Trevor Paglen, Installation view at Metro Pictures, 2013
2016年6月2日、ロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーは国際的に最も評価の高い写真賞のひとつ、ドイツ証券取引所写真賞2016をトレヴァー・パグレンに授賞した。パグレンには賞金30,000ポンド(約470万円)が授与され、最終候補まで残ったローラ・エル=タンタウィ、エリック・ケッセルス、トビアス・ツィローニーにはそれぞれ3,000ポンド(約47万円)が与えられた。
トレヴァー・パグレンは1974年メリーランド州キャンプスプリング生まれ。ニューヨーク在住。シカゴ美術館附属シカゴ美術学校で美術や写真、カリフォルニア大学バークレー校で地理学のPhDを取得したパグレンは、写真に留まることなく、幅広い領域で活動している。21世紀のアメリカ合衆国における監視の状態を記録することで、「不可視なもの」の可視化を試みるなど、現代における歴史的瞬間は捉える方法、オルタナティブな未来を創造する手段を探求している。2000年代より、展覧会や印刷物を通じた作品の発表を続けており、2016年もチューリッヒで開催するマニフェスタ11や第11回光州ビエンナーレなどへの参加も決定している。
写真を専門的に扱うパブリックスペースとして、スー・デイヴィスが1971年にロンドンに設立したフォトグラファーズ・ギャラリーは、1996年にシティグループをスポンサーに国際的な写真賞を創設。同賞は2005年にドイツ証券取引所を新たなスポンサーとして迎えて、現在まで継続されている。対象期間(今回は2014年10月1日から2015年9月30日まで)に発表されたヨーロッパ全土で発表された展覧会や出版物の中から、写真に対する意義深い貢献をもたらす作品を制作した存命中の写真家(国籍不問)に賞金30,000ポンドが与えられる。
現在、フォトグラファーズ・ギャラリーでは4名の対象作品を紹介する展覧会を開催中(7月5日まで)。同展終了後、4名の作品はフランクフルトのドイツ証券取引所本社でも展示される予定。
ドイツ証券取引所写真賞2016
2016年4月15日(金)-7月3日(日)
フォトグラファーズ・ギャラリー、ロンドン
http://thephotographersgallery.org.uk/
ローラ・エル=タンタウィ|Laura El-Tantawy(1980年イギリス、ウスターシャー生まれ)
対象:写真集『In the Shadow of the Pyramids』(私家版、2015)
2005年から2014年にかけて撮影した写真を纏めたこの写真集には、タハリール広場からはじまった「革命」を導くことになったカイロ市内の空気や緊張感が捉えられている。エジプト、サウジアラビア、アメリカ合衆国で育ったエル=タンタウィは、『In the Shadow of the Pyramids』において、古い家族写真に群衆の暴力性や陶酔感が鮮明に表れた反政府デモの参加者を至近距離から捉えた詩的なポートレートを交えた構成で、彼女自身の家族の歴史と、問題の尽きない国家のアイデンティティを並行して探求している。
エリック・ケッセルス|Erik Kessels(1966年オランダ・ルールモント生まれ)
対象:展覧会『Unfinished Father』フォトグラフィーア・エウロペア、レッジョ・エミリア(イタリア)、2015年5月15日-7月31日
ケッセルスは自身のプロジェクトを通じて、脳卒中に苦しむ父親の精神的な負担を軽くするために、父親が愛した、トッポリーノの愛称で知られる古いフィアット500の修復に取り組んだ。喪失や記憶など、断片化された現実を映し出すべく、分解されたトッポリーノの部品を展示空間に持ち込み、各部品の写真や父親が撮影した写真とともに展示した。
トレヴァー・パグレン|Trevor Paglen(1974年アメリカ合衆国メリーランド州キャンプスプリング生まれ)
対象:『The Octopus』フランクフルター・クンストフェライン、フランクフルト(ドイツ)、2015年6月20日-8月30日
パグレンのプロジェクトでは、監視社会やデータ収集、サテライトやドローンを使用した極秘活動といった複雑な問題や、こうしたものの権力との関係性を検討している。インスタレーションは、軍事的、政治的立入禁止区域やドローンの飛行航路を示す地平線のイメージ、オブジェ、科学者やアマチュア天文家、人権活動家と協力して集めた資料で構成されており、このプロジェクトを通じて、パグレンは痕跡や構造が目に見える証拠を残してしまうがゆえに、隠しきることのできない秘密を明らかにしている。
トビアス・ツィロニー|Tobias Zielony(1973年ドイツ・ヴッパタール生まれ)
対象:『The Citizen』第56回ヴェネツィア・ビエンナーレ・ドイツ館、2015年5月9日-11月22日
このプロジェクトにおいて、ツィロニーはアフリカからヨーロッパに渡ってきた難民の生活を、主にベルリンとハンブルクで撮影した。母国での暴力や弾圧を逃れてきた多くの人々は、自由と安全を求めて西欧に辿り着いたにもかかわらず、公的な権利も就労許可も与えられないまま、難民キャンプに暮らす部外者としてしか受け入れられないことを知ることになる。このプロジェクトを通じて、ツィロニーが撮影した写真のみならず、当事者の証言やインタビューなどが、アフリカの新聞や雑誌に掲載され、海を渡った人々の経験と旅を伝えた。
歴代受賞者一覧
2016|トレヴァー・パグレン、ローラ・エル=タンタウィ、エリック・ケッセルズ、トビアス・ツィロニー
2015|ミハエル・ソボツキー&パトリック・ウォーターハウス、ニコライ・バカレフ、ヴィヴィアン・サッセン、ザネレ・ムホリ
2014|リチャード・モス、アルベルト・ガルシア=アリックス、ヨッヘン・レンパート、ローナ・シンプソン
2013|アダム・ブルームバーグ&オリバー・チャナリン、ミシカ・ヘナー、クリス・キリップ、クリスティナ・デ・ミゼル
2012|ジョン・ステザカー、ピーター・ヒューゴ、クリストファー・ウィリアムス、チェスケー・ブディヨヴィツェ、川内倫子
2011|ジム・ゴールドバーグ、トーマス・デマンド、ロー・アスリッジ、エラッド・ラスリー
2010|ソフィー・リステルユベール、アナ・フォックス、ゾイ・レオナード、ドノヴァン・ワイリー
2009|ポール・グラハム、エミリー・ジャシール、トッド・パパジョージ、タリン・サイモン
2008|エスコ・マニッコ、ジョン・デイヴィス、ヤコブ・ホールト、ファザル・シーク
2007|ワリッド・ラード/アトラス・グループ、フィリップ・シャンス、アンデルス・ペーターセン、フィオナ・タン
2006|ロバート・アダムス、イト・バラダ、フィル・コリンズ、アレック・ソス
2005|リュック・ドライエ、JH・エングストロム、イェルク・ザッセ、スティーブン・ショア
2004|ジョエル・スタンフェルド、ロバート・アダムス、ピーター・フレイザー、デヴィッド・ゴールドブラット
2003|ユルゲン・テラー、サイモン・ノーフォーク、イトカ・ハンズロヴァ、ベルティアン・ファン・マネン
2002|シラナ・シャバジ、ロジャー・バレン、エリナ・ブロテルス・フィリップ=ロルカ・ディコルシア、トーマス・ルフ
2001|ボリス・ミハイロフ、ハナ・スターキー、ヘレン・ファン・ミーネ、ジェム・ソーサム、ロニ・ホーン
2000|アナ・ガスケル、ジェームス・ケースベア、トレイシー・モファット、イトカ・ハンズロヴァ、ティム・マクミラン
1999|リネケ・ダイクストラ、アウグスト・アルヴェス・ダ・シルバ、アレックス・ハートレイ、インカ・ショニバレ、ポール・M・スミス
1998|アンドレアス・グルスキー、トーマス・デマンド、ポール・グラハム、カティア・リーブマン、杉本博司
1997|リチャード・ビリンガム、フィリップ=ロルカ・ディコルシア、キャサリン・ヤス、ウタ・バース、マット・コリショウ