ハッセルブラッド国際写真賞2023


Carrie Mae Weems, Untitled (Woman and Daughter with Markup), from the series The Kitchen Table (1990) © Carrie Mae Weems. Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery, New York.

 

2023年3月8日、ハッセルブラッド財団は、写真界の発展に多大なる功績を残した写真家を表彰するハッセルブラッド国際写真賞を、長きにわたり黒人女性の表象の問題を扱い、性差別や人種差別に抗する活動を続けてきたキャリー・メイ・ウィームスに授賞すると発表した。授賞式は、受賞記念展のオープニングとなる10月13日にヨーテボリのハッセルブラッドセンターで開催。受賞記念の金メダルと賞金200万スウェーデンクローネに加え、ハッセルブラッド社製カメラが、ウィームスに授与される。

キャリー・メイ・ウィームスは、写真を中心に決然とした視覚表現や倫理を伴った作品を通じて、人種平等や人権を訴える闘争など、現代社会が抱える重要な問題の数々を数十年前から見越して取り組んできた。この度の受賞にあたって、「数々の文化制度が抜本的な変化を遂げている中で、ハッセルブラッド国際写真賞をアフリカ系アメリカ人女性が初めて受賞することについて、「ようやく」と思う方がいらっしゃるかもしれません。それでもやはり、この度の受賞は私にとって言葉にならないものです。この深い感謝の気持ちをどのように伝えればよいのでしょうか。歴史に名だたる写真家が並ぶリストに、私の家族の名前が刻まれることはかけがえのない栄誉です。評価されるということは、社会の片隅に光を当て、恩寵と謙遜を以て前方を照らすという自分自身との約束、写真界との約束を果たしていく継続的な責任を伴うものです。この度の名誉をハッセルブラッド財団と審査員に感謝します」と喜びの言葉を語った。

審査委員長を務めたジョシュア・チュアンは、「世界が認識するまでに時間を要したとはいえ、約40年前にキャリー・メイ・ウィームスが写真界に現れたとき、彼女の作品は瞬く間に象徴的なものになりました。それはウィームスの想像力が直感的、予測不可能な形で発展するにつれて、より重要なものになっていきました」と、その長きにわたる活動を高く評価した。ハッセルブラッド財団のクリスティーナ・バックマンは、「キャリー・メイ・ウィームスは、彼女の活動領域における象徴的な存在です。40年間にわたって、その個人的かつ政治的な作品は、若い世代の写真家、特に女性の写真家に影響を与えてきました。彼女が本年度のハッセルブラッド国際写真賞を受賞することを喜ばしく思っております」と、その活動を讃えた。

 


Carrie Mae Weems, Untitled (Ashtray), from the series American Icons (1988–1989) © Carrie Mae Weems. Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery, New York.


Carrie Mae Weems, Woman in White, from the series Sea Islands (1991–1992) © Carrie Mae Weems. Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery, New York.

 

キャリー・メイ・ウィームスは、1953年にアメリカ合衆国南部、オレゴン州ポートランドの奴隷制度後の小作人の家系に生まれる。現在はニューヨーク州シラキュース在住。高校卒業後はモダンダンスを学ぶためにサンフランシスコに移住し、生活費を稼ぐために働いた縫製工場で労働組合を組織、社会運動にも積極的に関わる。21歳の誕生日プレゼントに初めてカメラを手にするが、当初は表現よりもむしろ運動のための道具として使用していた。その後、学部時代に友人や家族など身のまわりの人々を撮影した初期の代表作《Family Pictures and Stories》(1978)を制作、28歳で学士号、31歳で修士号を取得する。

主に自分が撮影した写真による作品を発表しているが、文化人類学の表象における暴力について言及した《From Here I Saw What Happened and I Cried》(1995-96)など、時にアーカイブに基づいた作品も制作する。自分自身を画面に登場させるパフォーマティブかつ感情移入的なアプローチを特徴のひとつに、黒人女性の主体を、特定の歴史的文脈において具現化し、讃えるだけでなく、それ自体が時代を超えて存在するテーマであることを示してきた。キッチンを舞台に黒人女性の人生の物語を展開した《Kitchen Table Series》(1990)はその初期の一例。以降も《Not Manet’s Type》(1997)などを通じて、継続して黒人女性の表象の問題を扱い、《Roaming》(2006)や《Museums》(2006)では、ウィームス自身が黒い服をまとった人物として、都市空間にたたずむ姿を見せている。そのほか、《Slow Fade to Black》(2010-11)では、意図的にぼけたイメージとしてアフリカ系アメリカ人女性の肖像により、彼女たちを称賛するとともに、彼女たちの大半が不可視化されていることに言及。《Colored People》(1989-90)では、色彩や伝統的な美、社会的価値に対する批判的検討に取り組んだ。

また、レイシズムやアフリカ系アメリカ人の経験といったテーマを探究するウィームスの作品には、政治的な主題を扱ったものも多く、《Sea Island Series》(1991-92)、《Slave Coast》(1993)、《Africa》(1993)などに見られるように、継続的に奴隷制の悲惨な歴史を調べたり、アフリカン・ディアスポラへの関心を示している。《From Here I Saw What Happened and I Cried》(1995-96)、《The Jefferson Suite》(1999)、《The Hampton Project》(2000)では、美術館やアーカイブに関する詳細な調査を通じて、歴史的なイメージの批判的な再活性化も試みている。さらに、写真をその制作の中心に置きながらも1990年代後半より映像作品にも取り組み、《People of a Darker Hue》(2016)や《Imagine If This Were You》(2016)では、アフリカ系アメリカ人に対する警察の暴力や黒人コミュニティ内の暴力を考察している。

 


Carrie Mae Weems, You Became a Scientific Profile, A Negroid Type, An Anthropological Debate, & A Photographic Subject from the series From Here I Saw What Happened and I Cried (1995–96) © Carrie Mae Weems. Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery, New York.


Carrie Mae Weems, Untitled (Colored People) (1989–1990) © Carrie Mae Weems.
Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery, New York.

 

そのほか、教育者としてもシラキュース大学を含む複数の教育機関で写真を教えており、2002年にはデボラ・ウィリス、ダウード・ベイ、ロニー・グラハムとともにアーティスト・コレクティブ「Social Studies 101」を立ち上げ、シラキュースにて「A man does not become a man by killing another man.」のスローガンを掲げた反暴力キャンペーン「Operation Activate」(2011)を展開した。2012年にはメンターシッププログラム「the Institute of Sound and Style」を設立。2020年、パブリックアート・キャンペーン「Resist COVID Take 6!」を先導し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下でエッセンシャルワーカーへの感謝を伝えるとともに、非白人コミュニティにおける感染症がもたらす不平等な影響を喚起した。

2014年にはグッゲンハイム美術館で黒人女性初の回顧展を実現。2021年にパーク・アヴェニュー・アーモリーの新作委嘱でマルチメディア・インスタレーション《The Shape of Things》を発表し、2022年にはマフレ財団をはじめとするバルセロナ市内の複数の会場で回顧展『A Great Turn in the Possible』を開催した。その後もバーデン=ヴュルテンベルク・クンストフェライン・シュトゥットガルトにて個展『The Evidence of Things Not Seen』(2022)を開催。2023年6月にロンドンのバービカン・アートギャラリー、11月にバーゼル市立美術館での回顧展が控えている。

 

ハッセルブラッド財団https://www.hasselbladfoundation.org/

 


Carrie Mae Weems, Slow Fade to Black (Dinah Washington) (2009–11) © Carrie Mae Weems. Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery, New York.


Carrie Mae Weems, Queen B (Mary J. Blige) (2018–19) © Carrie Mae Weems. Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery, New York.

 


過去10回の受賞者
2022年|ダヤニータ・シン
2021年|開催中止
2020年|アルフレッド・ジャー
2019年|森山大道
2018年|オスカー・ムニョス
2017年|リネケ・ダイクストラ
2016年|スタン・ダグラス
2015年|ヴォルフガング・ティルマンス
2014年|石内都
2013年|ジョアン・フォンクベルタ

Copyrighted Image