都市のヴィジョン第2回助成対象者に、シアスター・ゲイツ


Theaster Gates Dorchester Projects (2008-ongoing) 
The Listening House and the Archive House located on Dorchester Street in the neighborhood of Greater Grand Crossing on the South Side of Chicago
Photo: Sara Pooley, Courtesy the artist, White Cube, London, and Regen Projects, Los Angeles

 

2019年7月、公益財団法人大林財団は、2017年に創設したプログラム「都市のヴィジョン – Obayashi Foundation Research Program」の第2回助成対象者に、生まれ故郷のシカゴで「ドーチェスター・プロジェクト」を展開するアーティスト、シアスター・ゲイツを選出したと発表した。

「都市のヴィジョン – Obayashi Foundation Research Program」は、豊かで自由な発想を持ち、都市のあり方に強い関心を抱いているアーティストに、都市工学や都市の専門家による従来の都市計画の枠組みとは異なる視点から都市におけるさまざまな問題を研究・考察し、「住んでみたい都市、新しい、あるいは、理想の都市」のあり方を提案・提言する機会を提供するプログラム。隔年で実施され、助成対象者は国内有識者の推薦に基づいて決定する。2017年に第1回目のアーティストに選ばれた会田誠は、昨年、東京・渋谷で個展『GROUND NO PLAN』を開催した。

今回助成対象者となったシアスター・ゲイツ(1973年イリノイ州シカゴ生まれ)は、黒人の歴史や社会的包摂に関する言説、地域論や土地開発に着目した制作活動で知られる。貧困や暴力犯罪が深刻化している故郷のシカゴのサウスサイド地区で2006年から現在にいたるまで展覧会を含むさまざまな形で「ドーチェスター・プロジェクト」を展開し、空き家をリノベーションした図書館やキッチン、パフォーマンス・スペースをはじめ、拠点を増やしながら社会的課題に取り組む。ホイットニー・ビエンナーレ2010やドクメンタ13(2012)、第56回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2015)、第14回イスタンブール・ビエンナーレ(2015)といった国際展への参加をはじめ、ホワイトチャペル・ギャラリー、クンストハウス・ブレゲンツ、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アート、バーゼル美術館、ミラノのプラダ財団、パレ・ド・トーキョー、ベルリンのグロピウスバウなどで個展を開催している。また、アメリカ合衆国ニュースクール大学が主催するヴィラ・リスト美術・政治学センター賞やカーディフの美術機関アルテス・ムンディといった社会に向き合った活動を展開するアーティストを対象とする美術賞をはじめ、数々の賞を受賞している。日本では昨年国立国際美術館で開かれた『トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために』に出品した一方で、ゲイツは作陶のために継続的に常滑地方を訪れている。今回の助成を受け、調査・研究のためにこの夏に日本を訪れる予定。

審査委員長を務めた住友文彦(アーツ前橋館長/東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科准教授)は、「シカゴに住むアフリカ系アメリカ人のアイデンティティと深く関わる空間や作品の制作と、常滑地方で継続している作陶がいったいどのようにむすびつくのか。強大な資本が個人の精神を荒廃させてしまう現代社会において、自分たちで生産し、共同体のつながりを復活させようとする彼の仕事は民族の違いを簡単に超えてしまうだろう。そして作陶だけにとどまらない提案やプロジェクトを日本で見てみたいというのが、選考委員が一致して望んでいることだ」とコメントを寄せた。なお、住友のほか、飯田志保子(キュレーター)が副委員長、野村しのぶ(東京オペラシティアートギャラリー キュレーター)、保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)、藪前知子(東京都現代美術館学芸員)が選考委員を務めた。

 

都市のヴィジョン-Obayashi Foundation Research Programhttps://www.obayashifoundation.org/urbanvision/

 


Theaster Gates, Photo: Rankin

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