に知られるザネレ・ムホリに授賞すると発表した。ムホリには、賞金200万スウェーデンクローネ(約3450万円)と受賞記念の金メダルに加え、ハッセルブラッド社製のカメラが授与される。なお、2026年10月10日から2027年4月4日にかけて、スウェーデンのヨーテボリにあるハッセルブラッドセンターにて受賞記念展を開催。開幕前日の10月9日には同会場にて授賞式、10月13日にはストックホルム近代美術館にてアーティストトークが行なわれる予定。

ハッセルブラッド財団は、南アフリカ共和国がアパルトヘイト体制下にあった1972年に生まれたザネレ・ムホリに、組織的暴力に抗いながら語ることの重要性への確固たる意識を認めると同時に、構図、色彩、色調、照明などの技術や知識を巧みに駆使した写真を通じて、強さと弱さを兼ね備えた熟達した視覚言語を生み出してきたと言及する。なかでもポートレイトは、堂々とした眼差しでまっすぐにレンズを見つめ、偏見や差別に異議を唱えながら、オルタナティブなビジュアル・カルチャーを生み出そうとする人々をしっかりと捉えていると分析。また、アクティビズムやコミュニティにおける活動も、政治的な切迫感と熟達した写真技術を結びつけるムホリの制作に欠かせないものとして、ムホリの存在をグローバルなクィア・ビジュアル・カルチャーの中心的存在のひとりに位置付けると評価した。同財団CEOのカッレ・サナーも、「写真とアクティビズムを融合し、人権意識を核とする説得力のある優れた作品を制作している」と賞賛した。

 

Zanele Muholi, Bona, Charlottesville (2015) © Zanele Muholi. Courtesy Yancey Richardson, New York and Southern Guild, Cape Town.
Zanele Muholi, Busi Sigasa, Braamfontein, Johannesburg (2006) © Zanele Muholi. Courtesy Yancey Richardson, New York and Southern Guild, Cape Town.

 

ザネレ・ムホリは、1972年南アフリカ共和国ダーバン市ウムラジ地区生まれ、現在はヨハネスブルグとケープタウンを拠点に活動する。同じく南アフリカ共和国出身の写真家で、ハッセルブラッド国際写真賞歴代受賞者のひとり、デイヴィッド・ゴールドブラットがヨハネスブルグで立ち上げた「マーケット・フォト・ワークショップ(Market Photo Workshop)」で写真を学び、2009年にトロント州立大学(旧ライアソン大学)のドキュメンタリー・メディア専攻にて修士号(MFA)を取得。これまでに第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ南アフリカ共和国館(2013)や第59回ヴェネツィア・ビエンナーレ「May You Live in Interesting Times」(2019)、シドニー・ビエンナーレ2020、釜山ビエンナーレ2016などに参加。近年はサンフランシスコ近代美術館、ヨーロッパ写真美術館(パリ)、テート・モダン、ブエノスアイレス近代美術館、セラルヴェス美術館(ポルト)など、世界各地の主要美術館でも個展が相次いで開催されている。

ムホリの実践は、ビジュアル・アクティビズム、なかでもブラック・クィアの人々の可視性、尊厳、敬意を求める不断の闘争における写真の使用法において新たな境地を切り拓いた。特に出身地である南アフリカにおけるブラック・クィアの人々の黙殺や差別に対する果敢な挑戦を積み重ねてきた。組織的暴力への抵抗として構想された代表作〈Faces and Phases〉(2006–)は、20年目を迎える長期的なプロジェクト。レズビアンの人々や性差別に基づくヘイトクライムの生存者を撮影した〈Only half the Picture〉(2003–2004)、トランス女性を撮影した〈Brave Beauties〉(2014–)といったシリーズも発表してきた。2018年以降は、セルフポートレイトのシリーズ〈Somnyama Ngonyama (Hail the Dark Lioness)〉を通じて、古典的なポートレイトやファッション、家事労働、人類学的イメージといった視覚言語を利用して、ビジュアル・カルチャーにおける黒人の身体に対する固定観念や歴史的表象を問い直し、アイデンティティやエンパワーメントをめぐる視覚戦略の再検討を試みている。

 

Zanele Muholi, Lerato Dumse, KwaThema, Springs, Johannesburg (2010) © Zanele Muholi. Courtesy Yancey Richardson, New York and Southern Guild, Cape Town.
Zanele Muholi, Lungile Cleo Dladla, KwaThema Community Hall, Springs, Johannesburg (2011) © Zanele Muholi. Courtesy Yancey Richardson, New York and Southern Guild, Cape Town.

 

集団的なエンパワーメントや知識構築に対する献身的な活動も、ムホリの制作活動を考える上で欠かすことができない。2009年には、クィアおよびビジュアル・アクティビズムに特化したメディアとして「Inkanyiso」、2022年には、さまざまな分野で活動する新進アーティストの支援や育成を目的とする「Muholi Art Institute」を設立。ムホリの作品は、人種、表象、アクティビズム、人権をめぐる議論の中核を為し、新しい世代のクィアや黒人の写真家の礎となり、新進アーティストの政治的、倫理的な問題、地域社会への取り組みを後押しするものとなっている。

ムホリは受賞に際し、「この賞は私だけのものではありません。私を信じて自らの物語を託してくれた数々の顔、名前、過去と共にあります。黒人LGBTQIA+コミュニティがありのままに生きるために闘い続けるウムラジ地区を含むあらゆる場所において、この受賞は、私たちの存在が、統計でも影でもなく、ひとりの人間として見られるに値することを証明しています。長年に渡り、私は可視性と抵抗に関する作品を制作してきました。「我々は知らなかったのだ」などと誰も口にすることができぬよう、アーカイブを構築してきました。抹消された人々、変わらずここにいる人々、自らを尊厳とともに見ることができないでいる人々、そうした人々からなるコミュニティの代表として、この度の栄誉この度の栄誉を受け取りたいと思います」とコメントを寄せた。

 

Zanele Muholi, Miss D’vine I (2007) © Zanele Muholi. Courtesy Yancey Richardson, New York and Southern Guild, Cape Town.
Zanele Muholi, Yaya Mavundla I, Parktown, Johannesburg (2017) © Zanele Muholi. Courtesy Yancey Richardson, New York and Southern Guild, Cape Town.

 

ハッセルブラッド国際写真賞は、1980年に故ヴィクター・ハッセルブラッドの遺言の下に、写真表現における先駆的な試みや後続世代に影響を与えた優れた写真家の業績を讃えるために創設された。以来、エルナ・ハッセルブラッドが他界した1983年と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を被った2021年を除き、毎年開催されており、過去には濱谷浩(1987)、杉本博司(2001)、石内都(2014)、森山大道(2019)といった日本出身の写真家も受賞している。なお、ハッセルブラッド国際写真賞2026の選考は、審査委員長のアンナ・プラナス(パリフォト アーティスティックディレクター)、ヨハン・ショーストレム(ヨーテボリ美術館キュレーター)、オルレミ・C・オナバンジョ(ニューヨーク近代美術館写真部門キュレーター)、ラケル・ビリャル゠ペレス(インディペンデント・リサーチャー/ライター/キュレーター/エジンバラ大学エジンバラ芸術校博士候補生)、ショエア・マヴリアン(Photographers’ Gallery ディレクター)、タワンダ・アッピア(スコーネ・コンストフェレニン キュレーター)が務めた。

 

ハッセルブラッド財団https://www.hasselbladfoundation.org/

 


Zanele Muholi – 2026 Hasselblad Award Laureate from Hasselblad Foundation YouTube channel

 


過去10年の受賞者
2025年|ソフィー・リステルユベール
2024年|イングリッド・ポラード
2023年|キャリー・メイ・ウィームス
2022年|ダヤニータ・シン
2021年|開催中止
2020年|アルフレッド・ジャー
2019年|森山大道
2018年|オスカー・ムニョス
2017年|リネケ・ダイクストラ

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