展覧会メイン・ビジュアル デザイン:三上悠里
ソル・ルウィット オープン・ストラクチャー
2025年12月25日(木)–2026年4月2日(木)
東京都現代美術館 企画展示室 1F
https://www.mot-art-museum.jp/
開館時間:10:00–18:00 入場は閉館30分前まで
休館日:月曜日(1月12日、2月23日は開館)、12月28日~1月1日、1月13日、2月24日
展覧会企画:楠本 愛(東京都現代美術館学芸員)
展覧会URL:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/LeWitt/
ソル・ルウィットは1960年代後半、目に見える作品そのものよりも、作品を支えるアイデアやそれが生み出されるプロセスを重視する試みによって、芸術のあり方を大きく転換した。ルウィットの指示をもとに、ほかの人の手で壁に描かれるウォール・ドローイング、構造の連続的な変化を明らかにする立体作品など、その仕事は「芸術とは何でありうるか」という問いを投げかけている。本展では、ウォール・ドローイング、立体・平面作品、アーティスト・ブックといった代表作の数々を通して、既存の枠組みや仕組みに再考を促し、別の構造への可能性を開こうとしてきたルウィットの思考の軌跡をたどる。
ソル・ルウィット《ウォール・ドローイング #283 青色の円、赤色の直線、黄色の直線の位置》初回展示1976年 2017年イェール大学美術館ウェストキャンパス・コレクションセンター(コネチカット州ウェストヘイブン)での展示 © 2025 The LeWitt Estate / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery.
ソル・ルウィット(1928–2007)は、アイデアを主軸とする作品を通して、芸術とは何でありうるかという問いに向き合った、20世紀後半を代表する米国出身のアーティスト。本展は、日本の公立美術館における初の個展として、ウォール・ドローイング、立体・平面作品、アーティスト・ブックなど、その広範な仕事を検証する。
1960年代、芸術を個人の内面や感情の表現とする伝統的な考えに異を唱えたルウィットは、《ストラクチャー(正方形として1, 2, 3, 4, 5)》(1978–80年)のように、立方体を基本単位とするモジュールを組み合わせることで、構造の連続的かつ体系的な変化によって形態が規定される作品を発表した。その芸術の根幹をなすのは、目に見える作品そのものではなく、作品を支えるアイデアや構造であり、それらを形態へと移し替えるための仕組みやプロセスに主眼が置かれる。こうした原則を表すのが、「コンセプチュアル・アートについてのパラグラフ」(1967年)に書かれた「アーティストがコンセプトから生まれる芸術のあり方を選択する場合、すべての計画や決定は事前に行われ、実際の作業は形だけのものとなる。アイデアは芸術を生み出す機械となる」という一節。1968年に初めて発表されたウォール・ドローイングは、代表的な仕事のひとつであり、全体で1,300点を超える。そのほとんどは、ルウィット自身の文章や図面による指示をもとに、ほかの人の手で壁に描かれ、展覧会では会期が終わると塗りつぶされた。こうした手法やプロセスは、作者性や唯一性、物質的な永続性といった芸術をめぐる前提に再考を促すもの。さらに1980年代以降、作品にはそれまでに見られなかった複雑な形態や豊かな色彩が現れるようになった。それは、事前に定められた簡潔な指示や計画に基づくという点で同じ原則の延長上にあり、その射程を拡げる試みであったといえる。
本展が照らし出そうと試みるのは、ルウィットの芸術に通底する「構造を開く思考」。たとえば、立方体を用いた作品の多くは、外側の各面を削ぎ落とし、骨組みとなる辺を際立たせることで、形態を支える構造を明らかにする。《不完全な開かれた立方体》(1974年)のように、辺の一部を欠いた作品は、連続写真の一コマのように、漸次的な移行の渦中にある構造のダイナミクスを浮かび上がらせ、完全性や不変性を解体する。あるいはウォール・ドローイングにおいて、設置される環境や空間、ドローイングの従事者といった条件に応じ、与えられる形態に変化の余地が残されていることは注目すべきでしょう。アイデアを形態へと置き換えるプロセスにおいて、アーティストによる指示をどれほど厳に正しく実行したとしても、不確定性や他者による一定の解釈の介入は避けがたく、作品はそれを受け入れている。アイデアを特定の個人の所有物とせず、受け取ったすべての人と分かち合おうとする姿勢は、「アイデアは所有できない。それを理解しうる人のものだ」という発言にも表れている。また、自らのアイデアを広く媒介する手段として多数のアーティスト・ブックを制作したルウィットは、1976年、批評家のルーシー・リパードらとともにニューヨークで「プリンテッド・マター」を立ち上げ、既存の美術市場に依存しないアーティスト・ブックの流通を促した。
1960年代後半以降、作品が単なる鑑賞の対象にとどまらず、思考の場として見直されていくなかで、ルウィットの作品が果たした役割は大きく、とりわけプロセスや指示に基づく実践にとって、いまに至るまで指針のひとつであり続けてきた。既存の構造や仕組みを絶えず組み立て直し、そこに創造的な隙間を生み出そうとしてきたその芸術は、私たちがどのように世界を捉え、関与しうるかに向き合うための起点となり、別の視点や枠組みへの可能性を開くでしょう。
ソル・ルウィット《ストラクチャー(正方形として1, 2, 3, 4, 5)》1978-80年、滋賀県立美術館蔵 © 2025 The LeWitt Estate / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery.
ソル・ルウィット《ウォール・ドローイング #1164 ドローイング・シリーズ I 2 (A & B)》構想1969年、初回展示2005年 2010年グラッドストーン(ブリュッセル)での展示 © 2025 The LeWitt Estate / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery.
《ウォール・ドローイング #66》を制作中のソル・ルウィット(グッゲンハイム美術館、ニューヨーク、1971年) © 2025 The LeWitt Estate / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery.
同時開催
Tokyo Contemporary Art Award 2024-2026 受賞記念展「湿地」
2025年12 月25 日(木)- 2026 年3 月29 日(日)
東京都現代美術館 企画展示室 3F
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/TCAA_2024_2026/
開館30周年記念 MOTコレクション
マルチプル_セルフ・ポートレイト
中西夏之 池内晶子 —弓形とカテナリー
2025年12月25日(木)- 2026年4月2日(木)
東京都現代美術館 コレクション展示室
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-collection-251225/
ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術
2026年1月31日(土)- 5月6日(水・振休)
東京都現代美術館 企画展示室B2F、ホワイエ他
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mission-infinity/
