レポート:「中園町ミートアップvol.4 :吉見正孝」

6月13日(月)に、YCAMと市民が協働するアートプロジェクト「meet the artist 2022」の一環として、ゲストと市民が話し合うイベント「中園町ミートアップvol.4:吉見正孝」を開催し終了しました。
今回のゲストは、旧阿東町の廃校を私立図書館「阿東文庫」に生まれ変わらせた吉見正孝さんです。

撮影:谷康弘
設立のきっかけは、廃品回収をしていた吉見さんが、捨てられる大量の本を見かねて譲り受けたことです。本の保管場所に旧亀山小学校の校舎を借り、2008年に開館しました。13万点を超える様々な資料が集められており、その中には山口大学の教員の蔵書や、明治〜昭和初期の教科書などが含まれます。一般的な図書館や書店と違い、寄贈した人ごとでまとめた本棚が多くあることが特徴です。資料の元々の所有者だった人の興味の変遷や、生きた時代の影響が感じ取れるようにと意識されています。来館したことがある人は「本に刻まれた“記憶”がいきいきと立ち昇るような、独特の雰囲気を持つ場所だった」と話しました。今では外国からもお客さんが訪れるような知る人ぞ知るスポットになっています。
そんな阿東文庫がかつて1年ほど休館し、その間吉見さんが、廃業したスーパーの施設を再活用してカレー屋を開いていたことはあまり知られていません。地元野菜を使うことで価格を安くし、阿東に参入した大手コンビニエンスストアの商品に対抗しました。コンビニの儲けは地域に還元されないので、住民が営むお店が賑わう方が阿東の活性化に繋がると考えたのです。ディスカッションの参加者は、メニューの一つにカップ麺があったことを面白がりました。食事内容そのものより、地域の人が寄り合うコミュニティスペースとしての役割が重視されていたようです。カレー屋へ転向した背景には当時、阿東文庫の理解者が見つからないと諦めかけていたという事情もありました。ところがカレー屋に訪れたある母娘から「『阿東文庫』をやめないでほしい」と声をかけられ、地域の人に認知されていたと知り衝撃を受けます。行動で示し続ければ受け入れてくれる人は増えると考え直し、阿東文庫を再開しました。
吉見さんは現在82歳です。阿東文庫のような場所が他の地域にもできてほしいと願っていますが、自分も活動してみようという人はまだ現れていません。75歳の参加者は「“後継者”というと若者がイメージされがちだが、自分たちのような時間とお金に余裕がある世代が、こうした文化の新しい担い手になる可能性を秘めているのでは」と指摘しました。

撮影:谷康弘
「meet the artist 2022」では次回の「中園町ミートアップvol.5:森純平」や「中園町ミートアップvol.6:伊藤洋」をはじめ、さまざまなイベントを準備中です。詳細は随時YCAMのウェブサイトでお知らせします。ぜひチェックしてみてください。プロジェクトメンバーも募集中です。お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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