光州ビエンナーレはイメージの命について考察


Unidentified Prisoner, Tuol Sleng Prison, Phnom Penh, Cambodia, 1975-79, photograph, © The Tuol Sleng Museum of Genocide,
Cambodia/Doug Niven

 
 今年2010年9月はアジアの各都市で大型の国際展が集中するため、各開催地はその準備に大忙しである。去る4月20日にニューヨークのニューミュージアムで、その競合する国際展のひとつである光州ビエンナーレの記者会見が行われ、今回のアーティスティックディレクター、マッシミリアーノ・ジオーニによって第1弾の参加作家リストが発表された
 ニューミュージアムのキュレーターであるジオーニは、今回のビエンナーレに、韓国の詩人、作家の高銀(コ・ウン)の30巻にもわたる叙事詩のタイトルである「10,000の命」をいうテーマを採用した。
 高は70年代、80年代の韓国の民主化運動に関わり、20年間の間に4回も投獄されている。この叙事詩は反軍政民主化運動と軍との衝突となった1980年の光州事件の際に、高に影響を与えた有名無名を問わないすべての人の肖像を美しく描いたものを含む壮大な作品である。
 今年は光州事件から30周年であり、そもそも1995年にスタートした光州ビエンナーレも同事件から切り離して語ることができないものであることから、ジオーニはアートイットの取材に対し、地元である光州の歴史と現代美術の現在の流れを結びつけるつもりである、と述べた。高銀の本のタイトルは、残されたイメージによって語られること人々の命と、イメージそれ自体の命を双方を考察する展覧会のメタファーとして使っているとのことで、「あまりにもイメージが溢れている世界で、もはやイメージそれ自体が命を持っているかのように思える現在こそ、イメージは何をしたいのだ、と問いかける時期に来たのではないかと思っています。」
 タイトルのとおり、ジオーニの展覧会は大きく広がりを持ちそうだ。100人を越えるアーティストが参加をして、1901年から現在までの美術の時代のスターから無名に近い作家、さらに美術の範疇外の作家まで 多方面にわたるセレクションである。主な参加作家はグスタフ・メッツガー、ジェフ・クーンズ、ジェイムス・リー・バイヤース、マウリッツィオ・カテラン、フィッシュリ&ヴァイス、ロニ・ホーン、マイク・ケリー、ポール・マッカーシー、ブルース・ナウマン、ティノ・セーガル、シンディ・シャーマン、スターテバント、アンディー・ウォーホールなどである。
 一方で上記のような作家の他に、展覧会の流れを作る作家たちがいる。カナダのコレクター、イデッサ・ヘンデルによる「テディ・ベア・プロジェクト」、カンボジアで1970年代後半にトゥールスレン刑務所(現在は虐殺記念館となっている)で撮影されたクメール・ルージュによって虐殺される前の囚人達のモノクロの肖像写真、中国社会主義リアリズムの傑作である、等身大の彫刻作品『Rent Collection Courtyard』も初めて国際的なデビューを果たす。1965-78年に四川美術学院で学生と教員によって制作されたこの彫刻は横暴な地主に抵抗する農民の姿を描写したもので、蔡國強によって1999年のヴェネツィア・ビエンナーレで再制作され、蔡は金獅子賞を獲得した。さらに広告写真家キム・ハンヨンのプリントによって20世紀後半韓国社会が持っていた感性と野心が不気味に透けて見えてくる。
 日本からの参加作家は1951年から1957年まで瀧口修造が中心となって活動した実験工房、工藤哲巳、大竹伸朗など。
 ジオーニは、予期せぬ方向へ広がりうる芸術作品を中心にリサーチしたことを明らかにし、「テーマはリサーチを導き出すことができるものだが、作品はそれを継承し、一方でさらにテーマを複雑にし、その複雑さとその豊富な内容を詳らかにする」と説明した。「アートは決してセオリーのイラストであってはならない。」
 彼はさらに、「10,000の命」を複雑なビジュアル地図もしくは分類学 と比較してみせた。さらに、その比較について再考し、「実際この展覧会をもっともよく言い表せるのは巨大な家族のアルバムのようなものかもしれない。家庭崩壊になることが避けらないもの、という意味でね。」

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