愛についての100の物語

2009.4.29〜8.30 (Zone2: 4.29〜7.20/Zone 1: 4.29〜8.30) 
金沢21世紀美術館 
http://www.kanazawa21.jp/

文:内田伸一(編集部)


Tanikawa Shuntaro+Yamamoto Motoi Poetry Reading and Artist talk 3 May
2009 in the gallery space with Yamamoto’s100 Labyrinths
Photo Ikeda Hiraku, Courtesy the 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa

一見すると、いかにも大仰なタイトル、と言うこともできる。純愛、博愛、偏愛、友愛、性愛、慈愛……いかようにでも語れるテーマであり、実際、館内各所で43組に及ぶ参加作家の表現に向き合うとき、観る側は――古い流行歌ではないが――あれも愛? これも愛? と想いを巡らせることになる。

野菜を水槽に放り込み、「浮くもの/沈むもの」と題して作品化した島袋道浩の、ささやかな差異への眼差し。または約300の電球が各観衆の異なる心拍数に合わせて明滅するラファエル・ロサノ=ヘメル作品や、かつて誰かが使った無数の窓で作った塩田千春の巨塔に見られる、個、集団、記憶への眼差し。照屋勇賢やモナ・ハトゥムが示す、故郷とそこを離れる者たちへの眼差し。我々は自分なりの解釈で新たな視線を投げ返す。音楽家の一柳慧、詩人の谷川俊太郎や作家・歌手の川上未映子らも、作品出展やパフォーマンスでそこに加わる。参加作家を軸にした、のべ100回を超えるイベントの開催も特徴だ。

「オープン・ダイアローグ(開かれた対話)」というのが、タイトルとは別に本展のキーワードとされている。開かれた美術館、との考え方がいっそう求められる時代に生まれた同館は、建物の設計、収集活動から各企画展に至るまで、この思想を注いできた。

館を飛び出して街中でも展開された昨年の『金沢アートプラットホーム2008』展は、これを地域に対して実践した重要な試みであったが、その上で美術館本来の土俵=館内(ホワイトキューブ)で何をやるか/できるかが改めて問われるタイミングが、今回だったようにも思える。5周年を迎えるこの時期に同館が示す決意表明として、本展を捉えることも可能だ。

粉末の塩で迷宮(迷路)を作る現地在住の作家、山本基は、新作の迷宮に100の円形を取り入れた。100個目は作品全体の一辺を成す大きな弧で、円盤形のこの美術館と同じ大きさの円を暗示する。残り99個の円が暗示するのは、この混沌とした時代にも前進を続けるアーティストたちか、あるいは館の外で営まれる日常の「物語」たちか。それぞれの円が迷宮中でつながるかどうかは誰にもわからないが「そうであるとよいな」と作家。愛とは「対話をあきらめないこと」。来場者で賑わう館内のどこかから、そんな声が聞こえてきそうでもあった。

この記事は『ART iT』 No.24 (Summer 2009)にも掲載されています。

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