アートステージ・シンガポール開催


アートステージ・シンガポール会場風景

2011年1月12日、アートバーゼルや上海のSHコンテンポラリーでディレクターを務めた、ロレンツォ・ルドルフがディレクターとして手がける新たなフェア、アートステージ・シンガポールがスタートした。アジアのマーケットを意識した構成で欧米のアートフェアと差異を計る試みがみられた。ギャラリーステージと名付けられた通常のギャラリーブース、若いギャラリーによる個展が中心となったプロジェクトステージなどの商業ブースに加えて、フェア会場内でシンガポール政府文化基金の協賛、ユージン・タン企画によるミン・ウォンなどシンガポールの若手作家のグループ展『Remaking Art in the Everyday』を行うなど商業的な側面にとどまらないアジア現代美術の現在を伝えるフェアとなっている。

会場内のブースは壁も高く、広々としており、最も小さなブースでさえ7.5メートルの奥行きがあり、フェアとしては非常に優れた展示環境である。廊下も幅がとられているため全体的にゆったりと作品を見ることが可能である。

2010年5月に香港で行われたアートフェアHKの成功や、アジアのコレクターの増加などにより国際的にアジアのマーケットへの関心が大きくなっている現在、アートステージ・シンガポールの行方は興味深い。会場立地条件、免税、フェア運営のスムーズさなど、同じような利点を持つ香港とは今後どのように差別化して行くのだろうか。


Michael Lin, Lisboa, Cama de dia, (2003), Emulsion on wood, pillows, 240x240x39 cm

台北のエスリート・ギャラリーはマイケル・リンのインスタレーション作品「Lisboa, Cama de dia」をマレーシアの新規コレクターに110,000USドルで、絵画作品を中国本土のコレクターへと早々に売却した。エスリート・ギャラリーのディレクターのエミリー・チャオは、ART iTの取材に対して、自身も参加した昨年のアートフェアHKと今回のフェアを比べ、「香港は中国と欧米を含めた世界のコレクターをターゲットにするのに最適であるが、今回はインドネシア、マレーシア、インドへマーケットを広げる良い機会と考えている」と答えた。北京のボエス・リー・ギャラリーは、12日のプレスプレビュー開始直後に楊心廣(ヤン・シングアン)の床置きのインスタレーション作品「Dead Birds」を14,000USドルで売却した。ディレクターの一人、皮力(ピー・リー)は香港とシンガポールのフェアの比較について「近い将来、香港とシンガポールが激しい競争でマーケットを奪い合う可能性があるだろう」とコメントを寄せた。
ニューデリーのギャラリー、ナチュール・モルトはトゥクラール&タグラの絵画作品「Somnium Genero – Turbo XII」を80,000ユーロで台北のコレクターから事前に売約を取り付けていたようだ。オーナーでディレクターのピーター・ナギは、「フェアで売り上げを期待できたのは一昨年までであり、現在フェアへの参加はむしろ新たにコレクターと知り合う機会として必要で、フェアに掛かる費用はそのためのコストとして考えている」と語った。

フェアに参加した多くのギャラリーがこの数年で増えたインドネシアのコレクターの購買力に魅力を感じている様子も窺えた。しかし一方で、インドネシアにおける美術への興味はまだ導入段階に過ぎないとの声も聞かれた。インドネシア、バンドンにあるギャラリー、プラットホーム3はインドネシアでも数少ないコンセプチュアルアートを積極的に紹介しているギャラリーであるが、そのディレクター、リフキー・エフェンディはこうしたインドネシアの現状に対して「まだまだインドネシアのコレクターが欲しているものは、理解しやすい絵画作品が中心であり、自分達が取り扱っているコンセプチュアルアーティストに興味を持ってはいない」と語った。
日本からの参加ギャラリーは小山登美夫ギャラリー、タクロウソメヤコンテンポラリーアート、ナンヅカ・アンダーグラウンド、ワダ・ファインアートなど。またキュレーター窪田研二が新たにはじめたスノウ・コンテンポラリーも日野之彦の個展でプロジェクトステージに参加している。


【LEFT】 Thukral & Tagra, Somnium Genero – Turbo XII, (2010), Oil on canvas, 198×360 cm. 【RIGHT】 above: Chen Yujun, Asian Circumscription. below: Yang Xingang, Dead Bird

フェアに併せて、シンガポール美術館では『Collectors’ Stage』と題した展覧会を開催している。フェアとは異なる美術作品への理解を深める方法のひとつとして、中国、韓国、香港など各地のプライベートコレクターから借りた大型の絵画作品やインスタレーション作品で構成され、会場は美術館の他、ヘル・トランスと港湾倉庫街タンジョン・パガー・ディストリパークの計3箇所。スボード・グプタ、方力鈞(ファン・リジュン)、艾未未(アイ・ウェイウェイ)、白南準(ナムジュン・パイク)などの作品が展示されている。日本からは奈良美智がインドネシアでのレジデンスの際、グラフと共同制作した「Yogya Bintang House Mini」(2008)がインドネシアのコレクターから借り受けて展示されている。

Art Stage Singapore フォトレポート Part 1
Art Stage Singapore フォトレポート Part 2

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