ヨコハマトリエンナーレ2020、アーティスティック・ディレクターを発表


ラクス・メディア・コレクティヴ 撮影:田中雄一郎 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

 

2018年11月29日、横浜トリエンナーレ組織委員会は2020年に開催する「ヨコハマトリエンナーレ2020」のアーティスティック・ディレクターに、ニューデリーを拠点に国際的に活躍するラクス・メディア・コレクティヴが就任したことを発表した。2001年以来、7度目の開催にして、初の日本人以外のアーティスティック・ディレクターの抜擢となる。

ラクス・メディア・コレクティヴは、ジーベシュ・バグチ、モニカ・ナルラ、シュッダブラタ・セーングプタの1992年に結成したアーティスト・コレクティヴ。「ラクス(Raqs)」とは、ペルシャ語、アラビア語、ウルドゥー語で、回転運動や旋回舞踊によって到達するある種の覚醒状態や、立ち現れてくる存在との一体感を意味する。ラクス・メディア・コレクティヴは、そのような状態を思考的な運動と捉え、世界や時間の概念を絶え間なく問い、精力的に思索し続ける「動的熟考(kinetic contemplation)」という造語を活動の核に据えている。2001年には、インド有数の人文系シンクタンク「国立発展途上社会研究センター」の外郭団体「サライ・プログラム」の創設に携わり、約10年にわたって南アジアの同時代の都市空間や文化の変容についての研究を重ねる。

ラクス・メディア・コレクティヴは、これまでにドクメンタやヴェネツィア・ビエンナーレをはじめ、台北、リバプール、シドニー、イスタンブール、上海、サンパウロ、ベルリン、ミラノ、シンガポール、コチ・ムジリス、シャルジャなど、世界各地の国際展に参加し、2014年にはデリーの国立近代美術ギャラリーで大規模な個展『Untimely Calendar』を開催している。一方、その活動は作品制作のみにとどまらず、マニフェスタ7(2008)や第11回上海ビエンナーレ(2016-17)をはじめとする展覧会のキュレーションや、書籍の編集、執筆活動、さらには建築家やプログラマー、舞台演出家といった他分野の専門家や市民との共同制作など幅広く、どの活動においても、さまざまな人々と未知なるものの豊かさを共有し、会話をつないで開かれた議論を促す独創的な手法やアプローチで、現代美術、哲学的思索、歴史的考察が交差する領域で独自性を発揮し、予期せぬ新たな視点を提起してきた。

 


ラクス・メディア・コレクティヴ 撮影:田中雄一郎 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

 

ヨコハマトリエンナーレ2020に対して、ラクス・メディア・コレクティブが提案したプランは、ドゥルーズ&ガタリの思想を語る横浜の日雇い労働者に密着したイギリス人人類学者のルポルタージュなどをソースとし、そこから参加者が次々に連想の網を広げていくというもの。アーティスティック・ディレクター選考委員会の委員長を務めた浅田彰は、最終選考に残った「人新世」における地球環境危機への対応、多様性の肯定とコモンズの創出、そのためのアートを通じたコミュニケーションやエデュケーション、といった最新流行のコンセプトが並ぶ中で、その際立った独自性と日本を含む世界各地での経験を選出の理由に挙げている。また、今回の選考にあたり、事前に推薦された候補に多数の外国人、なかでも非欧米人、そして、女性が含まれていたことは、これまでの日本の国際展のディレクターの選考に対する世論の反映であり、同時に選考委員会の共通認識であったと前置きをした上で、ラクス・メディア・コレクティブの選出は、あくまでも芸術的かつ社会的に意義深いトリエンナーレを実現するヴィジョンと実行力を最も重視して選考した結果であると述べた。

 

ヨコハマトリエンナーレ2020
2020年7月上旬〜10月中旬
http://www.yokohamatriennale.jp/

 

ART iT Interview Archive
シュッタブラタ・セングプタ「私のうちにあって緯度は拡がり」(2018年2月)

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