クリスチャン・ボルタンスキー(1944年-)は、現代のフランスを代表するアーティストのひとりです。1960年代後半より短編フィルムを発表し始めたボルタンスキーは、1970年代に入り、写真を積極的に用いるようになりました。人が歩んできた歴史や文化人類学への関心を土台とし、写真やドキュメントとビスケット缶などの日用品を組み合わせることで、自己あるいは他者の記憶に関連する作品を多数制作し、注目を集めます。1980年代に入り、明かりを用いたインスタレーションを手掛けるようになったボルタンスキーは、子どもの肖像写真と電球を祭壇のように組み合わせて展示した「モニュメント」シリーズ(1985年-)で宗教的なテーマに取り組みます。それを発展させた《シャス高校の祭壇》(1987年)は、1931年にウィーンの高校に在籍したユダヤ人の学生たちの顔写真を祭壇状に並べ、その写真を電球で照らすというものでした。肖像写真を集めて展示する手法は、大量の死者の存在、具体的にはナチス・ドイツによるユダヤ人の大虐殺とその犠牲者のイメージを想起させるものとして解釈され、大きな議論を呼びました。第二次世界大戦期のユダヤ人の大虐殺は、ユダヤ系の父を持つボルタンスキー自身の問題とも結びつきます。パリのグラン・パレの広大なスペースを生かし、大量の衣服を集積させた《ペルソンヌ》(2010年)など、その後もさまざまな手法によって、歴史や記憶、そして死や不在をテーマとした作品を発表します。1970年代からドクメンタ(ドイツ・カッセル)やヴェネチア・ビエンナーレなどの現代美術国際展に招待され、活躍の場を世界各地に広げたボルタンスキーは、日本でも、越後妻有アートトリエンナーレや瀬戸内国際芸術祭などで積極的に展示活動を行い、2016年には東京都庭園美術館で個展が開催されました。
国立国際美術館、国立新美術館、そして長崎県美術館の3館が共同で企画する本展は、ボルタンスキーの初期作品から最新作までを紹介する、国内初めての大規模な回顧展です。1960年代後半から近年までのボルタンスキーの様々な試みを振り返ると同時に、ボルタンスキー自身が「展覧会をひとつの作品として見せる」と語るように、作家自身が会場に合わせたインスタレーションを手掛けるという構想のもとに企画されました。半世紀を超える作家活動を経て、いまなお、積極的に創造を続けるボルタンスキーの広大なる芸術世界を紹介いたします。
作家略歴
1944年、パリ生まれ。写真や身分証明書といった記録資料と衣服や文房具といった日用品を組み合わせることで、自己あるいは他者の記憶に関連する作品を制作し、注目を集めるようになる。子どもの肖像写真と電球を祭壇のように組み合わせた「モニュメント」シリーズ(1985年-)や、大量の衣服を集積させた《ペルソンヌ》(2010年)など、現在まで一貫して、歴史や記憶、死や不在をテーマとした作品を発表している。
2006年、高松宮殿下記念世界文化賞受賞。
会期 2019年2月9日(土)─ 5月6日(月・休)
会場 国立国際美術館
主催 国立国際美術館、朝日新聞社
後援 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛 ダイキン工業現代美術振興財団
開館時間 10:00 ─ 17:00 ※金曜・土曜は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(ただし、2月11日(月・祝)、4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館)、2月12日(火)
観覧料
一般900円(600円) 大学生500円(250円)
( )内は20名以上の団体料金
高校生以下・18歳未満無料(要証明)・心身に障がいのある方とその付添者1名無料(要証明)
本料金で、同時開催の「コレクション3」もご覧いただけます。
夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00―20:00)一般700円 大学生400円
関連イヴェント
[クリスチャン・ボルタンスキー アーティスト・トーク]
2月9日(土)14:00 ―
講師:クリスチャン・ボルタンスキー(本展出品作家)
会場:国立国際美術館 地下1階講堂
参加無料、逐次通訳付、先着130名、当日10:00から整理券を配布します
[講演会]
4月6日(土)14:00 ―
講師:湯沢英彦(明治学院大学文学部フランス文学科教授)
会場:国立国際美術館 地下1階講堂
参加無料、先着130名、当日10:00から整理券を配布します
[ギャラリー・トーク]
2月22日(金)18:00 ―〈プレミアムフライデー企画〉
3月16日(土)14:00 ―
4月26日(金)18:00 ―〈プレミアムフライデー企画〉
会場:国立国際美術館 地下3階展示室
参加無料(要観覧券)、開始30分前から聴講用ワイヤレス受信機を貸し出します(先着90名)