Gridthiya Gaweewong. Photo by Angkrit Ajchariyasophon
2024年12月17日、ニューヨークのバードカレッジ・センター・フォー・キュラトリアル・スタディーズ(以下、CCS Bard)は、キュレーションの発展に貢献した功績を讃えるオードリー・イルマス賞の受賞者に、バンコクのジム・トンプソン・アートセンターのアーティスティック・ディレクターであり、チェンマイのMAIIAM現代美術館のゲスト・キュレーターを務めるクリッティヤー・カーウィーウォンを選出した。カーウィーウォンには2025年4月7日にニューヨークのチェルシー・ピアーズにあるライトハウスで開かれる授賞式で賞金25,000ドル(約392万円)が授与される。
同賞は、現代美術やキュラトリアル・スタディーズにおける世界有数の研究機関として知られるCCS Bardが、1998年に設立(2012年よりオードリー・イルマスの名を冠した現名称)。これまでにハラルド・ゼーマンをはじめ、カスパー・ケーニヒ、キャシー・ハルブライヒ、オクウィ・エンヴェゾー、先のヴェネツィア・ビエンナーレのアーティスティック・ディレクターを務めたアドリアーノ・ペドロサなど、錚々たるメンバーが受賞してきた。
クリッティヤー・カーウィーウォン(1964年チェンライ生まれ)は、その長いキャリアを通じて、タイの現代美術シーンの確立や同時代に活動するアーティストの支援に取り組むとともに、冷戦以降、主にタイや東南アジアのアーティストが直面した社会変革を扱うためのキュレーションの手法を開発してきた。CCS Bardのエグゼクティブ・ディレクターのトム・エクルズは、制度的なナラティブを覆し、アーティスト主導や個人的な視点を重視するカーウィーウォンのアプローチがキュレーションという分野に革新的な貢献をもたらしたと、オードリー・イルマス賞の授賞理由を挙げている。
カーウィーウォンは、1996年にアメリカ合衆国のシカゴ美術館附属美術大学で修士号を取得。同年帰国後にタイ中部のパナットニコムの難民キャンプで英語教師および司書として活動、また、モンティエン・ブンマー、カモン・パオサワット、アピチャッポン・ウィーラセタクンとともに非営利の実験的なアートスペース「Project 304」(1996-2003)をバンコクに設立した。以降、主な展覧会企画(共同企画を含む)に「アンダー・コンストラクション─アジア美術の新世代」(国際交流基金フォーラム、東京オペラシティアートギャラリー、2002-2003)、「Politics of fun」(世界文化の家、ベルリン、2005)、オーバーハウゼン国際短編映画祭2009「Unreal Asia」、「Between Utopia and Dystopia」(メキシコ国立自治大学附属現代美術館、2011)、「Missing Links, moving images from Southeast Asia」(ジム・トンプソン・アートセンター、バンコク、2015)、第12回光州ビエンナーレ(2018)。また、カーウィーウォンが手がけたインディペンデント・キュレーターズ・インターナショナル(ICI)による企画展「Apichatpong Weerasethakul: The Serenity in Madness」(2016-2020)は、MAIIAM現代美術館を皮切りにマニラ、香港、シカゴ、オクラホマ、台北を巡回。2023年にはリクリット・ティラヴァニとともにチェンライにタイランド・ビエンナーレを共同設立した。
なお、2023年に創設されたCCS Bardの卒業生を対象としたアルムナイ・アワードの受賞者も同時に発表となり、ニューヨークのハーレム・スタジオ美術館のキュレーター・アット・ラージを務め、現在はバージニア・コモンウェルス大学の現代美術研究所でシニア・キュレーターを務めるアンバー・エッセイヴァが選出された。エッセイヴァには来春の授賞式で賞金10,000ドルが授与される。
CCS Bard Award for Curatorial Excellence:
https://ccs.bard.edu/visit/award-for-curatorial-excellence
歴代受賞者(過去10年分)
2024|マヌエル・ボルハ゠ヴィレル
2023|アドリアーノ・ペドロサ
2022|ヴァレリー・カッセル・オリヴァー
2021|中止
2020|コーニー・バトラー
2019|キャロライン・クリストフ゠バカルギエフ
2018|リア・ガンジターノ
2017|ニコラス・セロータ
2016|テルマ・ゴールデン
2015|クリスティン・トーメ、マーサ・ウィルソン