2016年8月13日[土]、14日[日]トヨダヒトシ 映像日記・スライドショー(野外上映) 【原美術館】

プリントでも写真集でもなく、35mmフィルムによるスライドショーという形式でのみ発表を続ける写真家・トヨダ ヒトシが、原美術館中庭で二夜限りの上映を行います。自ら操作するアナログの映写機から現れては消えるイメージの連なりは、一人の写真家が生きてきた時間の軌跡をいきいきと描き出します。

「闇に挟まれながらスクリーンに現れる“像”は手を伸ばしても掴むことは出来ず、
日々の中での失敗やよろこびのように、時間に押し流されて消えていく。」

かつてトヨダはこう書いています。スクリーンから消えていく写真と写真の間に立ち現れる心の動きや思いにこそ意味がある、と考える彼の映像日記は、ささやかな瞬間の愛おしさ、その連続こそが人生であることを、改めて私たちに教えてくれるようです。

今回は、新たに構成された映像日記作品「spoonfulriver」に加え、最近作「for Nine Postcards」を上映します。後者は、日本の環境音楽の第一人者、故・吉村 弘が生前撮影したスライド写真を、トヨダが氏とその音楽へのオマージュとして編んだ異色の作品です。1980年頃、風景の波動をとらえた新しい音楽を模索していた吉村は、現代美術館として開館したばかりの原美術館を訪れ、その佇まいや窓ごしに見た木々の眺めに感銘を受けたといいます。その後、原美術館の空間に広がる「音の風景」を試したいという吉村の希望を受け、完成した音楽を館内で流したことがきっかけとなり、初のアルバム『ナイン・ポストカード』(1982)が誕生します。このたびの上映は、吉村 弘の音楽とその生の輝きを、原美術館でもう一度再生する試みでもあるのです。

木々を揺らす風や蝉の声の響く真夏の夕べ、作家とともに新たな記憶を紡ぐひとときをぜひ味わってみてください。


(左)野外上映 ポートランド(米国)にて 
(右)三内丸山遺跡でのスライドショー

【上映作品】
第一夜:8月13日(土) 19:15 開演
spoonfulriver ひと匙の河 2007-2016 / 70min. / 35mm slide film / silent

2005年、春先のニューヨークの平凡な道から始まる。忘れえぬ人に宛てた手紙のような。映像日記第五作。

川の眺め/このありふれた日/いくつかの旅をした/名もない出来事/グラーツ/残された言葉/今も/窓に映っていたのは/東京/想いを遂げることと幸せになることは同じではないのかもしれない/去ってゆくこと/集めた光/静かな/白い夢/ひと匙の河

第二夜:8月14日(日) 19:15 開演
for Nine Postcards 2015 / 40min. / 35mm slide film / sound
*ポストパフォーマンストーク [14日(日)上映後、約30分] 水沢 勉(神奈川県立近代美術館館長)×トヨダ ヒトシ

日本の環境音楽の第一人者として知られる故・吉村弘の遺した約2,800枚のスライド写真の中からトヨダが選び構成した最近作。神奈川県立近代美術館委嘱作品。

彼が見た空があり、雲があった。冬枯れの樹があった。路面の傷。ことばがあり、遥かさがあり、鏡のような音があった。雨が降り、ひとり言のような詩があった。吉村弘という一人の人の生きたことの面影があった。

【会場】 原美術館 中庭 *雨天時はホールにて開催。当日11:00までに、このサイトもしくは当館HPにて発表。

*いずれも開演前に「みんな、うちのコレクションです」展をご覧頂けます(11時-19時頃/16時30分以降はスライドショー参加者のみ入館可能/当日に限り半券ご提示で再入場可)

【料金】 一般 1,800円 学生・原美術館メンバーとご同伴者1名まで 1,600円
(予約制/当日精算/入館料込/全席自由) 
*二夜共通券(一般3,500円 学生・原美術館メンバーとご同伴者1名まで3,000円)の
お取扱いは終了しました。

7月1日(金)11:00より 原美術館受付または予約専用メールアドレスtoyoda-ticket@haramuseum.or.jpにて承ります。(お名前、ご希望日、枚数、日中連絡可能な電話番号、メンバーは会員番号)をお知らせください。携帯電話の場合上記メールの受信設定をお願いいたします。4日以内に返信の無い場合、おそれいりますが下記までお問い合わせください。*原美術館受付でのご予約は開館中のみ

「トヨダヒトシ インタビュー/記憶の奥にとどまるもの」 
こちらからお読みいただけます。

【作家略歴】

トヨダ ヒトシ(1963-)
写真家。1986年の渡米をきっかけに独学で写真を始める。1993年よりニューヨークを拠点にし、ブロードウェイ沿いの駐車場やチャイナタウンの公園、教会、劇場といったパブリックスペースにおいて、アナログのスライド映写機を自ら操作し上映するライブスライドショーという形式で、映像日記作品を発表しはじめる。2000年より日本各地の美術館やギャラリーといったアートスペース、山奥の廃校になった小学校の校庭、三内丸山遺跡、米国各地の映画祭・芸術祭、また「ヨコハマトリエンナーレ2014」などで上映を続けている。2012年拠点を日本に移す。http://www.hitoshitoyoda.com


吉村 弘(1940-2003)
サウンドアーティスト。横浜市に生まれる。早稲田大学で美術を学んだのち、コンクリートポエトリーや図形楽譜を発表したほか、造形と音響を自在に組み合わせたサウンドインスタレーション作品や独創的な音具を用いたパフォーマンスなど、ジャンルを超えた作品づくりをする。駅やホテル、博物館など公共空間の音環境デザインも多く手がける。『都市の音』(1990)の著書、『ナイン・ポストカード』(1982)をはじめとするCD多数。神奈川県立近代美術館のサウンドロゴ(2003)が遺作となる。没後、同・葉山館 にて2005年「吉村弘の世界 音のかたち、かたちの音」展が開催された。

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※以下、上映時に配布したパンフレットを転載いたします。

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よみがえり よびかわす
吉村弘とトヨダヒトシ
水沢勉

それは無数の静かな小さな驚きのつらなりであった。
トヨダヒトシは、まるまるひと夏の準備の期間をかけて、その作品の制作に集中していた。
「for Nine Postcards」
去年、2015年10月25日(日)、半年後の神奈川県立近代美術館の閉館に向けてのクロージングイベントの一環として、トヨダヒトシは、吉村弘(1940-2003)が1980年代に集中的に撮影したスライド写真を選び、それと吉村弘のアルバム「MUSIC FOR NINE POST CARDS」の音楽を、まるで織物のように丁寧に組み合わせた新作を同館の中庭で発表した。
時空とはだれも正確に測ることのできないアマルガムであることを、それはあらためて感じさせるみごとな作品となった。もちろん、生きるための目安として時空にわたしたちは数字を刻み、あるいは、重ね、それをいったんは共有できることにしている。そうしなければまともに日常生活を送ることはできない。約束のひとつも成立しなくなってしまう。
そうした約束事を反故にする・・・というのが大げさならば、それを一部解除させて、すべてがあいまいに、いや正確には、豊かに多義的になる世界を現出させる。ぼんやりと焦点が定まらないのではない。ひとつひとつはきわめて明晰である。トヨダヒトシがマニュアルで操作するプロジェクターがスライドを入れ替えていくときの「ガシャン」という機械音が時間をしっかりと分節するように。
しかし、すこしでも注意するならば、この機械音でさえ、まったく即興的な性格の不規則性を帯びたものであることに気づくはずである。その時空には人間の息遣いが隅々まで通っているのだ。
その淡々とした時間が経過するうちに、なにものかが、よみがえり、よびかわす。
それは「死者」かもしれない。あるいは、人間的な基準を越えてしまった都市のなかで迷子になっていた「物」や「命」かもしれない。街角の遠い「風景」かもしれない。「少女」かもしれない。
吉村弘は、最初のアルバム「MUSIC FOR NINE POST CARDS」に音楽家としてのすべてを注ぎ込んでいた。みごとな集中力であったが、作品の「音」そのものは、時空へとほどけるように解き放たれ、いまも響きつづけている。
最初の発表の場である原美術館で、それが、一夜限りとはいえ、もう一度、よみがえり、よびかわす。
そのとき、現実も、芸術表現によって媒介された第二の現実も、おたがいに滲み、溶け合い、もつれ、ほつれ、わたしたちを、見知らぬ場所へといつのまにか静かに案内してくれるにちがいない。

(みずさわ つとむ 神奈川県立近代美術館長)

トヨダヒトシ 映像日記 スライドショー
日時 2016年8月13日(土)、14日(日)
場所 原美術館 中庭
出演 トヨダヒトシ
音響 株式会社SHOUT 山本哲哉(14日)

主催 原美術館
協力 神奈川県立近代美術館

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「みんな、うちのコレクションです」
2016年5月28日[土]-8月21日[日]

篠山紀信展 「快楽の館」
2016年9月3日[土]-2017年1月9日[月・祝]

「エリザベス ペイトン」展(仮題)
2017年1月21日[土]-5月7日[日]

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