第29回高松宮殿下記念世界文化賞


シリン・ネシャット「ロジャ・シリーズ/アンタイトルド」(2016)の画面写真を背に、グラッドストーン・ギャラリー、2017年、ニューヨーク

 

2017年9月12日、公益財団法人日本美術協会は、国内外問わず世界の優れた芸術家を顕彰する高松宮殿下記念世界文化賞の受賞者を発表した。絵画部門のシリン・ネシャット、彫刻部門のエル・アナツイを含む各部門の受賞者には、10月18日に東京・元赤坂の明治記念館で開かれる授賞式典で、顕彰メダルと感謝状、賞金1,500万円が贈呈される。

絵画部門の受賞者は、ニューヨークを活動拠点とするイラン人映像作家のシリン・ネシャット(1957年イラン・カズヴィン生まれ)。さまざまな表現手段を駆使し、現代イスラム社会を生きる女性たちの政治的、社会的、心理的に抑圧された状況を描写、ローカルに留まらない普遍的な問題へと昇華し、女性のあり方を模索してきた。ネシャットは17歳でアメリカ合衆国へ留学し、カリフォルニア大学バークレー校で美術を学んだのち、1979年に勃発したイラン革命の影響で母国に帰ることができないまま、アメリカ合衆国に残る。90年に渡米後初めて訪れた母国で「イスラム革命がもたらした女性の現実問題に焦点を絞った」制作活動を決意する。

チャドルを身にまとい、時には銃を手にした女性が、人前で見せても咎められない目、手、足を露わにし、フェミニストが書くペルシャ語の詩などで皮膚を覆ってしまう写真シリーズ「ヴェールを脱ぐ」や「アラーの女たち」で注目を集めると、その後も、男と女、光と影、白と黒と相反した概念を並置することで、物事の奥にある真理に迫っていくスタイルを貫き、制作活動を展開していく。90年代後半には、テート・ギャラリーやホイットニー美術館で個展を実現。99年にはビデオ・インスタレーション「歓喜」「荒れ狂う」で第48回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際賞を受賞。その後も数多くの展覧会、受賞を重ね、2005年には第6回ヒロシマ賞も受賞している。また、坂本龍一が音楽を担当した初監督作品『男のいない女たち』は2009年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)に選出されている。

 


エル・アナツイ「アディンクラ・ササ」(文様付きササ)2003年、織物、アルミニウム、動線、487x548cm、ジャック・シャインマン・ギャラリーにて Courtesy of the artist and Jack Shainman Gallery, New York

 

彫刻部門は、金属のボトルキャップを銅線で編み上げた、ガーナの伝統的な織物アジンクラを思わせるメタル・ワークで知られるエル・アナツイ(1944年ガーナ・アニャコ生まれ)がガーナ出身者としては初の受賞。ガーナの大学で彫刻を学んだアナツイは、1975年にナイジェリアへと拠点を移し、アジンクラやナイジェリアの伝統的装飾文様ウリなどに影響を受けた木彫やパネル、セラミックのオブジェなどを制作。2000年以降は、消費文化が生む余剰廃棄物を「歴史や時代の残滓」と捉えて作品に使用し、奴隷貿易、植民地主義とその歴史を語りかけるような作品を制作している。

選外佳作賞を受賞した1990年の第44回ヴェネツィア・ビエンナーレをはじめ、これまでに三度、同ビエンナーレに参加。2015年には「栄誉金獅子賞」を受賞。日本国内でも、98年に大阪トリエンナーレ:第9回国際現代造形コンクールで銅賞を受賞。2004年には森美術館で開催され、その後、デュッセルドルフ、ロンドン、パリ、ストックホルム、ヨハネスブルグを巡回した『アフリカ・リミックス 多様化するアフリカの現代美術』に出品。2010年から2011年にかけて、国立民族学博物館、神奈川県立近代美術館、鶴岡アートフォーラム、埼玉県立近代美術館を巡回した大規模な回顧展『エル・アナツイのアフリカ アートと文化をめぐる旅』を開催している。

 


ラファエル・モネオ『プラド美術館新館』2007年 マドリード

 

そのほか、建築部門は「ストックホルム近代美術館」や「プラド美術館新館」(2007)などを手がけ、プリツカー賞や王立英国建築家協会ゴールドメダルなどの受賞歴もあるスペインのラファエル・モネオ(1937年ナバラ州トゥデラ生まれ)が受賞。音楽部門は、西アフリカ固有のリズム「ンバラ」をモダンにアレンジし、伝統音楽にさまざまな民族音楽や欧米ポップ・ミュージックのエッセンスを取り入れた音楽で知られるユッスー・ンドゥール(1959年ダカール生まれ)がセネガル出身者としては初の受賞。演劇・映像部門は、旧ソ連のバレエ団「キーロフ・バレエ」のトップダンサーに上り詰めたのちにアメリカ合衆国に亡命し、ダンサーとしてのみならず映画俳優としても活躍し、「アメリカン・バレエ・シアター」の芸術監督を経て、2005年に「バリシニコフ・アーツ・センター」を設立したミハイル・バリシニコフ(1948年旧ソ連・ラトビア共和国リガ生まれ)が受賞した。

 


ズゥカック劇団・文化協会、パレスチナ人難民キャンプでのパフォーマンス、2012年 Courtesy of Zoukak Theater Company Photo: Randa Mirza

 

なお、同日に発表された第21回若手芸術家奨励制度の対象団体には、2006年から演劇療法を利用して演劇、ダンス、教育などのワークショップを開催し、難民キャンプなどレバノン各地で社会心理的な支援活動を展開しているベイルートのズゥカック劇団・文化協会が選出された。ズゥカック劇団・文化協会には、ニューヨークの受賞者発表の席上で奨励金500万円が授与された。

 

絵画部門:シリン・ネシャット
彫刻部門:エル・アナツイ
建築部門:ラファエル・モネオ
音楽部門:ユッスー・ンドゥール
演劇・映像部門:ミハイル・バリシニコフ
若手芸術家奨励制度対象団体:ズゥカック劇団・文化協会

 

第29回高松宮殿下記念世界文化賞http://www.praemiumimperiale.org/

 

関連イベント
世界文化賞絵画部門受賞記念アーティスト・トーク
「シリン・ネシャット イラン文化とアメリカ文化の間で」
講師:シリン・ネシャット
2017年10月20日(金)13:30-15:00(開場:13:00)
会場:鹿島KIビル 大会議室(東京都港区赤坂6-5-30)
定員:300名(要申込)
申込方法は、郵便はがきに「シリン・ネシャット アーティスト・トーク 参加希望」と記し、郵便番号、住所、氏名、電話番号、職業または所属、年齢、同行者の有無(ある場合は人数)を明記して、下記の宛先まで郵送。応募多数の場合は抽選となる(抽選結果は招待状の発送をもって代える)。申込締め切りは、9月25日(月)。
〒102-0082 東京都千代田区一番町4-22 プレイアデ 一番町301(株)ピィバイピィ内
シリン・ネシャット アーティスト・トークHP係

世界文化賞建築講演会2017
「ラファエル・モネオ 建築を語る」
講師:ラファエル・モネオ
モデレーター:三宅理一(建築史家、東京理科大学客員教授)
2017年10月19日(木)16:00-17:30(開場:15:30)
会場:鹿島KIビル 大会議室(東京都港区赤坂6-5-30)
定員:300名(要申込)
申込方法は、郵便はがきに「ラファエル・モネオ建築講演会参加希望」と記し、郵便番号、住所、氏名、電話番号、職業または所属、年齢、同行者の有無(ある場合は人数)を明記して、下記の宛先まで郵送。応募多数の場合は抽選となる(抽選結果は招待状の発送をもって代える)。申込締め切りは、9月25日(月)。
〒102-0082 東京都千代田区一番町4-22 プレイアデ 一番町301(株)ピィバイピィ内
世界文化賞 建築講演会HP係

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