アートウィーク東京 AWT FOCUS 2026

2026年11月4日から11月8日まで、東京都内の美術館やギャラリーを無料のシャトルバスでつなぐアートイベント「アートウィーク東京(AWT)」が開催されている。AWT独自のプログラムとして2023年に「買える展覧会」として始まった「AWT FOCUS」は、4回目となる今年、ウィーンを拠点とするギャラリーフェスティバル「Curated by」とのコラボレーションのもと、都内10カ所のギャラリーおよびアートスペースをめぐる回遊型の展覧会群へと開催形式を刷新した。各会場が国内外で活躍するキュレーターを迎え、ローゼン美沙子(ミサコ&ローゼン オーナー)とラファエル・オーバーフーバー(Curated by Vienna ボードメンバー)からなるセレクションコミッティーが選定した10の展覧会を同時に開催する。各展覧会の会期は会場ごとに異なり、AWTの会期終了後も続く。ここではそのうち三つの展覧会を紹介する。(AWT FOCUSの全プログラムについては別記事を参照)

 

1. 青柳菜摘「有り得べき言葉、有り得べき世界」@ MISA SHIN GALLERY
2. 鴨治晃次「Everyday Life」@ Take Ninagawa
3. メアリー・ウェザーフォード「Komorebi」@ 思文閣銀座

 


 

AWT Focus, “Natsumi Aoyagi: Possible Words, Possible World,” curated by Jaemin Shin, installation view, Misa Shin Gallery, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.AWT Focus, “Natsumi Aoyagi: Possible Words, Possible World,” curated by Jaemin Shin, installation view, Misa Shin Gallery, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.
AWT Focus, “Natsumi Aoyagi: Possible Words, Possible World,” curated by Jaemin Shin, installation view, Misa Shin Gallery, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.AWT Focus, “Natsumi Aoyagi: Possible Words, Possible World,” curated by Jaemin Shin, installation view, Misa Shin Gallery, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.
AWT Focus, “Natsumi Aoyagi: Possible Words, Possible World,” curated by Jaemin Shin, installation view, Misa Shin Gallery, Tokyo, 2026.AWT Focus, “Natsumi Aoyagi: Possible Words, Possible World,” curated by Jaemin Shin, installation view, Misa Shin Gallery, Tokyo, 2026.

 

青柳菜摘「有り得べき言葉、有り得べき世界」
2026年11月4日(水)–12月5日(土)
MISA SHIN GALLERY(東京都港区南麻布3-9-11 パインコーストハイツ1F)
開廊時間:12:00–19:00
休廊日:日、月、祝(11/8は開廊)
https://www.misashin.com/
キュレーション:シン・ジェミン
※《新地登記簿》コラボレーション:細井美裕/協力:Gallery 38

 

青柳菜摘(1990年東京都生まれ)は、映像メディアを用い、フィールドワークやリサーチを元にプロジェクトベースに主題を立てて作品を発表してきた。観察、記録、物語、詩文を手掛かりにタイムベースト・メディアの可能性を探究するとともに、詩人としても活動し、詩集『そだつのをやめる』で第28回中原中也賞を受賞している。近年の主な展覧会に、「ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ」(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、2024)、「亡船記」(十和田市現代美術館、青森、2022)など。

本展は、ソウルを拠点にクリエイティブスペース「The WilloW」を主宰するインディペンデント・キュレーター、シン・ジェミン(1991年韓国・ソウル生まれ)のキュレーションによる、青柳の同ギャラリーでの初個展となる。シンはICCで大規模な映像インスタレーションとして展示されていた《新地登記簿》(2024)を見て、土地の記録を考えている点に関心を持ち、それが2025年にThe WilloWで開催したグループ展「Patchwork!」に青柳が参加するきっかけとなった。この展覧会で新作として発表されたのが《関係名デモンストレーション》(2025)である。本展は、このふたつの映像作品を並べるというシンの構想のもと、ギャラリー空間に合わせて再構成された《新地登記簿》と《関係名デモンストレーション》に、平面作品と、これらを接続するサイトスペシフィックなインスタレーションをあわせて展示する。

サウンドアーティストの細井美裕との共同制作による《新地登記簿》は、「想像することすら困難なほど遠い過去や未来を想像することは可能か」という問いから始まる。東京湾の埋立地は人間の介入によって造成され、登録という行為を通して「土地」として存在し始める。その歴史が人為的な記録によって始まるのであれば、同じ記録という行為によって、まだ存在していない未来や、もはや知ることのできない過去を想像することもできるのではないか。この問いのもと、青柳と細井は埋立地を実際に歩き、埋め立てられる前の江戸時代以前の姿や、1000年後の姿を、創作を通して考えたという。作品は、埋立地で撮影された映像や環境音、青柳による詩、その詩をもとにAIが生成したイメージによって構成される。

《関係名デモンストレーション》は、日本の戸籍制度を出発点に、人間同士、人間と非人間、非人間同士の関係を、所有とは異なる枠組みによって記録する可能性を探る。青柳による同名の短編小説では、戸籍制度のなかに「関係名」と呼ばれる架空の項目が導入され、関係は流動的かつ一時的なものとして捉えられる。作品は「Creation(創造)」「Excerpt(引用)」「Transformation(変容)」の三つの層で展開し、神話や昔話、テレビドラマなどに見られる家族や関係性のイメージを引用し、AIを用いて変形する。ふたつの作品を接続するサイトスペシフィックなインスタレーションは、結婚や家族制度と結びついてきた婚礼用の座布団を解体して制作されたもので、その布をギャラリー空間へと広げることで、既存の関係性を一度解体し、別のかたちへと再構築する試みに物質的なかたちが与えられる。座布団の布は展示室からギャラリー奥の空間にまで広げられ、奥の空間には、《関係名デモンストレーション》のタイトルバックにも用いられた夏用の座布団の布にドローイングを描いた平面作品も壁に掛けられている。

 

AWT Focus, “Koji Kamoji: Everyday Life,” curated by Maria Brewińska, installation view, Take Ninagawa, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.AWT Focus, “Koji Kamoji: Everyday Life,” curated by Maria Brewińska, installation view, Take Ninagawa, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.
AWT Focus, “Koji Kamoji: Everyday Life,” curated by Maria Brewińska, installation view, Take Ninagawa, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.AWT Focus, “Koji Kamoji: Everyday Life,” curated by Maria Brewińska, installation view, Take Ninagawa, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.
AWT Focus, “Koji Kamoji: Everyday Life,” curated by Maria Brewińska, installation view, Take Ninagawa, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.AWT Focus, “Koji Kamoji: Everyday Life,” curated by Maria Brewińska, installation view, Take Ninagawa, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.

 

鴨治晃次「Everyday Life」
2026年11月4日(水)–2027年1月9日(土)
Take Ninagawa(東京都港区東麻布2-14-8)
開廊時間:11:00–19:00
休廊日:日、月、祝
https://www.takeninagawa.com/exhibitions/15283/
キュレーション:マリア・ブレヴィンスカ

 

鴨治晃次(1935年東京都生まれ)は、1953年から1958年にかけて武蔵野美術大学で麻生三郎、山口長男に師事したのち、1960年にワルシャワ美術アカデミーへ入学し、1966年に修了した。1967年にワルシャワのフォクサル・ギャラリーで初の個展を開催して以来、ヘンリック・スタジェフスキ、エドワード・クラシンスキ、タデウシュ・カントルら当時のポーランドを代表するアーティストたちとともに、ポーランドの前衛アートシーンを創っていった。近年の主な展覧会に、個展「不必要な物で全体が混乱しないように」(ワタリウム美術館、東京、2025)、個展「握りつぶされた紙(ミロスワフ・バウカとの合作)」(フォクサル・ギャラリー、ワルシャワ、2022)、個展「小石たち」(フォクサル・ギャラリー財団、ワルシャワ、2020)など。2024年にはポーランド文化功労者としてグロリア・アルティス賞を受賞した。

本展は、ポーランドのザヘンタ国立美術館の元キュレーター、マリア・ブレヴィンスカのキュレーションにより、極限の危機的状況下においても生と人間性を支え続ける日常的な営みに焦点を当てる。1980年代に強制収容所の生存者たちと出会った作家自身の記憶と、アウシュビッツで愛を育んだヤン・ピレツキとゲノヴェファ・ドゥシュチャクの物語を出発点に、鴨治は歴史を文字どおりの物語として再構成することを避け、抽象や還元、空間、そして注意深く見つめることに根差した独自の芸術言語へと、これらの経験を置き換えていく。

中心となるインスタレーション《アウシュビッツの部屋》(2025)は、ピレツキとドゥシュチャクの物語をもとにしている。鴨治がふたりに出会ったのは1980年代半ば、写真集『夜と霧は今』(用美社、1988)の取材でポーランド各地を訪れていた大石芳野に通訳として同行していたときだった。それから約40年を経た2025年、ワタリウム美術館での個展を訪れた大石が残した1通の手紙が、鴨治に当時の記憶を呼び起こさせたという。ピレツキは1939年秋にゲシュタポに逮捕されてアウシュビッツへ送られ、地下抵抗運動に参加していたドゥシュチャクも1943年に逮捕された。「死のブロック」として知られる第11ブロックで出会ったふたりは、看守の助けもあって収容所内の人目につかない場所で密会を重ねたという。鴨治はこの場所を「部屋」と喩え、親密さや人間同士のつながりを取り戻すための避難場所となっていた空間を、日常的なものとして捉え直す。作品は、長方形の紙と木の細い棒によって部屋の輪郭が示され、その紙の上に三つの石が置かれる簡素な形態をとる。鴨治がオシフィエンチムの町から持ち帰った石は、その場所とそこに生きた人々の記憶を想起させる。

あわせて、1975年にフォクサル・ギャラリーで発表された代表作《通り風》(1975/2026)が展示される。空間に吊るされた24枚の薄い和紙は、鑑賞者の存在によって生じるわずかな空気の動きや通り風に応じて揺れ動き、それぞれの紙には目線の高さに円形の穴が開けられている。このほか、床に置かれた水の入ったグラスと上方に吊るされたアルミニウムの管によって井戸の深さを示す新作《俳句—井戸》(2026)、2021年から2023年にかけて制作された白い絵画のシリーズ、粘着テープを用いて床に直接引かれた《赤い線》(2026)が、ギャラリー空間に展示される。

 

AWT Focus, “Mary Weatherford: Komorebi,” curated by Jeremy Strick, installation view, Shibunkaku, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.AWT Focus, “Mary Weatherford: Komorebi,” curated by Jeremy Strick, installation view, Shibunkaku, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.
AWT Focus, “Mary Weatherford: Komorebi,” curated by Jeremy Strick, installation view, Shibunkaku, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.AWT Focus, “Mary Weatherford: Komorebi,” curated by Jeremy Strick, installation view, Shibunkaku, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.
AWT Focus, “Mary Weatherford: Komorebi,” curated by Jeremy Strick, installation view, Shibunkaku, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.AWT Focus, “Mary Weatherford: Komorebi,” curated by Jeremy Strick, installation view, Shibunkaku, Tokyo, 2026. Photo by Kei Okano, courtesy Art Week Tokyo.

 

メアリー・ウェザーフォード「Komorebi」
2026年11月4日(水)–11月21日(土)
思文閣銀座(東京都中央区銀座5-3-12 壹番館ビルディング地下1階)
開廊時間:10:00–18:00
休廊日:11/15
https://www.shibunkaku.co.jp/exhibition/list/maryweatherford
キュレーション:ジェレミー・ストリック

 

メアリー・ウェザーフォード(1963年アメリカ・カリフォルニア州オーハイ生まれ)は、ロサンゼルスを拠点に活動する、アメリカを代表する抽象画家。約30年に及ぶ制作活動のなかで、直観と経験、偶然と必然という要素を重ね合わせ、独自の絵画表現を築いてきた。2012年以降は、絵画にネオン管を組み込んだ作品でも知られる。近年の主な展覧会に、個展「Persephone」(ガゴシアン、香港、2026)、個展「The Flaying of Marsyas」(パラッツォ・グリマーニ美術館、ヴェネツィア、2022)など。

本展は、ロサンゼルス現代美術館(MOCA)とダラスのナッシャー・スカルプチャー・センターの館長を歴任したジェレミー・ストリックの監修のもと、パリのギャラリーgalerie frank elbazとの共同企画で実現した、ウェザーフォードの日本初個展となる。長年ウェザーフォードの作品を追ってきたストリックは、数年前に初めて目にした紙の絵画をきっかけにスタジオ訪問を重ね、本展を構想した。展覧会タイトルの「Komorebi」は、木々の葉の間からこぼれる光をあらわす日本語に由来する。

本展の中心となるのは、森の木々から差し込む光の記録を出発点に、作家が身体の動きを重ね合わせるように雁皮紙に描いた〈Summer Forest〉シリーズである。2024年に雁皮紙とシェラックインクを用いて制作されたこれらの作品について、ウェザーフォードは、高知でつくられた雁皮紙がロサンゼルスへ渡り、ふたたび日本へ戻ってきたと語る。このシリーズの制作は、エレイン・デ・クーニングのロングアイランドのスタジオで始まった。松林のなかにあり水辺に近いそのスタジオでは、湾が鏡のように光を空へ上げ、木々を通して降りてくるといい、ウェザーフォードはその光を捉えようとした。作品には夏の音、暑い日の虫の羽音、木の影と涼しさも示されているという。あわせて、1990年代から取り組んできた貝殻のコラージュによる小さな絵画2点と、柔らかなラベンダー色のネオンを組み込んだ絵画が展示される。当初は紙の絵画のみに絞る構想だったが、日本初個展として作家の仕事の幅を紹介するため、そしてギャラリーの空間に促されて、今回の構成に至ったという。これら三つの作品が並ぶことで、光と物質、記憶と感覚が交差する空間が立ち上がる。

 

AWT FOCUS:https://www.artweektokyo.com/focus/

 

アートウィーク東京
2026年11月4日(水)-11月8日(日)
https://www.artweektokyo.com/
会場:都内の参加美術館・ギャラリー、AWT FOCUS、AWT BARほか各プログラム会場
主催:一般社団法人コンテンポラリーアートプラットフォーム
提携:アートバーゼル
特別協力:文化庁

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