「Be Alive!」展を読み解く・「引用」

東京・原美術館より

現在開催中の原美術館コレクション展では、“Be Alive!”―現在(いま)、この瞬間、生きろ、元気に行こう―をキーワードに、21世紀に入って10年が経過した<いま>、まさに生き生きと第一線で活躍中の作家たちによる表現を所蔵作品の中から選りすぐり、紹介しています。

今日は、この展覧会の一室[ギャラリーI]の展示を、読み解いてみましょう。ここでは「引用」が、もう一つのキーワードになっています。


森村泰昌「今、こんなのが流行ってるんだって」(2005年)

名画の中の人物や女優、二十世紀を動かした歴史上の人物に自ら「なる」独自のセルフポートレイト作品で知られる森村泰昌(1951-)。この作品は18世紀の世相を風刺したゴヤの版画集『ロス カプリーチョス』(初版1799年)にモリムラ流の解釈と「笑い」を交え、現代に置き換えたものです。「これが流行ってる、となったらみんながそこに走る不思議な世界。馬鹿馬鹿しいと思いつつ、でもそんな美への誘惑に囚われてしまう。そういう微妙な二面性をゴヤは描いています。」(森村泰昌インタビューより引用)。


森村泰昌「スローターキャビネット II」(1995年)(部分)

ベトナム戦争中の1968年、警察がベトコンの兵士をサイゴン路上で射殺する瞬間をとらえた報道写真を、モリムラ流の群像に置き換え、日本人に馴染みの深い仏壇に収めた作品です。引き金を引く人、撃たれる人、その様子を見つつ通り過ぎる人に加え、全く気付かない通行人までを、全てモリムラが演じています。そのことから、誰もが加害者、被害者、傍観者、あるいは無関心な者になり得る、という現実を教えられます。モリムラは20世紀の歴史を振り返った最近作『なにものかへのレクイエム』について、「過ぎ去った人物や時代への哀悼と敬意をこめつつ、その姿を未来へ伝えること」(展覧会ウェブサイトより引用)だと語っています。2006年以降に展開され、モリムラの新境地を切り拓いたと言われるシリーズの片鱗が、1995年に発表されたこの小さな作品にうかがえるのも興味深いことではないでしょうか。
森村泰昌「芸術研究所」 http://www.morimura-ya.com


森弘治「After a Painting」(2004年)

グラスに水を注ぐ一人の女性。でもグラスの水は一向に増えない。そんな不思議な映像にとまどいを覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。森弘治(1969年-)は、大学で日本画を学んだ後に渡米、10年の滞在中にヴィデオを用いて制作するようになりました。この作品は森が、フェルメールの代表作のひとつ『牛乳を注ぐ女』(1658-59年頃)に着想を得たものです。映像がループされることで、静止しているわけでもなく進んでもいない、いわばあからさまに宙づりにされた「時間」が存在しています。「行為を閉じ込める媒体」としてヴィデオを用いることで、そもそも「描く」という行為とは、またその後に生まれる「作品」とは何か、という問いかけを私たちに投げかけます。なおこの作品は、原美術館で開催された「アート・スコープ 2005/2006 – インターフェース・コンプレックス」(2006年)にて紹介されました。(参考資料:ハラ ミュージアム リヴュー72号/2006年春)
森弘治 http://hiroharumori.weblogs.jp


ミカリーン トーマス「ママ ブッシュ:母は唯一無二の存在」(2009年)
(部分/全体像はこちらへ

ひときわ目を引く大型絵画は、ニューヨークを拠点に活躍するミカリーン トーマス(1971年-)の作品です。トーマスはアフリカン アメリカンの女性を描いた色鮮やかな肖像画で一躍時の人となった気鋭の作家です。この作品では、アングルの名作『オダリスク』(1814年)の構図が引用されています。巨大な裸婦のモデルは、彼女自身の母親です。疎遠になりがちであった娘が、最愛の母親をモデルに制作する過程を通して、お互いの溝を埋めようと思い立ち、この作品を始めとするシリーズが誕生したといいます。同作品が昨年原美術館コレクションに加えられたことを機に、作家をニューヨークから招聘し開催する小企画を2月17日[木]より開催、アーティストトークも行ないます。 詳しくはこちらをご覧ください。

このように、作品の背景や隣り合う作品同士の関係性に着目するのも、展覧会の楽しみ方のひとつでしょう。ぜひ実際に足を運び、展示をご覧頂ければ幸いです。毎週日曜、祝日の2:30pmより30分程度、学芸員によるギャラリーガイドも行なっていますので、よろしければご参加ください(無料・予約不要)。

ここでご紹介したギャラリーIの展示は2月9日[水]で終了となります。その後、プロジェクト「ミカリーン トーマス:母は唯一無二の存在」のため、展示替えをいたします。

2月10日[木]、ギャラリーI展示替え閉鎖中のため、入館料が割引となります(一般700円、大高生500円、小中生300円/ミューぽん他の割引と併用可)

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プロジェクト「ミカリーン トーマス:母は唯一無二の存在」(ギャラリーIにて開催)
2011年1月14日[金]―6月12日[日]

「Be Alive! ―原美術館コレクション」
2011年1月14日[金]―6月12日[日]

品川駅と原美術館を結ぶ無料ミニシャトルバス「ブルンバッ!」毎週日曜運行中。
[協賛:ブルームバーグL.P./アーティスト:鈴木康広]
アクセス情報はこちら。

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