レポート:「縛られたプロメテウス」+「アーティストトーク」

10月23日・24日と、アーティスト・小泉明郎によるVRを使った演劇作品「縛られたプロメテウス」の公演を開催し無事終了しました。24日には、小泉本人と美学・表象文化論研究者の星野太によるアーティストトークも開催。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。

撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

本作品では、ヘッドマウントディスプレイを通して視る目の前の光景に、抽象的なアニメーションがオーバーラップします。現実と仮想が重なる中、観客は仮想のオブジェクトに頭を入れたり、歩き回ったりして作品世界を没入していきます。会場では観客が自由に動けるため、いわば観客一人一人がパフォーマーです。アーティストトークでは、これまで様々な場所で公演をおこなってきた中で、小泉の印象に残っている上演として、観客全員が同じ学校の生徒だった公演を挙げました。このとき、他の生徒の姿が見える間はじっと整列したままで、お互いの姿が仮想映像に阻まれて見えなくなると、自由に動き回り始めたそうです。誰かが手を伸ばせば、真似して動く人が増えたり、誰も動かないまま終わったり。その場に居合わせた人次第で、公演は毎回新しい姿を見せます。
機械が映す幻想的な視界に囚われ、虚空を見つめたまま動かなくなる観客も居ます。星野は、「VRを活用した劇でありつつ、VRの怖さや批判のメッセージも含んでいないか?」と小泉に問いました。小泉はこれに対して、VRに対する強い興味を打ち明けました。視覚・聴覚を仮想で埋め尽くし、強い錯覚を引き起こすVRは、人の心を揺り動かします。国のトップを映した映像が、国民という連帯意識をつくったように、映像より強い没入感を持つVRは、新しい大きな概念を生む可能性があります。しかし、最新のテクノロジーがどんな概念をもたらすか、十分に検討する時間が、テクノロジーの発展に追い付かなくなってきていると小泉は語ります。

撮影:塩見浩介

「人体も、細胞分裂や遺伝といった、精密な仕組みに従って動く点では機械とそっくりです。違う所は、仕組みを動かすのが機械の制御か、人の生命力かという所。人の生命力で扱いきれるかどうか突き詰め切れないまま、進化していく機械を身にまとっていくのは、危険な未来を招きかねません」小泉さんは会場に語りかけました。本作は機械と人間が融合した、1つの未来像を垣間見ることができる作品でもあります。イベントが終わった後も場所を変え、小泉さんと星野さんは熱をもって談義し続けていました。

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