開館50周年記念 美術館を展示する 和歌山県立近代美術館のサステイナビリティ

美術館や博物館は、長く時間を積み重ねることを前提としています。「コレクションの50年」展で紹介する「収集」活動に加え、作品をより良い状態で次の世代に引き継ぐ「保存」のほか、それらを支える「調査研究」は、活動が蓄積されることによって意味を成します。「展示」や「展覧会」は、より多くの人に美術や美術作品の価値を伝え、また社会に多様な視点や議論を生み出す場としての役割を担っていますが、それはつまり講演会やワークショップなどの特別な機会でなくとも、展覧会自体が「教育普及」的側面を持っているということです。こうした場が常に地域にあることが、誰しもに開かれた学びの場を保証することにつながっています。

ではどのようにして美術館はその活動を続けていけるのでしょうか。もちろん運営という面では財政的課題がありますが、コロナ禍によって極端な集客を求められなくなったいま、都会や地方の隔てなく、多くの美術館が活動のあり方を探っています。当館もまた例外ではありません。しかしすでに50年という活動を続けてきたなかにはヒントがあるはずです。地域社会とのつながりに目を向けながら美術館活動を継続すること、そして当館がこの地にこれからも根を張っていくことを「サステイナビリティ(持続可能性)」と捉え、これまでの活動とこれからの課題を検討します。

【展示構成】
はじめに ミュージアムとサステイナビリティ
昨今、耳にするようになった「サステイナビリティ(持続可能性)」という言葉。美術館とはどのように関わるのでしょうか。日本の博物館法をはじめ、世界における博物館の位置づけとしての ICOM(国際博物館会議)の定義など、美術館とはどのような存在なのかを紹介します。

1. 和歌山県立近代美術館の50年+α
1963 年に開館した和歌山県立近代美術館の前身としての和歌山県立美術館、1970 年に県民文化会館 1 階に開館した和歌山県立近代美術館(旧館)、そして1994 年に現在の地に開館してからの和歌山県立近代美術館(新館)。それぞれの時代にあわせて変化しながらも、一貫した活動を続けてきました。展覧会の歴史やコレクションのあゆみ、刊行物などを中心に展示します。

旧館での所蔵品展風景

2. 和歌山県立近代美術館という箱
たくさんの人がともに美術を楽しみ、また大切な作品を守るための美術館は、「箱」としての機能を持っています。特に現在の建物は黒川紀章の設計により、地域のランドマーク的存在にもなっています。この建物に込められた期待と役割について紹介します。

黒川紀章設計 和歌山県立近代美術館・博物館 模型写真
黒川紀章設計 和歌山県立近代美術館・博物館 模型写真

3. あつめてのこす
美術館の仕事の主要な軸として、調査研究と収集活動があります。和歌山ゆかりの作家たちを掘り起こし、顕彰してきた活動について、収集方針との関連からご紹介します。また作品を後世に残すためにも必要となる多様な資料の現状を記録・管理する方法についてもご覧いただきます。

4. 託されるコレクション
和歌山県立近代美術館は、これまで多くの方から作品のご寄贈をいただきいてきました。 佐伯祐三のまとまったコレクションや、田中恭吉や石垣栄太郎ら、ここにしか残らない作家像を語る貴重な資料はもちろんのこと、現存作家との強い結びつきによって作品を寄贈してくださった支援者グループや、現代美術コレクターからの1000点を超える一括寄贈など、当館ならではのさまざまな寄贈のかたちを紹介します。

5. 見せてのこす 展覧会とサステイナビリティ
展覧会を開催することは、地域の歴史を伝え、美術作品と美術館に対する関心を広げるためにも大切です。同じ作家の展覧会を、繰り返して開催することも、研究と資料を引き継ぐことにつながっています。作品を展示する実際の作業とあわせて、展覧会の裏側をご覧いただきます。*展示室で放映中の展示作業動画「撤去と展示」はYoutubeでも公開しています。

6. 支えるしくみをつくる
美術館を支えているのは、中で働いている職員だけではありません。地域の人たちにさまざまなかたちで関わっていただくことで、美術館はこの地に根を張って活動を続けていくことができると考えます。展覧会にさまざまなかたちで関わる学校 教員や大学生、ボランティアやNPOなど館内外の人たちの活動と、美術館そのものへの間口を広げる方法として続けてきたスタンプラリーなど、幅広い人々との関わりをお伝えします。

近年のこども美術館部の様子
受付職員手作りの消しゴムはんこによる展覧会スタンプラリー

7. これまでとこれから
50年という時間を積み重ねてこられた和歌山県立近代美術館ですが、この先の50年につないでいくためには何が必要でしょうか。建物としての美術館を守っていくことはもちろんのこと、多くの人の記憶と経験のなかにのこり続ける方法を、地域の方々と一緒に考えていきたいと思っています。

2階展示室照明工事の様子

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