艾未未(アイ・ウェイウェイ)穴倉生活そして生き埋め生活

艾未未(アイ・ウェイウェイ)穴倉生活そして生き埋め生活
文 / 牧陽一

私たちは新疆ウィグル自治区に下放させられた。当時は懲罰として穴倉に住まわせられた。そこは安全だという感覚があった。穴倉の中は、冬は暖かく夏は涼しい。屋根と地面が同じだから、家の屋根を豚が走っていくと、よく尻が天井から飛び出した。思い出すが、穴倉には明かりが無い。父が入ってくる時、梁に頭をぶつけて、蹲(うずくま)った。頭からは血が噴き出した。父はスコップで掘り下げて、床を20センチほど低くした。だから建築というのは人間にとって当たり前の多くの常識さえあればそれでいいのだ。それから父はインテリだったから、我が家に本棚が必要になった。父は穴を掘って本を放り込んだ。見たところそれは見事な本棚だ。だから私は理想的な建築などというものは存在しないと思っている。*1あの頃、新疆ウィグル自治区の生活は苦しいものだった。年に一度しか肉を口にできなかった。正月の時だけはトウモロコシの饅頭(マントウ)に少しサッカリンが入っていて私を大喜びさせた。最近、新疆に帰って昔住んでいたところに行ってみると、穴が一つ残っているだけだった。子供のころの仲間も年老いて朴訥な農民に変わり果てていた。私の心は荒涼としていた。*2

理想的な建築は存在しない、つまり現実に取り組み大衆と通じ合う努力が形になったもの、それが建築なのだろう。そして少なくとも「殺さない建築」であることは2008年の四川汶川大地震以来変わらないテーマであり、日本の坂茂の建築にも共通している。人間への思いは艾未未の現代アートや行動にも一貫している。 幼いころ一緒に生き生きと楽しく遊んだ仲間は、生活苦から覇気のない農夫に変わり果てていた。この一文は魯迅の小説『故郷』の閏土(ルントゥ)そのものだ。魯迅と艾未未も交差する。

2014年4月3日から7月7日まで、ベルリンのマルティン・グロピウス・バウで『Ai Weiwei – Evidence[艾未未 – 証拠]』」展が、4月18日から8月10日まで、ニューヨーク、ブルックリン美術館で『Ai Weiwei: According to What?』展*3が開催されている。
3月28日、29日に習近平がベルリンでメルケルと会談。艾未未は習に自分の展覧会を見ることを勧めて、同じ革命家の二代目でも如何に二人が違うのかを知ってほしいと言っていた。このとき、風刺漫画《鳩鵪漫畫》691(3月29日掲載)には「メルケル:『わー、艾未未の幽霊だー。』 習近平:『怖がらないで、奴は北京に閉じ込めてあるはずだ。』」と掲載された。当時、ベルリンの有志たちは中国政府に艾未未のパスポートを返却させ、美術展に招聘するようにメルケルに働きかけていた。艾未未の展覧会が開催されているというのに、中国政府の人権侵害、国際的取引によって、その本人が出席できない状況が続いている。4月2日、艾未未はもしも公正な選挙が実行されるのなら、中国共産党に勝ってほしいし、私が党のために働いてもいいと言っている。*4
あくまで公正な民主選挙を行えばだが、艾未未には性急な政権転覆の意図はない。段階的な民主化が叶えば、政府に協力してもいいとまで言っているのだ。それなのに政権はあまりも硬直化している。艾未未に対して、尾行、監視、襲撃殴打、拘留、監禁と「古いやり方の嫌がらせ」を続けている。

2014年4月26日、『上海CCAA中国当代芸術奨十五年』展で2008年終身最優秀賞(傑出成就奨)の受賞者である 「艾未未(アイ・ウェイウェイ)」の名前が削除された。さらに5月23日北京798ユーレンス・アート・センターでオランダ人の中国現代アート研究者『ハンス・ファン・ダイク(1946-2002):5000の名前』展*5が開催されているが、先の『CCAA中国当代芸術奨十五年』展同様に艾未未の名前が隠された。案内の写真からも艾の姿を切り取った。艾未未はこれに抗議して作品を撤収。艾未未は1990年代、戴漢志とともに「中国芸術文件倉庫CAAW」を創設して多くのアーティストに表現の場を提供した。戴が晩年になって体を壊した時も給与を払い続けた。戴は2002年に逝去。葬式で彼の妻の手をとったのは艾未未だった。最も大切な親友だっといえるだろう。中国国内では、当局によって、艾未未は存在しない、存在しなかったという「不在」工作が続いている。これは全ての影響力および発言力を無にしようとする私たちがよく知っている古い嫌がらせの方法、「活埋」(生き埋め)ではないか。名前を削除、作品展示の禁止という政府の弾圧は、ツイッターでたちまち世界中に知れてしまう。政治とは関係のないアート界でも艾未未の名は禁句となり、それに抵抗する人間もいない。言論、表現の自由への偏執狂的な体制側からの弾圧と臆病な自己規制が蔓延している。
習近平訪問に合わせた4月30日夜のウルムチの爆破事件にしろ、民衆の言いたいことは、武力によって権力を守ることに使っている労力を改革や民主化に回せということだ。暴力で権力を守るのではなく艾未未のいう「変えていく力」を発揮すべきなのだ。

国内で生き埋めにされる艾未未だが、逆に中国以外の世界では本人不在のままに美術展が開催され、艾未未の存在意義は大きくなるばかりだ。政府はこれ以上艾未未の情報を止められないだろう。艾未未を描いたドキュメンタリー映画『アイ・ウェイウェイは謝らない[Never Sorry]』に続いて『The Face Case』も完成した。さらに艾未未が主演するSF映画『砂嵐[The Sand Storm 沙尘暴]』では資金調達に艾未未の名を使ったために問題になっているが、公開が楽しみだ。政府が艾未未の名を消そうとするなら、私たちは彼の名を叫び続ければいいのだ。アイ・ウェイウェイ!アイ・ウェイウェイ!と。


*1 「艾未未読本」(牧陽一訳、2010年、集広舎、pp.39-41)、中国語原文は陳丹青+艾未未「非芸術訪談」(2007年、人民文学出版社、109p)
*2 「艾未未読本」(pp.39-41)、「非芸術訪談」(pp.126)
*3 『艾未未-何に因って?』展(森美術館、2009年7月25日-11月8日)の巡回展
*4 艾未未:希望共产党胜选 維多新聞(2014年4月2日掲載) http://china.dwnews.com/news/2014-04-02/59462655.html
*5 中国名表記は 戴漢志、アルファベット表記はHans Van Dijk。北京在住で、中国現代アートのキュレーター、ディーラー、研究者として活躍した。2002年に死去。

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“Ai Weiwei The Fake Case” – TRAILER – English subtitles

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