「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄 @ 渋谷区立松濤美術館


牛腸茂雄《SELF AND OTHERS 18》1977年 新潟県立近代美術館蔵

 

「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄
2023年12月2日(土)-2024年2月4日(日)
(前期:12/2-1/8|後期:1/10-2/4)※展示替えあり
渋谷区立松濤美術館
https://shoto-museum.jp/
開館時間:10:00–18:00 入館は閉館30分前まで
休館日:月(ただし1/8は開館)、12/29-1/3、1/9
企画担当:木原天彦(渋谷区立松濤美術館学芸員)
https://shoto-museum.jp/exhibitions/202zenei/

 

渋谷区立松濤美術館では、美術批評家の瀧口修造、絵画と写真で活躍した阿部展也、写真家の大辻清司と牛腸茂雄の4人を結びつける、日本写真史の特異な系譜をたどる展覧会「「前衛」写真の精神: なんでもないものの変容」を開催する。千葉市美術館、富山県立美術館、新潟市美術館と各地を巡回してきた本企画も、松濤美術館が最後の開催地となる。

海外のシュルレアリスムや抽象芸術の影響を受けて、日本各地に前衛写真が流行した1930年代。瀧口修造(1903-1979/富山県生まれ)と阿部展也(1913-1971/新潟県生まれ)は、1938年に前衛写真協会を結成し、写真に関する旺盛な批評活動を展開する。当時、前衛写真に取り組む写真家のあいだでフォトグラムやソラリゼーションなどの撮影・印画技術に注目が集まるなか、そうではないストレートな「記録」としての前衛写真がありうることを指摘した。第1章では、前衛写真協会の活動を子細に報告した雑誌『フォトタイムス』や、瀧口の思考を深化させていった阿部による写真、瀧口にインスピレーションを与えたウジェーヌ・アジェの写真を中心に紹介する。

 


イタリア紀行(撮影:瀧口修造)1958年 プリント:大辻清司 渋谷区立松濤美術館蔵


阿部展也《人間》[「新しい写真」『別冊アトリエ』34号(1957年5月)掲載図版]1953-57年頃 新潟市美術館蔵


大辻清司《大辻清司実験室 なんでもない写真》1975年(1980年プリント)武蔵野美術大学 美術館・図書館蔵

 

第2章では、大辻清司(1923-2001/東京生まれ)を中心に扱う。旧制中学在学中に『フォトタイムス』と出会い写真家を志した大辻は、戦後になると美術文化協会の写真部に所属し、阿部展也が演出・構成した被写体を撮影するコラボレーション作品を制作する。また、大辻が参加した実験工房やグラフィック集団などの領域横断的な芸術家グループを背後から支えていたのが瀧口であり、大辻は瀧口や阿部からの強い影響の下、その思想を継承する形で写真家の仕事を開始したと言える。60年代末になると、大辻は自身が教鞭をとる桑沢デザイン研究所で高梨豊や牛腸茂雄ら若き写真学生に出会い、彼らの作風を「コンポラ写真」と呼び、なんでもない様子を少し離れて撮影する写真に、当時の時代相からの影響を指摘する一方で、大辻もまた「コンポラ写真」、あるいはその時代の空気に共鳴するかのように作風を転調させていった。本展にも出品される「大辻清司実験室」は『アサヒカメラ』に連載された代表作であり、コンポラ写真に対する大辻なりのアンサーとも考えられる重要なシリーズ。

第3章では、桑沢デザイン研究所で大辻に出会い、その勧めで写真専攻に進学することになった牛腸茂雄(1946-1983/新潟県生まれ)を取り上げる。教師と生徒という関係にもかかわらず、大辻と牛腸は独立したふたりの写真家として相互に刺激を与えあった。瀧口との直接的な関係はないものの、写真を学ぶ過程で大辻からの影響も含め、牛腸の残した言葉には瀧口の影響も見られる。牛腸の代表作『SELF AND OTHERS』は1972年に構想が始まり、1977年に写真集として結実。その後に出版された『見慣れた街の中で』等、牛腸は精神分析に関心を寄せ、写真と並行してインクブロットにも取り組んでいる。精神分析に用いられることもあるインクブロットは、瀧口が熱中したシュルレアリスムにおけるデカルコマニーと技法上は類似するものの、その表現は大きく異なる。このふたつのシリーズの比較からは、「前衛」という思想がいつのまにか変容したこと(しかしその根はわずかに残されていること)が見えてくる。

 


牛腸茂雄《 幼年の「時間」2》制作年不詳 新潟市美術館蔵


瀧口修造《〈私の心臓は時を刻む〉Ⅳ“私を見よ”No.69》1962年 富山県美術館蔵


牛腸茂雄《扉を開けると 3》1972-77年 新潟市美術館蔵

 

関連イベント
記念対談 大辻先生と牛腸さんの時代
2024年1月13日(土)14:00–16:00
講師:潮田登久子(写真家)、児玉房子(写真家)
聞き手:木原天彦(渋谷区立松濤美術館学芸員)
会場:渋谷区立松濤美術館
定員:60名(要事前申込、応募者多数の場合は抽選)※申込締切:12/15
参加料:無料(要入館料)
※詳細は公式ウェブサイトを参照

特別講座「前衛」写真の時空間
2024年1月21日(日)14:00–15:00
講師:木原天彦(渋谷区立松濤美術館学芸員)
会場:渋谷区立松濤美術館
定員:60名(要事前申込、応募者多数の場合は抽選)※申込締切:12/22
参加料:無料(要入館料)
※詳細は公式ウェブサイトを参照

佐藤真監督『SELF AND OTHERS』上映会
2023年12月3日(日)
午前の部|10:30–11:30
午後の部|14:00-15:00
会場:渋谷区立松濤美術館
定員:60名(先着順。定員に達し次第受付終了)※申込締切:12/2
参加料:無料(要入館料)
※詳細は公式ウェブサイトを参照

写真ワークショップ 渋谷に撮りたいものはあるのでしょうか?
2023年12月16日(土)14:00–17:00
講師:木村和平(写真家)
会場:渋谷区立松濤美術館
定員:10名(要事前申込、応募者多数の場合は抽選)
参加料:無料(要入館料)
持ち物:使い慣れたデジタルカメラもしくはスマートフォン
※詳細は公式ウェブサイトを参照

「なんでもない」音楽̶電子音響音楽のひととき
2023年12月17日(日)
午前の部|11:00–12:00
午後の部|15:00-16:00
企画・構成:佐藤亜矢子(作曲家・音楽家)
出演:佐藤亜矢子、渡辺愛(作曲家・音楽家)
会場:渋谷区立松濤美術館 地下1階展示室
参加料:無料(要入館料)※事前申込不要
※詳細は公式ウェブサイトを参照

学芸員によるギャラリートーク
2023年12月8日(金)、1月20日(土)各日:14:00–(約40分間)
参加料:無料(要入館料)※事前申込不要

館内建築ツアー
2023年12月8日(金)、12月15日(金)、12月22日(金)、1月5日(金)、1月12日(金)、1月19日(金)、1月26日(金)、2月2日(金)各日:18:00–(約30分間)
定員:各回15名
参加料:無料(要入館料)※事前申込不要

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