艾未未(アイ・ウェイウェイ)(前編)

2009年8月26日

私は表現の自由のために闘っていて、妥協も交渉もしないんです。




アーティスト、建築家、活動家 艾未未(アイ・ウェイウェイ)


国際展で話題作を続々と発表し、北京五輪では「鳥の巣」の設計を手がけ、一方で五輪を痛烈に批判し、政府にブログを閉鎖される……。建築家、活動家としての顔も持つアーティストが、森美術館での個展のために来日した。中国現代アートの牽引者に聞く、アート観、国家観、そして人生観。

聞き手:編集部


——艾さんは若いころ、ヴァン・ゴッホ、ドガ、マネに関する本と、ジャスパー・ジョーンズの本をもらったそうですね。北京のアート仲間と共有したけれど、ジョーンズの本は捨ててしまった。でも今回の個展名は『何に因って?』。ジョーンズの作品名です。


本をもらったのは1970年代後半で、あの時代の中国には洋書なんかなかったから、非常に貴重なものでした。だけど、誰もジャスパー・ジョーンズの作品を理解できなかった。RED、YELLOW、BLUE……何だこれは? 僕らが受けていた、純粋に具象主義的な教育とはまったく違っていたんです。

合衆国に行って、ジョーンズ作品と再会しました。ホイットニー美術館で「Flag」や旗の上に旗を重ねた作品を見て、彼の本を買ったんです。読み始めると、彼の画像へのアプローチがとても面白いと思った。画像を創造するのではなく、文化的な画像を借用して別の画像を創り出す。本人曰く「我々は主題を変えたりはしない。解釈を変えるだけだ」
 
ジョーンズを通じて、マルセル・デュシャンや、言語と哲学に関するヴィトゲンシュタインの本を読み始めました。ふたりに共鳴しましたが、両者とも東洋的経験とは無縁なのだからとても奇妙なことです。
 
私はジャスパー・ジョーンズ作品が大好きですが、「何に因って?」はいちばん嫌いなジョーンズ作品なんです(笑)。


歴史に関連づけられたくはない


——建築をやるようになったのは、ヴィトゲンシュタインの本を読んで刺激を受けたからと聞きましたが……。


そう。建築を学んだことはないけれど、中国に戻る前にヴィトゲンシュタインの建築に関する古い本を買ったんです。ウィーンに住む姉のために設計した家についての本で、なぜか非常に惹かれました。



三影堂写真芸術センター、北京市草場地(ツァオチャンディ)2007年 
設計:艾未未 / FAKE Design



——ヴィトゲンシュタイン建築は非常にモダンで、形態は非常にシンプルかつミニマルです。引用したい要素や、親しみを感じるスタイルがありましたか。


いや、むしろ宗教的行為のように感じています。私にとっては、象徴的な意味を持っている。といっても、彼と同じ道を辿ったりはしませんが。あの本で好きなのは明晰な点です。語るべきことを定義すべく努めるには、メッセージは完全に明瞭でなければならない。



「中国の地図」2004年 51cm x 200cm © FAKE Studio
清時代の寺院に使用されていた鉄木を中国の伝統的な組木技法で組み合わせたもの



——艾さんの作品は、前回のドクメンタで発表された「テンプレート」が好例ですが、時間、歴史、記憶に関わっているといわれます。建築の場合も同様ですか。


個人的には、自分の作品を歴史に関連づけられるのは好きではありません。私には思い出はないし、記憶力は非常に悪い。それに、通常私は、アートにおける歴史的意味なるものを好まない。でもなぜか、歴史的意味が私のやることに結びつけられるようになったんです。とはいえ、こうした主題に戻るのは簡単で、安心できると同時に探究的でもある。人類の過ちの証拠としての、こうした引用の借用や利用はね。


不安定で危険な中国社会



「シャンデリア」2009年
クリスタルガラス、電球、金属 600 × 450 × 225cm
森美術館『アイ・ウェイウェイ展ー何に因って?』展示風景



——今回の東京での個展について聞かせて下さい。


ほとんどの作品は、今回初めて発表するものです。信じられないかもしれませんが、実は今回が、私にとって美術館での本格的な初個展なんです。中国では15年も活動しているけれど、個展を開いたことは一度もない。あちこちに作品を出品したことはあるけれど、大きな展覧会は一度としてないんです。だから、自作をまとめて見るのも初めてで、デビューしたばかりの新人のような気分です。



(左から)「茶の家」2009年、432個の圧縮したお茶ブロック 「1杯の真珠」2006年
「無題」2006年 「1平方メートルのテーブル」2006年、花梨
森美術館『アイ・ウェイウェイ展ー何に因って?』展示風景
撮影:渡邉 修 写真提供:森美術館



——中国では、個展開催は難しいのですね。


トライしたことはないけれど、可能性があるとは思えません。政府の検閲に対して歯に衣を着せず発言しているから、みんな依頼するのを怖がっているんです。私は表現の自由のために闘っていて、絶対に妥協しないし、金にものを言わせるような交渉の席には着かない。依頼が来たとしても、連中の文化政策に賛成できないから受けるつもりはありません。
 
中国の人々に自作を見せたい気持ちは山々ですが、それはまっとうな条件の下で行われなければならない。コネや情実で展示するのはいやです。フェアじゃない。


——以前にインタビューした際、蔡國強(ツァイ・グオチャン)は(ちょうど中国政府の仕事をよくしていた時期ですが)「国が豊かになりはじめると、政府ももう、むちゃくちゃができません。いまの指導者たちはみんな頭もいいし、そのことを良く理解している。(中略)コンセプトがあるのはアーティストより中国政府の方かもしれません」と述べていました(『ART iT』No.11。2006年春夏号)。この見解に賛成ですか。


賛成しませんね。ただの社交辞令でしょう。中国社会はいま、途方もない量の問題に直面しています。政府は主義信条を欠き、先見の明も欠いていて、そのために政治改革は遅々として進まず、後退さえしている。いわゆる経済改革が鳴り物入りで進む一方、多くの問題が放置されている。基本的人権、法の公正、地域社会、労働権、表現の自由などは30年前と同様か、ほとんど変わっていない。これが実態です。
 
もちろん、ある程度の開放はあって、とはいえ自ら選んだものではなく、むしろ淘汰によるものです。それがいまや問題化していて、というのも中国社会は人間性を欠き、基本的な道徳や倫理的問題に関する議論を欠いているから。この傾向は、さらに不可避のものとなりつつあり、結果として不安定な、そして私にとっては危険な社会となっています。自由で倫理的な思考が欠けていて、価値が量で量られることがほとんどだからです。


(付記)
このインタビューは2009年7月23日に、個展開幕直前の森美術館で行った。艾未未は、四川大地震(2008年5月)による学生や学童の死傷は、学校建築費を横領した当局の責任であるとして、自らのブログを中心に犠牲の実態を調査していたが、有形無形の圧力を受けている。以下、最近の関連事項を時系列的に列挙する。

5月28日:
艾のふたつのブログサイト(Sina.com/Sohu.com)が削除される。

5月末〜6月頭:
6月4日の天安門事件20周年を前に、中国国内において、SNSを含む6000以上のウェブサイトへのアクセスが遮断される。

6月2日:
TwitterとFlikrへのアクセスが遮断される。

6月23日:
中国版Twitterと呼ぶべきfanfou.comから、艾のアカウントが削除される。

7月1日:
艾は他の呼びかけ人とともに、中国政府が「有害サイト」をブロックするソフトを導入する政策を発表したことに抗議し、ネットユーザーに「中国共産党結成記念日の7月1日は終日オフラインに」とボイコットを提唱する。
http://www.art-it.asia/u/admin_news/WSF0GeDmRvN328wphOQk/

7月25日:
森美術館での個展が始まる。

8月12日:
艾、環境活動家で作家の譚作人(タン・ツォレン)の公判に弁護側証人として出廷するために滞在していた四川省の成都市で、警察に拘束される。その後、解放される。
http://www.art-it.asia/u/admin_news/TVlFacXqDn97Kf8i6P3E


後編はこちら



アイ・ウェイウェイ

1957 年、北京生まれ。78 年、前衛芸術グループ「星星画會」を共同設立。81 年、ニューヨークに移住するが、93 年に北京に戻る。以来、自身の作家活動と並行して、キュレーター、建築デザイナー、批評家としても活動する。主なグループ展に、第1回/第2回広州トリエンナーレ(2002 / 05 年)、2006 ビエンナーレ・オブ・シドニー、ドクメンタ12(07年)など。2008中國当代芸術奨では生涯功績賞を受賞。ヘルツォーク&ド・ムーロンとの協働で北京国家体育場(鳥の巣)も手がけ、第11 回ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展にも協働参加。個展『何に因って?』は森美術館(東京)にて開催中(11月8日まで)。次の個展『So Sorry』は、ミュンヘンのハウス・デル・クンストで開催される(10月12日から1月17日まで)。


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おすすめ展覧会:『アイ・ウェイウェイ展―何に因って?』森美術館
フォトレポート:『アイ・ウェイウェイ展―何に因って?』森美術館
アーカイブ:21号(p.58-69 艾未未インタビュー収録/会員コンテンツ/PCのみ)

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艾未未(アイ・ウェイウェイ)(前編)
投稿元 : フルラ 財布 / 2013年04月18日17:50

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