ヨコハマ国際映像祭2009

2009年10月31日(土)〜11月29日(日)
新港ピア、BankART Studio NYK、東京芸大大学院馬車道校舎、野毛山動物園、黄金町バザール1の1スタジオ
http://ifamy.jp/

文:内田伸一(編集部)


グラフィティリサーチラボ(GRL)
写真提供:ヨコハマ国際映像祭2009
撮影:木奥恵三

国際的アートシーンにおいては、2001年からのトリエンナーレで知名度を上げてきた横浜市は、同時に「映像文化都市」を標榜している。イベント『ヨコハマEIZONE』開催や、東京芸大大学院映像研究科誘致はその一環で、今回の映像祭もこの延長線上に位置付けられる。

映画祭やアートフェスではなく「映像祭」とした通り、対象となるのはより広い映像表現・体験への眼差しだ。BankART Studio NYKでは映像アートに焦点を合わせた展覧会が企画された。クリスチャン・マークレイが様々な映画の楽器演奏シーンを用いて4重奏を実現する「ヴィデオ・カルテット」が優雅なプレリュードとなる一方で、山川冬樹、アルフレッド・ジャーのように、映像表現では脇役になりがちな要素(それぞれ音声とテキスト)を活かし、このメディアの可能性を改めて考えさせる作品群も印象深い。また、近隣の東京芸大大学院馬車道校舎では劇場式の上映プログラムも開催。ピピロッティ・リストやスティーヴ・マックイーンの長編映画をはじめ、各国の選者による現代の秀作が紹介された。さらに市内の野毛山動物園と黄金町では、その場の特性に基づいた映像作品のサテライト展示も行われた。


クリスチャン・マークレイ「ヴィデオ・カルテット」2002年
写真提供:ヨコハマ国際映像祭2009 撮影:木奥恵三

対照的に、新港ピアでの展開は、映像のより日常的・社会的な表情に接近する。ネット上に漂う個人のつぶやきを特殊装置で可視化した八谷和彦の作品「見ることは信じること」と、人気投稿サイト「ニコニコ動画」(挿入コメントだけが流れる特別版)の光が同じ空間に流れる。スプレー缶をレーザー光に置き換えてグラフィティを描くグラフィティリサーチラボ(GRL)や、NPO法人remoによる現在形アクティビズムを模索するかのような展示も行われた。いわゆる「観る(だけの)アート」を予想して訪れると戸惑いや疑問を抱くかもしれないが、ここで行われたことのいくつかは、この映像祭のもうひとつの方向性を示したかもしれない。

ほか、レイモン・ベルールら研究者を招いてのフォーラム、公募企画「CREAMコンペティション」、手作り映画のワークショップや公式サイトを通じての放送局運営も、精力的に行われた。
総じて、現代における映像を通した営みへの多角的アプローチを可能な限り示した初開催という印象。定期開催の予定は発表されていないが、ここから生まれたテーマや課題、そしてノウハウが、貴重な資産として「映像文化都市」に息づくことを強く願う。

ART iT特集:ヨコハマ国際映像祭2009
ART iTフォトレポート:ヨコハマ国際映像祭2009 (1)
ART iTフォトレポート:ヨコハマ国際映像祭2009 (2)

Copyrighted Image