第42回アート・バーゼル開催


Daniel Buren Autour du retour d’un détour – Inscriptions (1986-88)

2011年6月15日から19日まで第42回となるアート・バーゼルが開催される。通常であればヴェネツィア・ビエンナーレのオープニングと間をあけずに行われるアート・バーゼルであるが、今回は約1週間あけての開催。集客に影響があるかと思われたが、蓋をあけてみれば、アート・バーゼルを優先させてヴェネツィアをフェアの前後に訪れることにしたコレクターやギャラリーが多かったようだ。

顧客を中心とした前日のファーストチョイスにおける作品の販売は、数年前の美術市場バブル期の狂騒までとはいかないが極めて堅調な様子。ダン・フォー(イザベラ・ボルトロッツィ/ベルリン)、フリードリッヒ・クナウ(BQ/ベルリン)など若手から中堅のアーティストの作品の売れ行きが好調である。今年の注目は若手アーティストを展示する「アートステートメンツ」のセクション。300件以上の応募書類から選ばれた14カ国・27人のアーティストが個展形式でギャラリーブースを飾る。ヴェネツィア・ビエンナーレの企画展『ILLUMInations』にも出品していたエミリー・ウォーディル(ジョナサン・ヴァイナーギャラリー/ロンドン)、昨年のベルリン・ビエンナーレにおいて大型のインスタレーションで注目を集めたペトリット・ハリライ(チェルト/ベルリン)の他、アレックス・ハッバード(マカロン/ニューヨーク)、カーリー・アプソン(オーバーデュイン・アンド・カイト/ロサンゼルス)など。日本からはギャラリー・サイド2がムラタ有子の絵画作品を床置きの作品とあわせてインスタレーション形式で展示。

一方、従来、新作で大きな作品が多い「アートアンリミテッド」セクションでは、物故作家や大物作家が80年代、90年代に制作した作品が目立ち、懐古趣味の様相。マリオ・メルツ、ダン・フレイヴィン、フレッド・サンドバック、ジェイソン・ロードなど。特に目を引いたのはギャラリ・コンティヌアが出品していたダニエル・ビュレンの「Autour du retour d’un détour(回り道の帰り道の周り)」(1986-88)。ビュレンは1985年から86年にかけてフランソワ・ミッテラン大統領、ジャック・ラング文化大臣の時代にパレ・ロワイヤルにパブリックアート作品「Deux Plateaux(ふたつの台地)」を制作した。パリの中心部にある歴史的な場所に現代美術作品を設置する政策にフランスで賛否両論を引き起こした作品である。その建設中に使われた囲いには多くの反対意見や悪口といった落書きが書き込まれ、それを完成後にビュレンが保管、内側に彼の作品の象徴とも言える幅8.7cmのストライプを施し、1988年にグルノーブルにある国立現代美術センター、MAGASIN(マガザン)での個展の際に作品として発表した、フランス現代美術の歴史的な作品である。その場限りのインスタレーション作品や安易な売買に反対するためにわざと貧しい素材を使って制作してきたアルテポーヴェラ、そして反市場的でもあったコンセプチュアルアートの作品が、こうしたアートフェアで展示販売されることにより、遂に資本主義による美術市場に完全に支配されたことが顕然となっている。大型作品がフェアに集中することで、評議会がコレクションの財布を握る美術館もフェアで作品を購入する傾向がますます強まり、研究に裏打ちされた収蔵を行なう美術館の役割が変化しつつある。

ART HKを買収したことでますます大型化するアート・バーゼルは、向かうところ敵無しで美術市場のさらなる拡大と、その主導権把握を続ける。

日本からの参加ギャラリーは他にタカ・イシイギャラリー、ギャラリー小柳、小山登美夫ギャラリー、シューゴアーツ、スカイ・ザ・バスハウス、ナンヅカ・アンダーグラウンド。

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