小村希史:絵画・素描

11.25 – 12.20
タマダプロジェクト ミュージアム (企画:NAGAMINE)
http://www.tamada-pj.co.jp/index.html

文:山下裕二


Man in Shinjuku, 2008
Oil on canvas, 117 x 91 cm

毎日、山ほど展覧会のDMやメールが送られてきて、出かけるのはそのうち1割ぐらい。で、足を運んでがっかりするのが、その9割。つまり、よく知らない作家で注目に値する確率は、1パーセント。

小村希史の場合、最初は、彼の作品の画像にDMやメールで注目したわけではなかった。2008 年4月、『Who’s Next アート界のイチロー探し』というグループ展で偶目したのだった。その日、私が月島のタマダプロジェクトを訪ねた目的は彼ではなく、かねてから注目していた他の作家。彼女の作品はもちろんよかったが、それ以上に、まったく未知の小村の作品に、強く惹かれた。つまり、小村は1パーセントの、さらに埒外から、私の眼前に突然現れたのだ。


Requiem, 2008
Oil on canvas, 162 x 131 cm

絵の具をズバッと塗ったくる、ストロークの強度が際立っている。現実の、あるいは仮想の人間に、出刃包丁を突き立てるように迫っていくから、絵が、どうしようもなく強い。そして、妙な言い方だが、気持ちよく痛い。

その後、11月の個展の案内が送られてきて、その分厚く大きなハガキにノックアウトされた。こりゃ、額装しよう、と思った。もちろん、初日に出かけた。この作家の価値に気づいている人は少ないから、観客はまばらだったが……。

私がギャラリーに足を踏み入れたとき、大音量で山本リンダの「どうにもとまらない」が流れていた。ゲルハルト・リヒター、ルシアン・フロイド、フランシス・ベーコンのいいとこ取り、みたいなことをしやがって。自分がリミックスしたLPレコードを作品化(あるいはお土産化)しているような作家だから、ヴィジュアルだけ見れば、私がちょっと眉をひそめる“ロック”な奴かと思ったが、初対面で、リンダの話で盛り上がって、嬉しかった。歌謡曲、バンザイ。


Installation views at the Museum at TAMADA PROJECTS
Courtesy the artist and NAGAMINE

で、12月、私は再度、クロージング・パーティーに出かけた。作品は完売で、もはや私が買う必要もないと思ったが、その日のために映像のインスタレーションが用意されていて、リヒター、フロイド、ベーコンが綯い交ぜになって、でも、どうしようもなく小村が出刃包丁で描いた絵になっているキャンバスに、ザ・ドリフターズのコントや植木等の映画なんかの映像が、容赦なく浴びせられていた。頭がぐるんぐるんして、気持ちよかった。

その日、あらためて話すと、小村は、横尾忠則や大竹伸朗をリスペクトしているらしい。私が、「大竹さんより、あなたの方が、よほどきっちり絵にフォーカスしてるじゃない」と言ったら、彼はちょっと嬉しそうに握手してきた。そういえば、かつて「リヒターなんか、意識しているの」と聞いたら、彼は「まあ、リヒターとか引き合いに出されるだろうな、というのは、わかっていました」と言った。

なんともクレバーで、かつクレージーな表現者だと思う。実は、クレバーでクレイジーな表現者は滅多にいないわけで、2008年に見た未知の作家で、いちばん迫力ある存在だった。絶賛。これから、ハガキを額装に出します。

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