〈レポート〉「きのこアート研究所」展・関連プログラム

「きのこアート研究所」展

現在開催中の「きのこアート研究所」展。今回の展示は、架空の研究所における調査結果に見立て、キノコを愛する制作者たちの執着の様に迫り、その豊かな成果の広がりに触れる試みです。
そんなキノコの世界を深く知り、展覧会をもっと楽しんでもらえるよう、11月21日、27日の2週に渡り、講演会と観察会という趣向の違う二つのプログラムを開催しました。


展覧会より、とよ田キノ子コレクション

きのこ狩るチャ―講座

1週目は、「きのこアート研究所」所長・飯沢耕太郎氏をお迎えして講演会を開催しました。
「キノコの事をやりなさい」、そう頭の中で声が聞こえたという飯沢所長は、写真評論家として活躍する一方、近年はきのこ文化研究者としても広く知られています。

数あるキノコにまつわる作品の中から、ルイス・キャロル作「不思議の国のアリス」より「青虫の忠告」を題材に、幻覚性を持つキノコのイメージが作家に与えた影響、そして、そこから生まれた作品のイメージが、映画や音楽へと変容しながら広がってゆく事例を紹介されていました。

一方、映画「マタンゴ」(1963年 東宝)に登場する怪物・キノコ人間は、核に対する恐怖感、キノコ雲、魔性的な毒素など、様々な負のイメージが形になった事例として紹介されました。

可愛らしくキャッチーなアイコンとして親しまれる一方、恐怖の対象として描かれる事もあるキノコ。その善悪両方の側面が制作者を刺激し、そのイメージが受け継がれつつ変容し、そして新たなインスピレーションの元になってゆく。それは正に、キノコが胞子を撒き散らしながら、様々な場所へ繁殖してゆく姿と重なる様です。

比治山キノコ観察入門

きのこアートを勉強した翌週は、本物のキノコを探しに出かけよう!という企画を行いました。きのこアドバイザーの資格を持つ川上嘉章さんによる指導のもと、美術館が位置する比治山でキノコ探索を行いました。

意外と身近な所に存在するキノコたち。緑豊かな比治山にも沢山のキノコが潜んでいました。岩陰や木の表面など、普段は見過ごしがちな様々な場所に人知れず繁殖し続けています。

一晩で溶けて消えてしまうキノコや、一見可愛らしく見えるが食べると危険なキノコなど、知られざるキノコの生態を教わった参加者の皆さんは、徐々に不思議なキノコの世界に魅せられていったようでした。

飯沢所長の言葉を借りれば、「一度キノコの魅力に取りつかれると、頭の中に入り込んだ胞子が少しずつ成長し、やがてキノコになる。そして今度は、あなた自身が胞子を撒き散らす側になってゆくのです…」。この2週に渡るプログラムでしっかり捲かれた胞子が育つ頃、今度は、その魅力に取りつかれた参加者の皆さんが新たな伝道者となるのかもしれません。

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