イメージフォーラム・フェスティバル2019、全上映作品決定


近田春夫

 

2019年7月29日、幅広い映像表現を紹介する日本有数の映像祭として知られるイメージフォーラム・フェスティバル2019の全上映作品が発表された。本年度は、「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」とともに、エクスペリメンタル映画の新たな可能性をアジアから模索するプログラムや、構造映画の先駆者として知られるジョイス・ウィーランドの特集をはじめとする映像とフェミニズムの関係からも見逃せないプログラムなど、「ラフ&ワイルド」のテーマの下に選ばれた全154作品をシアター・イメージフォーラムとスパイラルホールで上映、展示する。

1987年にはじまり33回目の開催となるイメージフォーラム・フェスティバル2019。「ラフ&ワイルド」をテーマに掲げる本年度は、一見洗練されておらず、既存の評価軸や歴史的文脈で捉えきることができない表現や、最初は周縁的で小さく見える出来事が、時と場所を超えてやがて大きな意味を持つ、そのような可能性に着目する。中心をなすのは、東アジアという視点から改めて映像史および映像文化の現在を捉え直す試みとして、昨年より日本、中国、韓国、台湾の出身または在住作家を対象に拡げた「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」。446作品の応募から選ばれた22作品を5つのプログラムに分けて上映する東京での開催期間中に、キム・ジハ(研究者、映画キュレーター)、束芋(現代美術家)、フランシスカ・プリハーディ(映画祭プログラマー)が最終審査を行ない、9月23日の授賞式で入賞5作品と観客賞を発表する。

「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」に加え、本年度は「アヴァンギャルドを想像する:1960年代台湾における映画の実験」と「アジア・エクスペリメンタル・フィルム・フェスティバル・ミーティング」のふたつの特集上映やシンポジウムを通じて、2000年代以降、新たな作家や映画祭が次々と生まれているアジア地域の多彩な「エクスペリメンタル映画」を改めて捉え直し、新しい映像表現の可能性を模索する。前者の特集では、これまでにまともに顧みられる機会がなく多くが散逸していたが、台湾国際ドキュメンタリー映画祭が数年かけ収集・修復した戒厳令下の60年代台湾で制作された実験映画の数々を上映する。一方、後者の特集では、アジア8カ国がそれぞれの地域で展開する短編映画をそれぞれの視点で紹介する。それぞれ上映後に各国の組織の代表者がティーチ・インを行なうほか、9月20日には3つのテーマでシンポジウムを開催する。

 


ス・ユーシェン『預言者』


キリ・ダレナ『深淵の闇より』

 

日本未発表の優れた作品を上映する「エクスペリメンタル・パノラマ」で特集するのは、ポルトガル。「語りの霊性」のタイトルの下、ミゲル・ゴメスの『アラビアン・ナイト』3部作(2015)に加え、これからが注目される現代ポルトガル映画の作家として、アンドレ・ジル・マタの『時間の木』(2018)、アヤ・コレツキーの『30歳のとき、世界を廻った』(2018)、リタ・アゼヴェード・ゴメスの『ポルトガルの女』(2018)を紹介する。また、歴史的に重要な映像作家にフォーカスを当てる「フィルムメーカーズ・イン・フォーカス」では、1960年代初期より前衛映画の制作を開始し、フィルム、ビデオ、インスタレーションと表現の領域を拡大しながら制作を続ける飯村隆彦を特集。初期の映像詩的な作品からメディア批評を込めたビデオパフォーマンス作品まで主要作品を網羅したプログラムとなる。

 


アヤ・コレツキー『30歳のとき、世界を廻った』


飯村隆彦『くず』

 

映像とフェミニズムの関係を考察する機会となる個別の上映プログラムとして、フェミニズム、ナショナリズム、エコロジーというテーマを、一貫して個人の視点から映画作品に取り込んだ最初期の重要作家で、構造映画の先駆者としても知られるジョイス・ウィーランドを特集。映像表現のみならず絵画やキルティングなど、さまざまな手段を扱ったウィーランドは1971年にカナダの女性として初めてナショナル・ギャラリーで個展を開いてた作家としても知られる同国を代表するアーティスト。また、ドイツのフェミニスト映画の先駆者、ウラ・シュテックルが62年のオーバーハウゼン・マニフェストの中心人物エドガー・ライツとともに制作した反−映画、『ゴミ箱キッドの物語』(1971)や、『去年マリエンバードで』などで知られる女優デルフィーヌ・セイリグとフランスにおけるビデオアートの先駆的存在のキャロル・ロッソプロスの関係を中心に1970年代のフランスのフェミニズム運動を回想するドキュメンタリー『デルフィーヌとキャロル』(監督/カリスト・マクナルティー、2019)も上映。そのほか、ヨハン・ラーフが映画史に残る550本の作品の星空を写したショットのみで構成した『★』(2017)、極彩色のドローイングで展開されるマジック・リアリズム的な物語を特徴とするアニメーションで知られ、2019年6月に逝去したスーザン・ピットの追悼プログラムとして、アート・アニメーションの金字塔的作品『アスパラガス』(1979)を含む4本も上映する。そのほか、本年度のインスタレーションとして、伊藤隆介の新作と油原和記のVR作品がスパイラルに展示される。

なお、イメージフォーラム・フェスティバル2019は、東京開催に続き、11月に名古屋の愛知芸術文化センターで開催される。「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」全作品のほか、「エクスペリメンタル・パノラマ」から『時間の木』と『30歳のとき、世界を廻った』、ジョイス・ウィーランドの特集上映、『ゴミ箱キッドの物語』、『デルフィーヌとキャロル』、「フィルムメーカーズ・イン・フォーカス」の飯村隆彦特集から7作品が上映される。

 

イメージフォーラム・フェスティバル2019
http://www.imageforumfestival.com/2019/pre
東京会場
シアター・イメージフォーラム|2019年9月14日(土)- 9月23日(月)
スパイラルホール|2019年9月20日(土)- 9月23日(月)
名古屋会場
愛知芸術文化センター|2019年11月8日(金)- 11月10日(日)

 


ジョイス・ウィーランド『ウォーターサーク』


エドガー・ライツ+ウラ・シュテックル「ゴミ箱キッドの物語」


カリスト・マクナルティー『デルフィーヌとキャロル』


ヨハン・ラーフ『★』

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