第61回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館、キュレーター決定

イサム・ノグチ《オクテトラ》のあるこどもの国にて、横浜、写真:細川葉子

 

2025年6月16日、国際交流基金(JF)は2026年5月に開幕する第61回ヴェネツィア・ビエンナーレの日本館における荒川ナッシュ医の個展のキュレーションを、香港のCHAT(紡織文化芸術館)の高橋瑞木とシンガポール国立美術館の堀川理沙が務める旨を発表した。

「乳児たち、ナショナリズムにひたむきにイヤイヤ!」(現段階での仮題)と題した展示プランにより「作家自身の双子の子供と数多くの乳児人形などが会期中に“出演”し、観客をも参加させる大規模なインスタレーションになる予定である。LGBTQやジャパニーズ・ディアスポラにかかわる問題を捉える、この作家ならではの鋭くもまたユーモラスな批評性に期待したい」(建畠晢、国際展事業委員会委員長 ※全文はこちら)との評価により、第61回展の日本館展示出品作家に選ばれた荒川ナッシュは、香港に拠点を置く高橋瑞木、シンガポールに拠点を置く堀川理沙といずれも日本国外を活動拠点とするキュレーターを指名。「生後6ヶ月の双子に自我が芽生えるこの瞬間に、密度の濃いコミュニケーションを二人のキュレーターと交わせるのが嬉しい!それはきっと双子にも伝わるだろう。時計の時差だけでも、すでに大変なジャグリングになっているが、様々なサポートを受けて、日本館を盛り上げたい」とコメントを寄せた。

高橋は「荒川ナッシュ医は、現代美術の前衛性を、自分の人生や生活と結びつけながら追求しているアーティストで、その作品を完成させるには多くの協力や援助やサポートを必要とする。つまり、彼の作品や展覧会をつくるということは、さまざまな人と一緒に赤子を育てるようなものなのだ。共同キュレーターの堀川さんやコラボレーター、そして日本館を訪れる観客と、このチャレンジングな共同育児のプロセスに参加する責任と、大きな喜びを感じている」と抱負を語り、荒川ナッシュから「ジャパニーズ・ディアスポラ」を入口に、アジアの文脈とつなぎ、その過去・現在・未来を共に想像しようという誘いを受けたと語る堀川は「「日本」をめぐるディアスポラの歴史は、棄民/植民/移民など重い言葉で綴られてきた。荒川ナッシュ医特有の、自らを外部に開き、さまざまな人を巻き込みながら自他の主体性をゆさぶり、ユーモラスに境界を乗り越えていく手腕が、このディアスポラという課題にどう作用するか。また「日本」の周縁にいる私たち3人が共同で日本館の歴史をどう塗り替えられることができるか、重責を感じながらも楽しみである」と期待を語った。

 

高橋瑞木 写真:細川葉子

 

高橋瑞木は、香港のCHAT(紡織文化芸術館)館長兼チーフキュレーターとしてミュージアムの基本方針の立案、組織とプログラムの企画設計を2020年から主導。2017年から2020年にかけては、同館の共同ディレクターとして、ミュージアムの設立理念やアーティスティックディレクションの策定、展示やラーニング、パブリックプログラムの企画と実施、制度設計と運営の両面に関わる。日本では森美術館開館準備室(1999-2003)、水戸芸術館現代美術センター(2003-2016)に勤務。これまでの主な国内外の企画として、水戸芸術館現代美術センターでは、「Beuys in Japan:ボイスがいた8日間」(2009)、「高嶺格のクールジャパン」(2012)、CHATでは、「Unfolding : Fabric of Our Life」(2019)、「Sudō Reiko: Making NUNO Textiles」(2019)、「Yee I-Lann: Until We Hug Again」(2021)、「Jakkai Siributr: Everybody Wanna Be Happy」(2023)などがある。

 

堀川理沙 写真:細川葉子

 

堀川理沙は、シンガポール国立美術館設立に準備段階から関わり、現在は同館シニア・キュレーター兼キュレトリアル&コレクション部門部長を務める。コレクション及びアーカイヴ形成やアクセシビリティに関するストラテジーを担い、近年は東南アジア・東アジアを中心に交錯するモダニズムを、特に1930年代から40年代に重きをおいて調査している。同館での展覧会に「Between Declarations and Dreams: Art of Southeast Asia since the 19th century」(2015)、「Reframing Modernism: Painting from Southeast Asia, Europe and Beyond」(2016)、「(Re)Collect: The Making of Our Collection 」(2018)、「City of Others: Asian Artists in Paris 1920s-1940s」(2025)など。現職以前は福岡アジア美術館学芸員(2003-2012)、中国ロング・マーチ・プロジェクトのキュレトリアル・チームに参与(2002-2003)。

 

第61回ヴェネツィア・ビエンナーレ 日本館
出品作家:荒川ナッシュ医
共同キュレーター:
高橋瑞木(CHAT 香港紡織文化芸術館、館長/チーフ・キュレーター)
堀川理沙(シンガポール国立美術館、シニア・キュレーター/キュレトリアル&コレクション部門部長)
主催/コミッショナー:国際交流基金
日本館公式ウェブサイト:https://venezia-biennale-japan.jpf.go.jp/

第61回ヴェネツィア・ビエンナーレ
2026年5月9日(土)-11月22日(日)
https://www.labiennale.org/en/art/
キュレーター:故コヨ・クオ(ツァイツ・アフリカ現代美術館エグゼクティブ・ディレクター兼チーフ・キュレーター)

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