ターナー賞2026最終候補

MIMA, Centre Square, Middlesbrough. Image by Rachel Deakin and Courtesy of MIMA

 

2026年4月23日、ロンドンのテート(Tate)は、世界有数の現代美術賞としての歴史を誇るターナー賞の2026年度の最終候補に、シメオン・バークレイ、キラ・フレイジャ、マルグリット・ユモー、タノア・サスラクの4名を選出した。本年度の展覧会は、2018年よりミドルズブラ文化パートナーシップと称して、市内の文化施設や文化事業などを連携し、英国一の創造都市を目指す同市内のティーズサイド大学ミドルズブラ現代美術館(MIMA)で開催(9月26日〜2027年3月29日)。受賞者の発表および授賞式は、同美術館にて12月10日に行なわれる。

1984年の第1回以来、時代に応じて選考基準などに変化を加えながら、イギリスの現代美術の発展に貢献するとともに、現代美術に対する幅広い関心を生み出してきたターナー賞。国立新美術館で開催中の「テート美術館 - YBA&BEYOND 世界を変えた90s 英国アート」(6月には京都京セラ美術館に巡回)にも同賞歴代受賞者および最終候補者の作品が数多く出品されている。現在は、イギリス生まれ、あるいはイギリスに制作拠点を置くアーティスト/アーティスト・コレクティブの過去1年の展覧会を含む活動実績を選考対象に最終候補を選出し、最終審査を兼ねた展覧会を通じて、受賞者を決定する形式を採用している。受賞者には賞金25,000ポンド(約537万円)、惜しくも受賞を逃した最終候補にもそれぞれ10,000ポンドが授与される。2011年以降は、ロンドン(テート・ブリテン)だけでなく、ゲーツヘッド、デリー/ロンドンデリー、グラスゴー、キングストン・アポン・ハル、マーゲイト、コヴェントリー、リバプール、イーストボーンなど、各地で開催されている。ブラッドフォードのカートライト・ホール・アートギャラリーで開かれた昨年は、学習障害を持つアーティストの活動を支援するロンドンに拠点を置く団体「Action Space」に在籍し、長きにわたり制作活動を続けるニーナ・カルーが受賞した。

本年度の審査は、サラ・アレン(サウスロンドン・ギャラリー ヘッド・オブ・プログラム)、ジョー・ヒル(ヨークシャー・スカルプチャー ディレクター&チーフ・エグゼクティブ)、イ・スッキョン(ウィットワース美術館ディレクター、マンチェスター大学教授)、アロナ・パルド(アーツカウンシル・コレクション ディレクター)の4名と、テート・ブリテンのディレクターで審査委員長を務めるアレックス・ファーカーソンが担当。審査委員長のファーカーソンは、本年の最終候補に対し、「彫刻的実践」の影響が伺える幅広い表現が揃ったとコメントし、展示会場となるティーズサイド大学ミドルズブラ現代美術館のディレクター、ローラ・シラーズは、大学を舞台とする初のターナー賞という文脈の下、現代美術が議論や対話、新たな思考を触発する場になるよう期待を語った。

シメオン・バークレイ(Simeon Barclay)、キラ・フレイジャ(Kira Freije)、マルグリット・ユモー(Marguerite Humeau)、タノア・サスラク(Tanoa Sasraku)の紹介と選考対象となった展覧会は以下の通り。

 

Roberts Institute of Arts presents Simeon Barclay, The Ruin, Institute of Contemporary Arts, London, January 2025. Photo © Anne Tetzlaff. Courtesy of the Artist & Workplace.
Roberts Institute of Arts presents Simeon Barclay, The Ruin, The Hepworth Wakefield., May 2025. Photo © Peter Rupschl. Courtesy of the Artist & Workplace.

 

シメオン・バークレイ(1975年ハダーズフィールド生まれ)は、豊かなポップカルチャーを着想源に、複雑な文化史の数々を活性化する作品を発表するとともに、押し付けられたアイデンティティであれ、自ら作り上げたアイデンティティであれ、いかなるアイデンティティの模索があり得るのかを探究している。主な個展に「In the Name of the Father」(サウスロンドン・ギャラリー、2022)、「Art Now: Simeon Barclay, The Hero Wears Clay Shoes」(テート・ブリテン、ロンドン、2017)など。主なグループ展に「Pictures of You」(Kerlin Gallery、ダブリン、2025)、「Sculpture In The City 12th Edition」(ロンドン、2023)、「Chester Contemporary」(チェスター、2023)、「British Art Show 9」(2021)など。2026年はサウザンプトンのJohn Hansard Galleryでの個展が控えている。

選考対象となったのは、ロバーツ・インスティテュート・オブ・アートのコミッションで制作したパフォーマンス作品《The Ruin》。ICAロンドンを皮切りに、ヘップワース・ウェイクフィールド(ウェスト・ヨークシャー)、ニュー・アート・エクスチェンジ(ノッティンガム)での個展「In Place of Fear」内で発表している。同作は、バークレイ自身が故郷ハダーズフィールドで幼少期に受けた躾(しつけ)やイングランド北部の工業都市で暮らしてきた経験を、パーカッション奏者のジェームス・ラーター、ホルン奏者のアイザック・シエの生演奏を伴いながら語る約1時間にわたるスポークン・ワード・パフォーマンス。審査員は、喚情的かつ実験的な言葉の使用や心理的な没入を誘う音の使用を通じて、英国らしさ(ブリティッシュネス)、階級、人種、男性らしさを探求するバークレイのデビュー・パフォーマンスを高く評価した。

 

Installation view of Kira Freije: Unspeak the Chorus, The Hepworth Wakefield, November 2025. Photo © Lewis Ronald.
Installation view of Kira Freije: Unspeak the Chorus, The Hepworth Wakefield, November 2025. Photo © Lewis Ronald.

 

キラ・フレイジャ(1985年ロンドン生まれ)は、金属や布地、ファウンドマテリアルなどを素材に、溶接、鋳造、ガラス吹きなどの多彩な技法を駆使して、疎外感、不安、目に見えないものへの信仰といったテーマを喚起する人体彫刻を制作している。主な個展に「river by night」(Kestle Barton、コーンウォール、2023)、「meteorites」(The Approach、ロンドン、2022)、主なグループ展に「Vampire Problem?」(N/A Gallery、ソウル、2024)、「The flowering of the strange orchid」(Peles、ベルリン、2024)、「Trickster Figures: Sculpture and the Body」(MK Gallery、ミルトン・キーンズ、2023)など。2026年はオックスフォード近代美術館とベルリンのKINDL現代美術センターでの個展が控えている。選考対象となったのは、ウェスト・ヨークシャーのヘップワース・ウェイクフィールドで行なわれた個展「Unspeak the Chorus」。剥き出しの金属の骨組みや表情豊かな石膏で作られた顔を持つ等身大の人物像を特徴とするその演劇的な作品群は、普遍的な人間の感情を探究しており、観客の心をかき乱すものであると同時に美しさを備えている。審査員は、素材と形式における独自の彫刻言語や空間に不穏な空気をもたらす彫像の配置に強く表れている作品における感情の強さや深さを評価した。

 

Marguerite Humeau, Torches at HAM Helsinki Art Museum, 2025 © Marguerite Humeau. Photography by Julia Andreone. Courtesy of the artist.
Marguerite Humeau, Torches at ARKEN Museum, 2025 © Marguerite Humeau. Photography by Mathilde Agius. Courtesy of the artist.

 

マルグリット・ユモー(1986年フランス、ショレ生まれ)は、150年前のクルミ材から手吹きガラス、雪花石膏からシアノバクテリア(藍藻)、蜜蝋からスズメバチの毒といった実に多様な素材を用いて非常に精密な彫刻作品を制作、それらの彫刻群を音や光を巧みに取り入れた没入型のインスタレーションを通じて発表している。近年の主な個展に「\*sk\*/ey」(ICAマイアミ、フロリダ、2024)、「Surface Horizon」(Lafayette Anticipations、パリ、2021)など。主なグループ展、国際展に「Lines(ラインズ)—意識を流れに合わせる」(金沢21世紀美術館、2024)、第15回光州ビエンナーレ(2024)、「When Forms Come Alive」(ヘイワード・ギャラリー、ロンドン、2024)、第59回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2022)、第23回シドニー・ビエンナーレ(2022)などがある。選考対象となったのは、コペンハーゲンのアーケン現代美術館ヘルシンキ美術館で開かれた個展「Torches」。同展において、ユモーは生命の起源、古代人類史、想像の未来といったテーマを探究。定期的に変化する照明や音響環境に、自然界の特定の種と異世界の形態を組み合わせた彫刻作品を配置。人間中心主義とは異なる生態系を中心としたパースペクティブを採用したインスタレーションを通じて、自然界との深い繋がりを表現した。審査員は、その映画的な展示制作の手法や、独創的な形態、思弁的なシナリオ、ダイナミックなスケールの変化を通して、生態学的かつ実存的なテーマに取り組む姿勢を評価した。

 

Tanoa Sasraku, Morale Patch installation view, Institute of Contemporary Arts, London, 2025-26. Image © Jack Elliot Edwards, courtesy the artist and Vardaxoglou Gallery, London
Tanoa Sasraku, Morale Patch installation view, Institute of Contemporary Arts, London, 2025-26. Image © Jack Elliot Edwards, courtesy the artist and Vardaxoglou Gallery, London

 

タノア・サスラク(1995年プリマス生まれ)は、風景、顔料、鉱物を媒介し、土地の物質的および象徴的特性に根差したり、また、テキスタイルやパターンメイキングにまつわる個人的な関係に基づいた作品を、彫刻、ドローイング、映像制作など多岐にわたる方法で発表している。近年の主な個展に「Man Engine」(Vardaxoglou、ロンドン、2023)、「Liths」(Peer、ロンドン、2023)、「Terratypes」(スパイク・アイランド、ブリストル、2022)など。主なグループ展に「Expanding Landscapes: Painting After Land Art」(アボット・ホール美術館、ケンダル、2025)、「Tituba, who protects us?」(パレ・ド・トーキョー、パリ、2025)、第18回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展(2023)、「Radical Landscapes」(テート・リバプール、2022)などがある。選考対象となったのは、ICAロンドンでの個展「Morale Patch」。同展では、彫刻や映像、紙を支持体とする作品で構成した展示を通じて地政学的な概念を探究。実業界の視覚言語を借用したコンセプチュアルなインスタレーションにより、石油をめぐる近年の政治的、軍事的歴史に焦点を当てた。審査員は、サスラクのインスタレーションの精度と洗練を高く評価し、複雑に絡み合う歴史的な問題に対する同時代的意義の力強さや、皮肉と真剣さをともに伝える殺風景でミニマルな展示方法を取り上げた。

 

ターナー賞https://www.tate.org.uk/art/turner-prize

ターナー賞2026
2026年9月26日(土)- 2027年3月29日(月)
ティーズサイド大学ミドルズブラ現代美術館(MIMA)
https://mima.art/
参加アーティスト:シメオン・バークレイ、キラ・フレイジャ、マルグリット・ユモー、タノア・サスラク

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