〈レポート〉サイモン・スターリング展 関連プログラム

サイモン・スターリング展 オープン

現在開催中の「サイモン・スターリング―仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)」。本展はスターリングの活動を本格的に紹介するアジアで初めての個展であり、代表作に加え、重要な当館の収蔵品であるヘンリー・ムーア作品を軸に制作を進めた広島に関する新作を紹介しています。

オープンとなる1月22日には、来日したアーティスト本人による作品解説を、翌23日には、新作において重要な役割を果たす仮面を制作した見市泰男さんによるレクチャーを行いました。二日に渡り、展覧会の核となる新作の真相に迫ったプログラム、今回は当日の様子を少しだけご紹介します。

アーティスト・トーク

スターリングの作品は、完成に至るまでに膨大なリサーチと実践によって成り立っています。そのプロセスをアーティスト本人から聞く事の出来る貴重な機会とあって、全国からかけつけた100名以上のギャラリーが集合。アーティストの解説を聞きながら展示室を巡っていきました。


《カーボン(ヒロシマ)》を前に

代表作《雑草の島(プロトタイプ)》(2003)や《カーボン(ヒロシマ)》(2011)、《オートザイロパイロサイクロボロス》(2006)などを紹介し、これまでスターリングが取り組んできた作品から「移動」や「グローバル化」といったキーワードが浮かび上がっていきました。そして、今回の展覧会のため制作された新作《仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)》の中心的なテーマである、「ヘンリー・ムーア」へと繋がっていきす。


展示風景:《仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)》 photo:元圭一(CACTUS)

今回初公開された新作は、これまでスターリングが取り組んできたヘンリー・ムーアに関する研究の集大成ともいえる作品です。グローバル・アーティストとして活躍したムーアと、彼の作品《アトム・ピース》(1964-65)を巡る重層的な関係性を、能の演目「烏帽子折」に重ね合わせ面を制作し、その過程を映した映像を含むインスタレーションとして構成しています。
面と配役それぞれの二面性が紹介されるにつれ、ムーアを巡る美術と冷戦の関係、そして広島との関係が次第に明らかになっていきました。

レクチャー 創作面の可能性

そんな新作に登場し重要な役割を果たしているのが、ポスタービジュアルにも登場している一連の仮面です。この仮面を制作したのが、大阪府摂津市在住の能面打、見市泰男さんです。今回のレクチャーでは、見市さんの視点から、仮面がどのような過程で制作されたのかをお話し下さいました。

面を制作する際、まずその人物の内面を知ることから始まるといいます。今回の制作でも、人物それぞれの背景や思想を研究する事から始め、次にスケッチやモックアップのやり取りを通して造形や特徴を作り込んでいった、ということでした。
現代美術と能面の世界、それぞれ分野の違うアーティストでも、互いの手法を認め合い理解することで、創作面の新たな可能性を提示した作品とも言えるのかもしれません。

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