2008台北美術賞

2008.12.20 – 3.8
台北市立美術館

文:岩切みお


Wang Ting-yu, Moo-vei Rinpoche’s Psychic Shoot – Final Scenery, 2007
Digital printout

台湾随一の若手の登竜門である本賞。昨年の同展開催後には、美術館スタッフが各方面にヒアリングするなど、新たな方法論を模索する姿勢を見せていたが、今年も、審査のプロセスに大きな違いはないようだ。例年よりも2〜3割多い28名が入選し、各5名の台北賞と優秀作が選ばれた。応募総数は386名で、平均年齢はさらに下がり、30歳を切っているという。応募作品は、デジタル写真を含む平面作品が大半を占めていたとのことだが、平面の入選は例年よりも少ない。台北賞、優秀作のうち6点までがビデオ作品であり、デジタル技術をまったく用いていないのは、2点にとどまっているのが特徴だ。社会的なテーマを持つ作品も目立っていたが、 審査員のひとり、アーティストの荘普(ジュアン・プー)によると、これはどうやら審査員の好みの問題で、応募作全体から見ると少数派であったという。

台北賞受賞作では、王挺宇(ワン・ティンユー)の『ムーフェイ・リンポーチェの霊視写真――最期の風景シリーズ』が新鮮だった。架空の霊能者による霊視写真を並べたもので、様々な人間が最期を迎えた場所の白黒写真に、最期の言葉が添えられている。台湾の若手作家にしては珍しく、死を意識しているのが興味深かった。また、許家維(シュー・ジャーウェイ)のビデオインスタレーションも、あまり見ないタイプの作品であったように思う。第2次大戦中の自身の祖母の記憶をモチーフにした質の高い映像と、純白の装飾を施した空間、光の処理のバランスが面白い。また、林昆穎(リン・クンイン)のインタラクティブ作品の、近未来の物語の作り込みには興味を引かれたが、子どもたちの遊び道具となって、開幕数日で壊れてしまっているのが残念であった。

毎年のことであるが、若手を対象とした台北當代藝術館スタジオや別の展覧会で発表済みの作品など、半分近くの作品に既視感がある。作品の善し悪しを問わず、予定調和的に入賞している感じもしないではない。未発表作品に限定するということはできないのだろうかと思った。また、 前出の荘が「もう何年も台北賞で彫刻作品を見ていない」と指摘していたように、多元的であるはずの現代美術が、ビデオやデジタルアートに偏り過ぎていることも問題だ。今後の若手作家の動向を左右する賞であるだけに、もう少し多様であってもいいように思った。

初出:『ART iT』 No.23 (Spring 2009)

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