コレクション展『アジア美術からみるLGBTQと多様性社会』@ 福岡アジア美術館


ハン・ティ・ファム《家族を再定義する #1》1990-91年

 

コレクション展
アジア美術からみるLGBTQと多様性社会
2019年12月2日(月)- 2020年3月17日(火)
福岡アジア美術館 アジアギャラリー
https://faam.city.fukuoka.lg.jp/
開館時間:9:30-18:00(金、土は20:00まで)入室は閉室30分前まで
休館日:水(休日の場合は翌平日)、年末年始(12/26-1/1)

 

福岡アジア美術館では、福岡市が2018年4月に性的マイノリティのパートナー関係を尊重するために「同性パートナーシップ宣誓制度」を制定したことを記念し、LGBTQの当事者および、それらを包括する多様性社会をテーマとする作品を紹介するコレクション展『アジア美術からみるLGBTQと多様性社会』を開催している。

福岡市は2017年からパートナーシップ宣誓制度を含めた性的マイノリティへの支援の充実についての検討がはじまり、翌2018年に「性的マイノリティに関する支援方針」を固め、同年4月に「同性パートナーシップ宣誓制度」をその中に制定した。2019年10月には同じく同性パートナーシップ証明制度を制定している熊本市との間で転居した際にもその資格を引き継ぐことのできる受領証の相互認証が全国初の試みとして導入された。また、福岡市では、宣誓制度のみならず、専門相談電話の設置や啓発リーフレットの作成など支援指針に基づいた具体的な取り組みを実施している。(福岡市パートナーシップ宣誓制度

絵画、写真、彫刻、映像、インスタレーションなど約37点で構成される本展の出品作家の一部は以下の通り。スリランカ初の近代美術グループ「43年グループ」の創設を支えたライオネル・ウェント(1900-1944)は、彼自身、ピアニスト、批評家、そして、写真家でもあった。法律と音楽を学ぶために滞在したヨーロッパで眼にしたシュルレアリスムや構成主義などの前衛的な写真技法に影響を受け、とりわけ、同性愛者であったウェントのヌードを含む肖像写真には、身体への親密な眼差しを窺うことができる。福岡アジア美術館では2003年に小企画展『ライオネル・ウェント写真展:「近代」のまなざし』を開催。ドクメンタ14(2017)や、アジアの性的マイノリティの表現を扱った企画展『Spectrosynthesis II – Exposure of Tolerance』(バンコク芸術文化センター、2019)にも出品された。チュオン・タン(1963-)は、同性愛者であることを表明し、既存の社会規範に挑むようなインスタレーションの制作をはじめる。また、2000年代前半のハノイの実験的、前衛的な表現の発表の場となった「ニャサン・スタジオ」でもパフォーマンスを発表している。本展にも出品する《平和の母》は、約200種類の迷彩柄の布(総長200m超)を92~600層重ね、ドレスを制作した作品で、戦争に翻弄された近代ベトナムの社会と歴史を背景にしている。

 


ライオネル・ウェント《題不詳 (男のヌードと本)》不詳(1934-38年か)


チュオン・タン《平和の母》2009年

 

石川真生(1953-)は、アメリカ合衆国軍基地のある沖縄県、コザ市(現沖縄市)や金武町のバーで働く女性たちの姿をはじめ、沖縄の人々と沖縄に関係することを撮影しつづけてきた。また、沖縄に出稼ぎにきたフィリピン人女性たちを金武町と、彼女たちの故郷フィリピンのオロンガポを訪ね撮影した写真作品も制作している。近年、薩摩藩の琉球侵攻から続く沖縄の苦難の歴史を、友人たちとともに再現し、撮影した「大琉球写真絵巻」シリーズに着手し、2018年に原爆の図 丸木美術館で発表、翌2019年に日本写真協会賞(作家賞)を受賞している。石川と同じく写真を主な表現手段とするニッキー・リー(1970-)は、韓国からアメリカ合衆国にわたり、同地のさまざまな階層や趣味、人種による集団の中にとけ込もうとするプロジェクトで知られる。リー自身が集団に仲間として認知され撮影されるという手続きをとることで、個人がアイデンティティを恣意的に選びとることのできる可能性を示唆する。

ホウ・ルル・シュウズ[候淑姿]は、初期から一貫してジェンダーやアイデンティティ、社会階級や民族をテーマにした作品を発表してきた。本展では、ベトナムやカンボジア、タイ、インドネシアから、主に貧困地区から斡旋業者の仲介により台湾に嫁いでくる外国人花嫁をテーマに、当事者の姿を写真と言葉で綴ったシリーズを発表する。2017年には活動拠点である高雄市立美術館で個展を開催している。ハン・ティ・ファムは、サイゴン(現・ホーチミン)陥落時に家族とともにカリフォルニアに渡ったベトナム難民のひとりだったという過去を持つ。男性に対する女性、アメリカ合衆国におけるアジア系移民、そして、異性愛者に対する同性愛者という、自身の置かれた三重のマイノリティ性を見つめつづけるファム。本展には、現在と過去の記録・記憶、ベトナムとアメリカ、自分と家族、現実とそれが隠蔽したものを複雑に重層化した《家族を再定義する #1》(1990-91)を出品する。

なお、福岡アジア美術館のアジアギャラリーでは、コレクションの中からひとつの作品を掘り下げて紹介する「あじび研究所」と、1999年の開館当初から毎年継続しているレジデンス・プログラムのこれまでの取り組みと、現在進行中のプログラムを紹介する「あじびレジデンスの部屋 第3期」を同時開催。「あじび研究所」では、グエン・ファン・チャン(1892-1984)による《籐を編む人々》(1960)を紹介する。20世紀初頭に中国の伝統絵画を翻案し、ベトナム近代絹絵を創始したチャンは、ベトナム近代美術の先駆者のひとりとして知られる。2000年代後半には、絵画保存修復家の岩井希久子を中心に保存修復プロジェクトが立ち上がり、修復された作品が金沢21世紀美術館デザインギャラリー(2011)、B GALLERY(新宿、2015)で展示され、2017年には修復された7点の絹絵、10点のデッサンに、福岡アジア美術館所蔵の作品を加えた展覧会『女たちの絹絵 ベトナム絹絵画家 グエン・ファン・チャン絵画保存修復プロジェクト展』が上野の森美術館で開かれた。

 


石川真生《フィリピン人ダンサー 沖縄県、金武町-3》1988-89年/2012年


ニッキー・リー《ヒップホップ・プロジェクト(19)》2001年


ホウ・ルル・シュウズ(候淑姿)《越境/文化アイデンティティ―アジアから来た花嫁の歌(Ⅱ):黄氏戀とその娘(A)(B)》2009年

 

 


 

コレクション展
「あじび研究所」第3弾 グエン・ファン・チャン(ベトナム)《籐を編む人々》
2019年12月2日(月)- 2020年3月17日(火)
福岡アジア美術館 アジアギャラリー

レジデンス成果展示
あじびレジデンスの部屋 第3期
2019年12月2日(月)- 2020年3月17日(火)
福岡アジア美術館 アジアギャラリー

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