エルネスト・ネト 

宇宙につながる孤独

取材・文:住吉智恵
ポートレート:永禮賢

重力にとらわれず、水平垂直あらゆる方向へピンと張りつめられたストレッチ素材の宇宙。弛緩した身体を預ければそこは弾力性に富んだ桃源郷。そんな風に楽観的な世界観のネトにしては珍しく、今回『メルティング・ポイント』展のために再構成された2 0 0 1 年の作品は、どこか人と人との埋められない距離や孤独といった内省的感情を喚起させる。色彩も、ここ数回の個展で見せたカラフルなチャイルドカラーでなく、曇り空のような曖昧な色だ。

「この作品のテーマは身体とそれを取り巻く環境との関係性なんだ。布でできたチューブに身体を押し込むと、自分の身体と宇宙との差異が曖昧になって、消失点のような感覚を覚えるだろ?」
展示室の床に寝転がり、そこにあった紙に自由自在にドローイングしながら、ときどき立ち上がり全身を使ってハイテンションで喋りまくる。その情熱的なカリオカ気質は、見事な足さばきのダンス同様、二児の父となったいまも、この作品を制作した6年前と変わらない。

「 意識していなかったけど、そう言われれば最近カラフルな作品が多かったね。リオで展覧会をやると、どうしても近所の友だちや子どもたちを巻き込んだ不法占拠のビーチハウスパーティみたいになるんだ。ナイトクラブみたいにネオンやピアノを入れたり、夜遅くまで騒いだりね。僕はそんなとっちらかった雰囲気が好きだった。でも最近、家族からも離れてひとりになる時間と空間が自分にも必要だと気づいたんだ。そのためにピアノを弾きはじめたんだよ」

無心に音を拾っているといろいろなことがクリアになって、ハーモニーをつくり出していくのだと言う。

「それは、丸亀で発表した、ふたりの人物がハグしてる形をイメージした作品にも通じる。心身の境界が失われて、すべてのエネルギーがひとつのポイントで結ばれる感覚に近いんだ」

ネトとの対話の中で常に感じること。それは、ダイレクトに身体感覚に伝わる、強靭でしなやかな作品をつくり続けるためには、自身の感覚に対して繊細でありつつ、同時に物質的に構築するリアリズムが不可欠であるということだ。一見天真爛漫に見えても、自意識の永久運動を作品に昇華しながら生きるネトという人物を、表現者という枠を超えて魅力的に感じる。

初出:『ART iT 第17号』(2007年10月発売)。

エルネスト・ネト
1964年、リオデジャネイロ生まれ。2001年、ヴェネツィア・ビエンナーレにブラジル代表として参加する。07年7月、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館における日本初の大規模な個展開催のために来日。同時期に、東京オペラシティアートギャラリーで開かれた『メルティング・ポイント』展にも参加した。『SPACE FOR YOUR FUTURE』(07.10.27-1.20 東京都現代美術館)に出品。

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