田尾創樹

ゲームの傍観者としての創作

取材・文:柳下朋子
ポートレート:井上嘉和

田尾創樹は、架空のエンタテインメント系プロダクション「おかめぷろ」の代表兼所属アーティストとして作品を発表している。「オカメハチモク」というバンドを組んだのがその起源で、現在は、実在のふたりの「社員」のほか、田尾が生み出した謎のキャラクターたちが「おかめぷろ」を構成する。なぜ、活動の主体を「会社」にしたのだろう?

「会社って、何かを問い合わせても『それはこちらでは把握しておりません』みたいに、責任の所在が曖昧だったりしますよね。それを創作活動でもできたらいいな、と。『田尾創樹』個人として発表すると、逃げ場がなくなっちゃう気がします。自分でも理由はよくわかっていませんけど…」


OkamePro Meets Hiroko Tomiyama, 2008
Installation view at Chanel’s Mobile Art, Hong Kong
Courtesy Take Ninagawa

「基本は、ぼーっと暮らしている」と話す作家が、いままでになく忙しくなったのは、2月に開幕したシャネル主催の移動型美術展『モバイル・アート』に出品することになったから。参加作家のひとり、ソフィ・カルが、自分のプロジェクトを実現してくれるアーティストを作品の一環として公募し、そこに抜擢されたのだ。巡回展最初の香港展では、中環(セントラル)にあるシャネル店舗内で展示した。

「ひとつは、通行人のシャネルのバッグを中身ごと買い、その素材をもとに作品化する、というソフィさんから引き継いだプロジェクトの展示です。実際に、持ち主のクレジットカードを差し止めたりして70万円で買い取りました。元持ち主に捧げる部屋のイメージで全体にインスタレーションをします。
もうひとつは、シャネルという高級ブティックの中にタイプのまったく違う会社『おかめぷろ』が店を持つ、という入れ子状の設定をしました。新作のドローイングなどに社名の入ったタグを付けて製品のように並べます。せっかくの機会なので、社を宣伝しようと」

高級ブランドからの依頼にも気負わず、同じく出品作家のオノ・ヨーコに会えたら写真を一緒に撮ってもらいたい、と素朴なミーハー心も隠さない。本人曰く「いつも『スポーツ紙』みたいな視点で世間を見ている」。碁を打つ当人よりも傍らで見物している人のほうが八目先まで見通せる、という意味の「傍目八目(オカメハチモク)」を最初のバンド名にしたのは偶然だった、というのが、いかにも田尾らしい。

「盤の周りでずっと傍観してゲームの行き先を予想しつつも、時間を持て余して打ち手の毛の生え際などをうかがったり、とゲーム以外のことを考えてしまう姿勢もわりと好きです」

初出:『ART iT 第19号』(2008年4月発売)

たお・そうじゅ
1977 年、栃木県生まれ。出品中の『モバイル・アート』展は、香港に続いて、東京、ニューヨークに巡回した。『Akasaka Art Flower 2008』(赤坂サカス、東京)にも出品。
「おかめぷろ」www.okamepro.com

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