あいちトリエンナーレ参加アーティストが「ReFreedomAichi」の設立を発表


 

2019年9月10日、あいちトリエンナーレ参加アーティスト有志(賛同アーティスト33名、9月9日時点)が、あいちトリエンナーレで現在閉鎖されているすべての展示の再開を目指すプロジェクト「ReFreedomAichi」の設立について、東京の日本外国特派員協会で会見を開いた。会見では、ReFreedomAichiが展示再開とその後の「表現の自由」を世界に発信していくために展開する「ネゴシエーション」、「オーディエンス」、「プロトコル」の3つの方向性について、小泉明郎、卯城竜太、ホンマエリ(キュンチョメ)、高山明、大橋藍(以上、登壇者)のほか、加藤翼、村山悟郎、藤井光がそれぞれ発言し、あいちトリエンナーレの当事者以外の幅広く芸術に関わる人々、表現の自由が保障されるべき市民たち、あらゆる自由にあえぐ世界中の人々に、すべての展示の再開を実現し、あいちトリエンナーレを「検閲」のシンボルから「表現の自由」のシンボルに書き換えるための共闘を呼びかけた。

ReFreedomAichiは、名古屋の円頓寺商店街に開設したアーティスト・ラン・スペース「サナトリウム」や、ジェンダー平等の観点から公表されたステートメントなど、既に多元的に展開されているアーティストによるアクションを「再開を目指す現実的な取り組み」へと集約し、再開のための交渉の場にアーティストと観客の声を届けるアーティストの窓口を設立すると同時に、ReFreedomAichiとしても独自のプロジェクトを企画し、展示再開とその後の「表現の自由」を広く世界に訴えかけていく。また、活動資金についてはクラウドファンディングを募り、アーティストによる作品やReFreedom_Aichiの活動報告冊子などの返礼を用意している。(ReFreedom_Aichi --あいトリ2019を「表現の自由」のシンボルへ

 

 

会見ではまず、小泉明郎が「表現の自由」について、あいちトリエンナーレに限らず、近年、美術館で可能な表現の幅が狭まってきたと実感を述べ、表現の自由が不完全なものであり、それには限度があることを承知した上で、不完全だからといって表現の自由が必要でないかといったらそうではなく、表現の自由に対する責任は残る。私たちアーティストはその責任を負っている。この責任とは私たちアーティストや津田芸術監督が負える程度の軽いものではない。なぜならこの自由を獲得するために歴史上、何百万何千万という人たちの死によってこの自由は成り立っているからである。表現の自由は言論の自由に繋がり、それは知る権利に直結し、ひいてはひとりひとりの人間が自分自身の考えを自分で決める自由、自分の人生を自分で決める自由、自分の人生を自分で決める自由にも直結していると発言。現在、この自由の根源は崩壊の危機に晒されており、それを食い止める奇跡は、美術関係者だけでなく、観客との連帯によってはじめて可能となるものだと、ReFreedomAichi設立の動機を語った。続いて、卯城竜太が、ReFreedomAichiは意見の表明ではなく、事態の解決を目指すためのものであり、その活動が「ネゴシエーション」、「オーディエンス」、「プロトコル」の3つの部門からなり、再開を目指す短期的なアプローチのほか、とりわけ「プロトコル」部門による活動において、あいちトリエンナーレを超えて、ほかの美術機関や行政などによる採択が可能となる、「表現の自由」をめぐる長期的な指針となるようなアプローチを試みると説明した。

その後、ホンマエリ、加藤翼(登壇せずに会場に出席)、高山明、大橋藍、村山悟郎(登壇せずに会場に出席)により、「ネゴシエーション」、「オーディエンス」部門における各種の取り組みについて詳細が述べられた。まず、ReFreedomAichiのクリエイティブ部門である「オーディエンス」部門のプロジェクトについて、ホンマエリがモニカ・メイヤーの「The Clothesline」のコンセプトを引き継ぎ、オーディエンスと現在展示が閉鎖されているアーティストたちとのコラボレーションとして実施するプロジェクト「#YOurFreedom」について説明。「#YOurFreedom」では、SNSや美術館などを通じて「あなたの自由」を集め、それらの声を閉鎖されている扉に貼っていくことで、その声を可視化し再開までその量を蓄積していく。オーディエンスの声を通じて、閉ざされた扉の開放の実現を目指す。9月14日にはサナトリウムで13時から、観客との一斉行動として「みんなで一緒に考えて、一斉に書く」というアクションを行なう。(「#YOurFreedom」の詳細はこちら

加藤翼は「サナトリウム」に関する説明を行ない、近日中のゲスト・スピーカーとして、遠藤水城(芸術監督 Vincom Center for Contemporary Art、ベトナム)、國分功一郎(哲学者)、木村草太(憲法学者)、毛利嘉孝(社会学者、東京藝術大学大学院教授)の名前をあげた。(「Sanatorium」の詳細はこちら

高山明は、演劇プロジェクトとして「アーティスト・コールセンター」の立ち上げについて発言。高山は今回の展示中止の要因のひとつである抗議の電話をあげ、アーティストが表現の自由を訴える一方で、その最前線で抗議の電話を受け続けた県の職員の存在に言及し、その抗議をアーティストが直接受けるプロジェクトを提案した。その過程で法学者らを招き、「公共圏とは何か、公共サービスとは何か」を問い直し、制度的な抗議電話への対応の再設定を試み、あいちトリエンナーレに止まらず、公共の文化イベントに使用可能な電話対応の運営マニュアルの作成を目指す。プロジェクトの実施に関する県との交渉はこれからとなる。

大橋藍は、先日、表現の不自由展・その後の「平和の少女像」(2011)に対して、ジェンダー差別や人種差別からくるヘイトクライムが起こっている現在の状況に対して公表した表現の不自由展・その後の中止に対する「ジェンダー平等」としての応答に関する説明を行なった。同ステートメントは、現在もプロアマ問わずクリエイター、研究者など芸術生産者すべての賛同を求めており、特設サイトから、ステートメント全文と賛同者一覧の閲覧と、ステートメントへの署名が可能となっている。

村山悟郎は、「ネゴシエーション」部門において、アーティスト側から展示再開のためのロードマップを提案していく旨を説明。大村秀章愛知県知事が既に提案している9月中旬の「表現の自由に関する公開フォーラム(仮称)」、10月上旬の「表現の自由に関する国際フォーラム(仮称)」、そして、あいちトリエンナーレのあり方検証委員会による中間報告という再開のための3つの機会の間の交渉や意思決定について、ひとつひとつ要求をしていくと発言した。

 

 

質疑応答では、ReFreedomAichiと津田芸術監督との関係に対する質問に対し、卯城がReFreedomAichiはアーティストが立ち上げたネットワークであり、要求を妥協せずに伝えるために、芸術監督やトリエンナーレ、県などとの適切な距離を保つべきであることの重要性、また、さまざまな要因が重なり、表現の不自由展・その後実行委員会と津田芸術監督、大村県知事の3者のスムーズな交渉が困難な現状を変え、展示再開を目指すためにさまざまな手段を尽くしていくこと、また、最終手段としてボイコットも辞さないことを説明した。

ReFreedomAichiの主要部門のひとつである「プロトコル」に対する質問に対しては、会場に出席していた藤井光が、大村県知事が既に提案している「あいち宣言(プロトコル)」に対し、それを政治的なイベントにしてはいけないと強調した。藤井は、憎悪や排斥の感情を政治的資源とする数ある政治家たちによる、自分が同意していない世界観や歴史観を沈黙させるための一連の政治的攻撃や脅迫に敗北し一般化させてしまったこの危機的状況を、私たちアーティストが主導的にプロトコルを起草し乗り越えていくしかないと述べた。(藤井の「あいち宣言(プロトコル)」に関する発言の原稿全文

また、具体的な検閲の事例について質問を受けた小泉は、日本の美術館で政治性がある作品を展示することができなくなっている現状に対し、アーティストの「表現の自由」だけでなく、専門職として責任を発揮することを制限されているキュレーターの(専門職としての)自律も社会的に確立していかなければならないと応えた。

二項対立的な仮想の問題を設定して実践的な活動を避けたり、戦時性暴力のような具体的に否定しなければいけないものに対するアクションをしていないのではないかという疑念から、インターネット上のSNSで発生した#Jアートという揶揄的な表現に関する質問に対して、卯城は表現の不自由展・その後に対する抗議運動について、その大半が現場にいない人々による誤解や一部が切り取られた表層的な言葉の拡散によるものが力を持ってしまったという現状を危惧を述べ、それは#Jアートというハッシュタグにも通じるところがあるのではないか、それに対し、自分で見る、自分で知るという権利の重要性、そして、「表現の自由」の重要性を話し合うことが大事だと再確認していると語った。

 

ReFreedom_Aichihttps://www.refreedomaichi.net/

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