恵比寿映像祭2024「月へ行く30の方法」@ 東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス センター広場ほか


 

恵比寿映像祭2024「月へ行く30の方法」
2024年2月2日(金)-2月18日(日)
※コミッション・プロジェクト(3階展示室)のみ3月24日(日)まで
https://www.yebizo.com/
東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス センター広場ほか
開催時間:10:00–20:00(最終日は18:00まで)
(恵比寿映像祭以後のコミッション・プロジェクトは10:00-18:00)
休館日:月(ただし、12日は開館)、2/13
企画統括::田坂博子(恵比寿映像祭キュレーター、東京都写真美術館学芸員)

 

「映像とは何か」という問いを掲げ、毎年異なるテーマによる探究を続ける恵比寿映像祭が、東京都写真美術館を中心に恵比寿周辺の複数会場で開催される。

16回目となる本年度のテーマは、本展参加作家の土屋信子の過去の個展タイトルから引用した「月へ行く30の方法」。1969年7月20日、NASA(アメリカ航空宇宙局)のアポロ11号による月面着陸から半世紀以上が経ち、人々が気軽に月へ行くことも技術的に不可能ではなくなりつつある現在において、恵比寿映像祭では、一見それとは結びつかないようなアーティストたちの思考や実践の中に、新しい発見や創造につながる可能性を、アーティストだけでなく、そこに参加する観客とともに探究していく。

 


荒川ナッシュ医《Mega Please Draw Freely》2021年 テート・モダン、ロンドン Photo: Rikard Österlund


髙橋凜《Sculpture》2023年


ジョアンナ・ピオトロフスカ《Animal Enrichment》2019年/3分8秒

 

東京都写真美術館2階展⽰室は、順路や展示壁を作らず、広場のような空間で写真美術館のコレクションを含む多様な社会的・⽂化的アイデンティティを持ったアーティストたちの映像、写真、資料などを展⽰するとともに、その中央では、連⽇、パフォーマンス、ライヴ、スクリーニング、トーク、ディスカッション、ワークショップなどのイベントを行なう。荒川ナッシュ医は、アジアの主体形成の未来を推測するため、さまざまな感情や感性の「間」にあるものについて探求すべく、会期中、参加型の新作パフォーマンスを複数回試みる。また、物事の捉え⽅や考え⽅について⾝体や⾔葉を使った⾏為やインスタレーションで表現する関川航平は、写真美術館館内で作家と鑑賞者が予期せず出会う新作を発表(会期中不定期で実施予定)。複製メディアとしての映像の⼀回性に焦点をあてる今回の映像祭において、⼀回性にこだわったパフォーマンス作品となる。そのほか、猫との対話を試みたマルセル・ブロータスの《Interview with a Cat》(1970)、観葉植物にアルファベットを教え続けるジョン・バルデッサリ《植物にアルファベットを教える》(1972)など、異なる感性を持った他者とのコミュニケーションにおける困難をユーモアに転じさせた作品を通して、コミュニケーションの本質とは何かを考える。

同館地下1階展⽰室では、⼟屋信⼦が、さまざまな感性や感覚のはざまで⾝近なものや廃材を⾃在に組み合わせて象った⽴体作品に、フィールドレコーディングした細やかな⾳声や映像を組み込んだ映像祭ならではの試みに取り組んだ新作《⽉へ⾏く30の⽅法》(2024)、2000年頃よりコラボレーションを⾏なう⻘⽊陵⼦+伊藤存が、数学を理論ではなく情緒で解くことを説いた数学者・岡潔にインスピレーションを得て、こどもの感性の発芽や成⻑に着⽬したライフワーク《9歳までの境地》(2011)の最新版のインスタレーションを発表するほか、芸術の起源や意識への作⽤に関⼼を寄せるロジャー・マクドナルドによる私設美術館「フェンバーガーハウス」のブランチを写真美術館内に開館する。

 


「フェンバーガーハウス」2023年 Dome Temple installation in the Dome Photo:ロジャー・マクドナルド


リッスン・トゥ・ザ・シティ『内城川(Naeseong River)の動植物図鑑』より ©︎Listen to the City

 

同館1Fホールを会場とする上映部門では、展示部門に出品するデイヴィッド・ハモンズを追ったドキュメンタリー《The Melt Goes On Forever》(2022、監督/ジャッド・タリー、ハロルド・クロックス)や、崟利子によるダンサーの川村浪子を追ったドキュメンタリー《ゆっくりあるく》、また、崟や宮田靖子小口容子小田香の新作を集めた「クロベニグンジョウシロレモン—8 ミリ短編映画特集」から、ミヤギフトシがライフワークとしてクィア周縁の多様な揺らぎや感情を様々な形式でプレゼンテーションする「American Boyfriend」プロジェクトの一環として取り組む上映とパフォーマンスによる複合プログラム《For a Stranger》、ヴェネツィア・ビエンナーレの台湾館に選出されたユェン・グァンミン[袁廣鳴]と台湾現代美術研究者の岩切澪がゲスト・プログラマーを務め、台湾の12名の映像作家による短編作品を通じて、現代台湾の都市の日常、人々の置かれた社会・政治的状況、歴史のひだや、ポストコロニアル的分析などを浮かび上がらせる「台湾短編映像芸術の今」などを紹介する。また、2019年の恵比寿映像祭で上映したバスマ・アルシャリフの「ウロボロス」も再上映。主人公が別れの痛みを繰り返し体験することで、風景の中に刻まれたその痛みや歴史のなかで繰り返される破壊、忘却、再生を浮き彫りにする本作は、ガザがその出発点となっている。パレスチナにおける極めて困難な時期に、現在目の当たりとするガザでの壊滅的な暴力を前に、改めてその発端を探る機会となる。

 


デイヴィッド・ハモンズの芸術と時代《The Melt Goes On Forever》(監督:、ジャッド・タリー、ハロルド・クロックス)2022年/101分 ©Michael Blackwood


ミヤギフトシ《The Ocean View Resort / オーシャン・ビュー・リゾート》2013年/シングルチャンネルヴィデオ、サウンド/19分25秒


ユェン・グァンミン[袁廣鳴]《日常演習》 2018年/5分57秒

 

同館3F展示室では、昨年度より始まった「コミッション・プロジェクト」から、第1回で特別賞を受賞した荒木悠金仁淑が、総合テーマ「月へ行く30の方法」と連動する形で特別展示(2024年2月2日〜3月24日)に取り組む。また、会期中に次回の「コミッション・プロジェクト」を手がける4名のアーティストを選出する審査会を開催。審査員は、沖啓介(メディア・アーティスト)、斉藤綾子(映画研究者)、レオナルド・バルトロメウス(山口情報芸術センター[YCAM]キュレーター)、メー・アーダードン・インカワニット(アーツ・アンド・メディア研究教育センター共同ディレクター)、田坂博子(東京都写真美術館学芸員/恵比寿映像祭キュレーター)が務める。

そのほか、恵比寿ガーデンプレイス センター広場では、セオ・ヒョジョン高尾俊介のプログラムディレクションによるジェネラティブ・アート作品の特別プログラムの屋外上映を、シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]との連携により実現。地域連携プログラムでは、日仏会館主催のオンラインプログラムとして、アルノー・デプレシャンの『いつわり』(2021)のオンライン上映および映画批評家の杉原賢彦による講演、AL Galleryでの住吉智恵のキュレーションによる企画展「彼方の世界:篠田太郎 狩野哲郎 大舩真言 SPREAD 赤塚不二夫&赤塚りえ子」、MEMでの石原友明の個展「サッケード残像」、POETIC SCAPEでの野村浩の個展『Painter』、MA2Galleryでの川内倫子の個展など、地域全体でさまざまなプログラムを展開する。

 


セオ・ヒョジョン《Redraw with Code》2021年、「Port to the New Era」展、仁川国際空港

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