土味の見立て
味をいう人は、見方はこまやかでも、どこか品物に捕らわれている。感じで見る人は、離れて自身の角度でぶっつかっている。
濱田庄司「味と感じ」『工芸』8号、聚楽社、1931年8月
今回の明倫茶会では、席主に「薪窯の会」を迎え、「土味の三角測量」と題した茶会が催された。この聞き慣れない「三角測量」とは、地図を作成するときに三角形の一辺の長さとその両端の角度を利用して、遠くのポイントまでの距離を計る測量方法である。文化人類学者の川田順造はこの方法に目を付け、「文化の三角測量」という研究手法を提唱した。「東(日本)」と「西(フランス)」の文化を二点間で比較するのではなく、「南(アフリカのモシ諸王国)」の視点を加え、三つの異なる文化を相互に変換しながら比較することで研究者の主観性を補正し、人間と道具のかかわり方についての研究を行ってきた。そして、今回の茶会は、「文化」を「土味」へと応用する。チラシには、「世界の三地点─日本・フランス・ベナン─で焼成されたやきものを並置し(…)手触りや口当たりという実感から生まれる驚きが、既存のステレオタイプを塗り替える」とあるように、やきものを通してそれぞれの地域のつながりを測り直す趣向である。
茶会の一ヶ月ほど前、京都芸術センターの方から茶会のレビューの打診をいただいた。茶会当日は予定が入っていたのでお断りしようとも思ったが、この機会は惜しいので、「本番に参加できないが、三角測量のように断片的な情報を集めてレビューを書きましょうか」と投げ返してみると、思いがけず受け入れられた。そこで、茶会の前日に会場へお邪魔すると、薪窯の会のメンバーが楽しそうに床の間のしつらえを検討していた。水屋の棚には、三つの地域の器が並べられている。茶会の二日後、資料展示を見にいくと、やきものの書籍や映像と、茶会で使われた器たちが並ぶ。メンバーの中村融子さんから客も楽しそうだったと聞く。茶会の様子を収めた写真や覚え書きも送って頂いた。



しかしながら、はたと気が付く。いくら断片的な情報を深掘ってみても、茶会の見どころである「土味」の実感が持てないのだ。原稿の締め切りはとうに過ぎた七月下旬。客たちはどんな土味を楽しんだのだろうと思いを巡らせつつもテレビを点けると、相撲中継が掛かっていた。この感じだ!ここは思い切って、茶会の「土味の三角測量」を、相撲の「優勝決定巴戦」に見立ててみよう。
夏場所の千秋楽、ここまで三敗の熱海富士(静岡県熱海市出身)が、二敗で優勝争いを一歩リードしている安青錦(ウクライナ・ヴィーンヌィツャ出身)を押し出した。この時点で星が並び、優勝決定戦となる。その後、同じく三敗の霧島(モンゴル・ドルノド県出身)が琴桜を寄り切って、三つ巴での優勝決定戦となった。先に二連勝した力士が優勝となる。支度部屋から三人の力士が入場し、土俵下でクジが引かれた。初戦は熱海富士と霧島。熱海富士は、持ち前の大きな体の生かした押し相撲で、ここ最近は取り口にも重みが増している。一方で霧島は、足腰の強さを生かした寄り相撲を得意とし、投げ技も豊富にある。待ったなし。熱海富士は、出足を鋭く霧島を寄せ付けず、押し出して優勝に大手。その勢いのままいけば初優勝だが、今年の初場所の優勝決定戦では安青錦に破れている。タオルを顔に当てて深く深呼吸する姿を見ていると、こちらの息まで詰まってくる。一方で安青錦は、両足にテーピングを巻いた満身創痍の姿ではあるが、表情は引き締まっている。待ったなし。安青錦が寄り切って、踏み止まる。続けざまに髪の乱れた安青錦と霧島が立ち合う。待ったなし。安青錦はレスリング譲りの低い姿勢から外掛けで相手を崩し、そのまま寄り切って、賜杯を手にした。
優勝決定巴戦の見どころはどこにあったのだろう。仕切りの時間、力士がそれぞれのルーティーンで四股を踏んだり、塩をまいたりすると、観客は推しの力士の名前の入ったタオルを掲げたり、声援を送っている。そして、いざ立ち合いとなると一瞬静まり、すぐさま大きな歓声が会場に響き渡る。観客は力士の味だけではなく、ぶつかり合う感じを楽しんでいるのだ。


もう一度、茶会の見どころも見出してみたい。茶会の前日、水屋に並べられた三つの地域の器を手にとり、土の質感や焼き具合を確かめた。土味を比較する茶会だから、もっとザクっとした土で、灰がたっぷりと被った器が現れるのだろうと踏んでいたが、思いの外、あっさりとした焼き上がりの器たちが並んでいて拍子抜けした。器をひっくり返してみるとサインが刻まれた器も多く、三つの地域の器というよりも、個人作家の器としての印象を受けた。けれども、この穿った器の見方が全くもって的を射ていなかった。土味の三角測量とは、それぞれの地域の器を骨董品のように愛でることでも、文化人類学者のように比較することでもない。茶会という土俵で、器と真っ向勝負で立ち合うのだ。亭主の前にいずれかの地域の器が運ばれ、茶が点てられる。その所作に見入っていると時間いっぱいとなり、目の前に器が差し出される。その器を手に取り、口をあて、飲み干す。客は、亭主が織りなす器の取り合わせの妙を楽しんでいたのだろう。もし次の茶会があったら、土味を掬みつつ、少し離れて感じで器を見てみたい。
中村裕太



【イベント詳細(終了)】
第162回明倫茶会「土味の三角測量:序章、1-1」
日時:2026年5月23日(土)1席目:11時~ / 2席目:12時半~ / 3席目:14時~/ 4席目:15時半~ / 5席目:17時~
会場:京都芸術センター 和室「明倫」
関連資料展示:5月23日(土)~30日(土)
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