レポート:「原一男+岩間朝子トークイベント」

5月12日に、特集上映「不知火(しらぬい)を追い続けて」に関連し、上映作品のひとつ「水俣曼荼羅」を手がけた原一男監督と、YCAMが実施中のプロジェクト「食と倫理リサーチ」のコラボレーターで料理人/アーティストの岩間朝子によるトークイベントを開催しました。トークにご参加いただいた皆さまありがとうございました。

撮影:谷康弘

原監督が前回、YCAMに来館したのは前作「れいわ一揆」に関連したトークイベントの時。その時の「必ずここにまた戻ってくる」との言葉通りに戻ってきた原監督。372分に渡る長編ドキュメンタリー「水俣曼荼羅」の上映終了後、本作についてのトークが始まりました。まず、登壇者の岩間から「タイトルに『曼荼羅』とあるので、水俣病全体を俯瞰していることを指しているのかなと考えていた」とコメント。撮影だけで15年かかったという本作の、撮影開始から10年ぐらい経った時にタイトルを考えたという原監督は、「水俣病は患者だけで戦っているわけではない。一連の運動には、当時の報道を見て一緒に立ち上がりたいと思った東京在住の人など、地域外の人も中心となっている。他にも研究者、弁護士、悪役である行政も含め、いろんな人がいて水俣病という一つの宇宙を形成している。そこから曼荼羅を考えた」と応えます。

そして、多くの観客の印象に残る、いくつかの登場人物とのシーンを例に、さまざまな撮影のエピソードが語られていきました。「普通だと聞きづらいことや答えにくいようなプライベートなことも、打ち解けて行くうちに自然と質問することができるようになる。その時の話や雰囲気の流れでいろいろ聞いていくのが、ドキュメンタリーの呼吸の大事なところ。相手が嫌そうな雰囲気であれば、自分は撮影を引き揚げるが、もっと聞いてほしいというニュアンスが見えてくることがある。」と続け、それは原監督の映画制作への信念が顕著に現れた瞬間でした。ほかにも撮影を進める中で、登場人物にどう聞いたら映画的に面白いかを考え続けインタビューするまで3年間も待った話や常識では考えられないようなことを実際に目にした時の話など、時にユーモアを交えながら「我々の先入観を裏切る、そこにドキュメンタリーの面白さがあると思ってこの話をしている」と雄弁に語り続けました。

撮影:谷康弘

その後のトーク参加者からの熱量溢れる質問や感想にも、自身が師と仰ぐ映画監督の今村昌平や浦山桐郎の言葉を交えながら「ドキュメンタリーは人間の感情を描くことがセオリー。感情や心のヒダをカメラに引き出し描くんだ」と応える原監督。本作の上映やトークの際に持参するようにしているという、数々の映画の賞を受賞した時に授与された記念のトロフィーや盾が場内で披露されたあと、次回作についてのテーマが語られ、場内が期待の拍手に包まれる中でトークは終了しました。

原一男監督作品「水俣曼荼羅」は5月15日(日)まで上映、岩間朝子がコラボレーターで参加している展覧会、「食と倫理リサーチ[リサーチ・ショーケース]」は6月12日まで開催しています。この機会にぜひご覧ください。

また、YCAMシネマではひきつづき、さまざまなイベントの関連上映や特集上映に関連したトークイベントを開催していきます。詳細はYCAMのウェブサイトやYCAMシネマの上映スケジュールをご参照ください。

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