恵比寿映像祭2023「テクノロジー?」
2023年2月3日(金)– 2月19日(日)
※コミッション・プロジェクト(3F展示室)のみ、3月26日(日)まで開催
https://www.yebizo.com/
東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所ほか
開館時間:10:00–20:00(最終日は18:00まで)※入館は閉館30分前まで
休館日:月
企画統括::田坂博子(恵比寿映像祭キュレーター、東京都写真美術館学芸員)
「映像とは何か」をめぐるさまざまな問いに、映像領域と芸術領域を横断する幅広い表現を通じて応答を試みてきた恵比寿映像祭が、東京都写真美術館を中心に恵比寿周辺の複数会場で開催される。本年度より、新たな挑戦として、日本を拠点とする新進アーティストたちに映像作品を制作委嘱する「コミッション・プロジェクト」を開始する。
本年度のテーマは「テクノロジー?」。パンデミックをきっかけとしたテレワークやオンラインでの会話の日常化、AI(人工知能)、機械学習、Web3.0、メタヴァース、AR/VR、NFTなどの新しい技術の普及は、今日、人々の身体感覚にも少なくない影響を及ぼしている。現代に限らずとも、19世紀以降大きく発展してきた写真、映画、ヴィデオやアニメーションといった近代以降の映像表現は、常にテクノロジーを介在させてきたと言えるだろう。恵比寿映像祭2023では、「時代ごとのテクノロジー(技術)を紐解く」「身体や視点を拡張させるテクノロジー」「都市や自然のナラティヴ(物語性)に潜むテクノロジー」といった観点から、さまざまな映像表現の実践を検証し、アートと技術との対話の可能性を考察していく。
ルー・ヤン〈DOKU(ルー・ヤンのデジタル転生)〉2020年~[参考図版]出品協力:スパイラル/株式会社ワコールアートセンター
梅沢英樹+佐藤浩一《Echoes from Clouds》2021年
東京都写真美術館の2F展示室では、アートと技術の関係を、身体や機械、人工などの観点から探る。昨年のヴェネツィア・ビエンナーレ企画展「The Milk of Dreams」に参加し、森美術館のMAMスクリーンでも紹介されたルー・ヤンが、2020年から取り組む〈DOKU(ドク)〉シリーズの最新作を発表するほか、ホウコォ・キュウ、細倉真弓の作品、そして、東京都写真美術館の所蔵作品から、越田乃梨子の《机上の岸にて》(2010)、そして、1967年から1988年に制作された世界のCGを多様な分野から体系化した〈コンピュータ・グラフィックス アンソロジー〉(1991)、〈コンピュータ・グラフィックス アクセス89-92〉(1992)を紹介する。
B1F展示室では、都市や自然の諸相をめぐるアーティストたちの表現や、そこに向けられた機械の眼などを歴史的に考察する。実験工房が1953年にスライド画像とテープレコーダーの音源を同期できる映写装置・オートスライドで発表した《試験飛行家W・S氏の眼の冒険》(※1953年に4作を発表し、1986年にスライドと音源が残されていた3作を再制作)、梅沢英樹+佐藤浩一が、水がつなぐ都市と自然、需要地と供給地の関係性を想起させる《Echoes from Clouds》(2021)を紹介。そのほか、東京都写真美術館の所蔵作品から、築地仁、北代省三、エメット・ゴーウィン、ロール・アルバン=ギヨー、杉浦邦恵、エンネ・ビアマン、山沢栄子、フィオナ・タンを出品する。
葉山嶺 《Hollow-Hare-Wallaby》2023年 [参考図版] © 2022 Rei Hayama
金仁淑《Eye to Eye》2023年 [参考図版] © 2022 Kim Insook
一方、3F展示室では、本年度最注目のプログラムのひとつ「コミッション・プロジェクト」を紹介する。約300名の候補者から選ばれた荒木悠、葉山嶺、金仁淑(キム・インスク)、大木裕之の4名が、総合テーマに拠ることなく、恵比寿映像祭の根源的な問いである「映像とは何か」を軸に制作した新作を発表する。2月17日には「コミッション・プロジェクト – 委嘱制作と映像作品の可能性」と題したシンポジウムを開催、同シンポジウムにて、特別賞を発表する。なお、「コミッション・プロジェクト」の展示のみ、映像祭終了後も3月26日まで継続する。
ペギー・アーウィッシュ《The Falling Sky》2017年 Courtesy the artist and Microscope Gallery
牧原依里《田中家》2021年 ©deafbirdproduction 2021
東京都写真美術館の1Fホールを会場とする上映部門では、生誕100年を記念し、その作品に全3章を通じて新しい角度からアプローチするジョナス・メカスの特集、1970年代頃からフェミニズム、パンクを軸に8mm映画制作をはじめたペギー・アーウィッシュの野心的な実践を紹介する特集、昨夏に逝去した実験映像の草分け的存在飯村隆彦の活動の軌跡を辿る特集を上映。また、《人のセックスを笑うな》や《ニシノユキヒコの恋と冒険》など、人間同士の複雑な感情を繊細に描いた映画で知られる井口奈己の特集では、コロナ禍の2020年12月に宮崎で開催されたワークショップ「こども映画教室」を記録した自身初のドキュメンタリー《こどもが映画をつくるとき》などを上映する。そのほか、東京国際ろう映画祭のディレクター、牧原依里をゲストプログラマーに迎え、牧原自身が監督した作品や深川勝三の《たき火》(1972)、八幡亜樹の《TOTA》(2012)といった同映画祭で上映してきた作品を4つのプログラムで紹介。さらに短編アニメーションを特集したプログラム、アーティストの田中和人がディレクターを務める京都ベースのアーティスト・ラン・スペース「soda」で昨年開催された映像作品展〈50 秒〉など、劇映画から、実験映画、ドキュメンタリー、アニメーション、現代美術作品まで、さまざまな映像作品を紹介する。
そのほか、恵比寿ガーデンプレイス センター広場では、東京2020オリンピック競技大会の開会式のドローン演出を手掛けた演出メンバー(野老朝雄、平本知樹、井口皓太)による光と影の屋外インスタレーションをシビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)との連携により実現。地域連携プログラムでは、MA2Galleryで小瀬村真美の個展『Before the Beginning』、NADiff Window Galleryでシシヤマザキの展示、AL Galleryで住吉智恵のキュレーションによる佐藤好彦、メガネ、毛利悠子のグループ展『Law-technology? High-quality!』、POETIC SCAPEで兼子裕代の個展『APPEARANCE』など、地域全体でさまざまなプログラムを展開する。
野老朝雄、平本知樹、井口皓太《FORMING SPHERES》2023年[参考図版]