持ち物はあなたの想像力だけ――
4つの展示室で展開する120分間の月世界旅行
夜空に浮かぶひときわ大きな天体、月。満ち欠けを繰り返しながらも、見上げればいつも規則正しくそこにあり、静かに夜道を照らします。月は古今東西の国々で信仰の対象とされ、また、神話やおとぎ話、詩、歌や物語に登場するように、長きにわたって私たち人類にアイデアの元となるひらめきを与え続けてきました。本展では「月」をテーマに制作された5つの作品を中心にその周辺をめぐります。持ち物はあなたの想像力だけ。秋のひととき、4つの展示室で展開する約120分間の月世界旅行へ皆様をご案内いたします。
展覧会の構成とみどころ
Episode 1 ロバート ラウシェンバーグ《ブースター》(1967年)とポップアート
1960年代より、アメリカ合衆国航空宇宙局(NASA)による有人宇宙飛行計画はソビエト連邦と競いながら推し進められ、国民もまたこの話題に沸いていました。日常生活の中にあふれるイメージや取るに足らない出来事に目を向けるポップアートの旗手たちも、急激に現実味を帯びてきた「月」の存在に注目することになります。ここではラウシェンバーグ自身のレントゲン写真に、ドローイング、作品、当時の新聞記事の切り抜きや電動工具、そしてその年の天体運行図を重ね合わせた版画作品《ブースター》を中心に、アメリカのポップアート作品の数々をご紹介いたします。
Episode 2 野口里佳《潜る人》(1995年)と日常に潜む光の痕跡
ある冬の日、野口里佳は偶然、酸素ボンベを背負う影のようなシルエットの人物を目撃し、後を追います。彼女は初めて出会ったダイバーの姿が「月にゆく人のよう」に見えたと語ります(*)。世界に散らばる不可思議さを静かにみつめ、写し取るまなざし—、野口の作品に限らず、写真とは日常に潜む光を掬いだし、その痕跡を留めるメディアであるといえるかもしれません。このセクションでは「生」の生々しさと、そこから切り離せない「死」を見つめ続けた荒木経惟の
作品などを併せて展覧いたします。 (*)引用元 キャノン写真新世紀(1996年)
Episode 3 菅井汲《月》(1957年)と日本のアンフォルメル
菅井汲は1952年に渡仏し、アンフォルメルの影響を受けながらも、日本の古代を意識した東洋的な主題をプリミティヴな抽象で表現した作品を発表し、パリの画壇に強いインパクトを与えました。今回ご紹介する《月》もその一例です。その後、菅井は60年代初頭には画風を一変させ、疾走感のある明快な色彩による抽象画を手掛けるようになります。
ここでは同じくフランスで活躍した今井俊満など、日本人による1960年代の抽象画を展示いたします。
Episode 4 倉俣史朗《How High the Moon》(1986年)と浮遊する家具
倉俣史朗は早くから新しい素材や加工に着目し、アクリル、ガラス、アルミニウム、スチールメッシュなどを用いて革新的な作品を発表しました。ジャズのスタンダードナンバーから引用された《How High the Moon》(月はなんて高いところにあるのでしょう)の素材は建設 現場などで用いられることの多い無骨なエキスパンドメタルですが、倉俣らしい浮遊感と、儚さ、そして凛とした佇まいをかんじさせます。ここでは当館が所蔵する倉俣史朗の家具と、親交のあった磯崎新や宮脇愛子の作品、太陽の動きを写真で捉えた野村仁の写真作品を取り合わせます。
Episode 5 伝 小栗宗湛《月に猿猴図》(室町時代)と 古今の月の表現
日本の画壇では、猿が水に映った月を取ろうとして木に登り、枝が折れて水に落ちるという仏教の規律集に由来する《猿猴捉月》を題材にした作品が多く描かれてきました。この画題には「身の程をわきまえろ」という教訓が含まれますが、本作では、一匹は水面に映った月をうっとりと眺め、もう一匹は無邪気に、夜空に輝く月に思わず手を伸ばしてしまったようにも見え、ユーモアと情緒を画面に湛えます。
今季、特別展示室 觀海庵では、古く「万葉集」や「続古今和歌集」などで月の名所として繰り返し詠われてきた武蔵野を描いた《武蔵野図屏風》や、狩野常信《月夜山水図》のほか、工芸品に意匠として組み込まれた月の表現を現代美術作品と交えご紹介いたします。
Epilogue 三島喜美代《Newspaper-84-E》(1984年)
最後に、日常生活で目にする新聞紙や雑誌、空き缶などを陶を用いて表現する作家 三島喜美代による大型の彫刻作品にご注目ください。まるで無造作に丸められ、捨てられた新聞紙のように見える本作は、見た目の柔らかさとは裏腹に陶器でできているため重く、しかし割れやすいものです。このように三島は、日々大量に生産され消費される「情報」があふれる社会への不安やもろさについて、作品を通して軽やかに問いかけます。
この作品には1984年8月31日のニューヨークタイムズの記事より、スペースシャトル・ディスカバリー号の打ち上げに関する部分が印刷されています。読み終えた瞬間からゴミになる宿命である新聞記事の山の中からこの部分に目を留めたのは、ロケット打ち上げのニュースが三島にとっても印象に残る出来事だったからかもしれません。本作品は回廊エリアに展示いたします。
出品作家 (予定)
現代美術: アニッシュ カプーア / アンディ ウォーホル / エドワード ルシェ / ジム ダイン / ジョナサン ボロフスキー / トム ウェッセルマン / ピーター スタンフリ / ロイ リキテンシュタイン / ロバート ラウシェンバーグ / 崔在銀 / 荒木経惟 / 磯崎新 / 今井俊満 / 内倉ひとみ / 倉俣史朗 / 斎藤義重 / 白髪一雄 / 菅井汲 / 束芋 / 堂本尚郎 / 奈良美智 / 蜷川実花 / 野口里佳 / 野村仁 / 三島喜美代 / 宮脇愛子 など
古美術作品: 伝 小栗宗湛《月に猿猴図》/《武蔵野図屏風》/ 狩野常信《月夜山水図》/《近江八景料紙箱・硯箱》/《月に梅蒔絵短冊箱》など ※古美術は会期半ばで展示替えを行います。
展覧会関連イベント ※詳細は美術館公式サイトにて公開
護国寺 月光殿 特別拝観ツアー
2026年9月13日(日)
会場 本山 護国寺(東京都文京区)
觀月会 -夜の美術館で月を待つ-
2026年9月26日(土)17:00 – 20:00 受付は19:00まで
会場 原美術館ARC内 カフェ ダール
美術館建築ライトアップ
2026年9月25日(金)- 27日(日) 17:00 – 20:00 受付は19:00まで
会場 原美術館ARC屋外、カフェ ダール
※26日(土)は「觀月会」のため入館料が異なります。詳細は当館ウェブサイト「イベント」ページをご確認ください。
講演会「Meet the Artist: 奈良美智」
2026年12月12日(土)開催
原美術館ARC内 カフェ ダール
※その他のイベントについては当館ウェブサイト「イベント」ページをご確認ください。
開催要項
展覧会名 Fly to the Moon: 月をめぐる5つの物語
会期 2026年9月12日(土)-2027年1月11日(月・祝)
主催/会場 原美術館ARC
開館時間 9:30 am-4:30 pm (入館は4:00 pmまで)
休館日 木曜日(12月31日は開館)、1月1日 *2027年1月12日から3月中旬まで冬季休館
入館料 一般1,800円、70歳以上1,500円、大高生1,000円、小中生800円
*お得な前売りオンラインチケット(日にち指定)あり
*原美術館ARCメンバーシップ会員は無料、学期中の土曜日は群馬県内小中学生無料
交通案内 JR渋川駅より関越交通バス「伊香保温泉」または「伊香保榛名口」行き(3番のりば)にて約15分、「グリーン牧場前」下車、徒歩約7分。またはJR渋川駅よりタクシーで約10分。
関越交通路線バス / 原美術館ARC線 〔毎月第二、第三土曜日 JR高崎駅より運行〕
