「ウルの牡山羊」 シガリット・ランダウ展

【タイトル】 「ウルの牡山羊」 
【アーティスト】 シガリット・ランダウ
【会期】 2013年5月17日(金)~8月18日(日)

山羊の寓話
シュムエル・ヨセフ・アグノン 

ある年老いた男が、心の底からの苦しみに呻いていた。医者が呼ばれ、医者は山羊の乳を飲むよう勧めた。老人は出かけて行って雌山羊を一匹買い、家に連れ帰った。数日後、山羊は姿を消した。人々は方々探したが、見つからなかった。庭にも畑にもいなかったし、学校の屋根の上にも井戸のそばにも、丘にも野原にもいなかった。そして数日経って、山羊は自分で帰ってきた。戻ってきた雌山羊の乳房は、エデンのような味わいの乳に満ちていた。一度ならず、何度も雌山羊は姿を消した。人々が探しまわっても見つからず、そのうちに、蜜よりも甘くエデンの味のする乳をたっぷりと乳房に湛えて自分で戻ってくるのだった。

ある日、老人は息子に言った。「息子よ、あの雌山羊がどこへ行くのか、口に甘く、骨を癒すこの乳をどこから持ち帰ってくるのか知りたいものだ」
息子は父に言った。「お父さん、考えがあります」
父は尋ねた。「どんな考えだ」
息子は紐を持ってきて、雌山羊の尾に結んだ。
父は尋ねた。「息子よ、何をしているのか」
息子は答えた。「尾に紐を結んでおけば、山羊がどこかへ行こうとする時に引っ張られるのを感じるでしょう。そうしたら、紐の端を握って後についていきます」
老人はうなずいて息子に言った。「息子よ、お前の心が賢ければ、私の心も喜ぶだろう」

若者は紐を山羊の尾に結び、気をつけて見張っていた。山羊が出かけると、息子は紐を握り、紐をたるませないようについていった。しばらく進むと、山羊の後ろについて歩いた。ゆっくり歩いていくと、洞窟に着いた。山羊は洞窟に入り、若者は紐を握ってその後に続いた。山羊と若者はこうして一時間か二時間、いやもしかしたら一日か二日歩いた。山羊が尾を振ってメーと鳴き、洞窟はそこで終わっていた。

穴から出た若者は、高くそびえる山々、芳醇な果物、山から流れてくる水を湛えた泉を目にした。風がさまざまな芳しい香りを運んできた。山羊は凸凹のある葉っぱにつかまって木によじ登った。蜜たっぷりのイナゴマメの実が木から降ってきた。雌山羊はイナゴマメを食べ、庭園の泉の水を飲んだ。

若者は立ち上がり、歩いていた人々に尋ねた。「良き人々よ、教えてください。ここはどこですか、何というところなのですか」
人々は答えた。「ここはイスラエルの地、サフェドの近くです」

若者は目を上げ、天を仰いで言った。「偏在する神、イスラエルの地に連れてきてくださった神に栄えあれ」。若者は土に口づけし、木の下に座った。

若者は言った。「朝になり、影が逃げ去るまで、丘の上のこの木の下に座っていよう。それから家に帰って、父と母をイスラエルの地に連れて来よう」。若者が座って聖なるイスラエルの地を眺め、目を楽しませていると、声が聞こえた。
「さあ、安息日の女神に挨拶に行こう」

すると、白い布に身を包み、手に銀梅花の枝を持った天使のような男たちの姿が見え、どの家も無数のろうそくで明るくなった。若者は、日暮れとともに安息日の前夜が来ること、家には帰れないことを悟った。若者は葦を一本抜き、トーラーを巻物に書くのに用いられたインクの原料である虫コブに浸した。紙を一枚取り出し、父に宛てて手紙をしたためた。

「地の果てより、声を上げてお父さんに告げます。私は無事にイスラエルの地にたどり着きました。今、聖なる都市サフェドのそばに座って、その聖なる空気を呼吸しているところです。どうやってここに来たのかは問わず、山羊の尾に結ばれたこの紐を握って、山羊の後についてきてください。そうすれば安全にイスラエルの地に入ることができるでしょう」

若者は手紙を丸め、山羊の耳の中に入れた。若者はひとり言を言った。山羊が父の家に着いたら、父は山羊の頭を撫で、山羊は耳を動かすだろう。手紙が落ち、父は拾い上げて書いてあることを読むだろう。そして紐を握って、山羊の後についてイスラエルの地にやってくるだろう。

山羊は老人の家に戻ったが、耳を動かさず、手紙は落ちなかった。息子を連れずに山羊が帰ってきたことを知った老人は、両手で頭を打ち、涙を流し、すすり泣き、嘆き悲しんだ。「息子よ、息子よ、どこにいるのだ?息子よ、私が代わりに死ねればよかったのに、息子よ、息子よ!」

老人はそういってすすり泣き、息子の死を悲しみ、こう言った。「息子は悪魔に取って食われ、八つ裂きにされてしまったに違いない!」

そして、山羊を見るたびに言った。「息子を失った悲しみは、私が墓に入るまで消えるまい」

老人の心は休まらず、ついに山羊を殺させるため肉屋を呼んだ。肉屋がやってきて山羊を殺した。二人で皮を剥いでいると、手紙がその耳から落ちた。老人は手紙を拾って言った。「息子の字だ!」息子の書いたことを読み終わると、老人は両手で頭を打って叫んだ。「悲しいかな!幸運を自らの手で奪ってしまうとは!善に悪で報いてしまうとは!」

老人は何日も山羊の死を嘆き、誰もその悲しみを慰めることはできなかった。「悲しいかな!一飛びにイスラエルの地に行くこともできたものを、今やこうして流浪の身のまま、死ぬまで苦しまねばならぬとは!」

その後、洞窟の入り口は見つからなくなり、近道は閉ざされてしまった。そしてあの若者は、まだ生きているとすれば、生者の地において心穏やかで安らかに、活気と豊かさに満ちた老年を迎えていることだろう。

「ウルの牡山羊」 シガリット・ランダウ展 プレスカンファレンスインタビュー

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