ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台 @ 東京都現代美術館


ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《obsada/オブサダ》2021年、撮影風景 Photo by Jakub Danilewicz

 

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台
2022年11月12日(土)– 2023年2月19日(日)
東京都現代美術館
https://www.mot-art-museum.jp/
開館時間:10:00–18:00 入場は閉館30分前まで
休館日:月(ただし、1/2と1/9は開館)、12/28-1/1、1/10
企画担当:崔敬華(東京都現代美術館学芸員)
展覧会URL:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/Wendelien_van_Oldenborgh/

 

東京都現代美術館では、ヴェネツィア・ビエンナーレのオランダ館代表を務めるなど、20年以上にわたり国際的に活動してきたオランダの現代美術を代表するアーティストのひとり、ウェンデリン・ファン・オルデンボルフの個展『ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台』を開催する。

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ(1962年ロッテルダム生まれ)は、自身の出身地であるオランダをはじめ、インドネシアやブラジルなど、さまざまな地域における植民地主義や資本主義、政治的な運動に関連する出来事を掘り下げた映像インスタレーションで知られる。その映像は、他者との共同作業を通じて人々の関係を形成すると同時に、それによって形作られるものとして試行を重ね、シナリオを設定しない撮影に、キャストやクルーとして参加する人々が現れ、撮影の場という設えられた状況で、あるテーマについて人々が対話する過程で発露する主観性や視座、関係性を捉え、鑑賞者の思考との交差を指向する特徴を持つ。

ファン・オルデンボルフは、ロンドンのゴールドスミス・カレッジで学んだのち、ヨーロッパ各地やサンパウロを経て、2010年にロッテルダムに戻るが、現在はベルリンに拠点を置く。2000年代後半より、国際展や世界各地の美術機関の企画展で作品の発表を重ね、2011年には第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ・デンマーク館の企画展『Speech Matters』に参加。2016年には前年にロンドンのThe Showroomの個展の際にコミッションワークとして制作した《From Left to Night》をあいちトリエンナーレに出品。2017年には第57回ヴェネツィア・ビエンナーレ・オランダ館で個展『Cinema Olanda』を開催している。近年はドス・デ・マヨ・アートセンター(マドリッド、2019-2020)やウッチ美術館(2021)で個展を開催。シンガポール・ビエンナーレ2019、世界文化の家(ベルリン、2019)、シカゴ建築ビエンナーレ(2019)、ソンズビーク20->24(アーネム、2021)などで作品を発表している。日本国内では、前述のあいちトリエンナーレのほか、『MOTサテライト 2017秋 むすぶ風景』で来日し、東京藝術大学上野キャンパスのアート&サイエンス・ラボでの展示のほか、スクリーニングやトーク、若手アーティストのためのワークショップを実施した。

 


ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《マウリッツ・スクリプト》2006年、映像スチル


ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《偽りなき響き》2008年、映像スチル

 

日本での初個展となる本展では、ファン・オルデンボルフの代表的な映像作品から新作まで6点を展示する。なかでも本展を機に国内で制作した新作は、主に1920年代から1940年代にかけて活躍した女性の文筆家たちが、女性の社会的地位や性愛、戦争といった問題に切り込んだテキストを取りあげ、それらが今日の社会のどのような側面を映し出すかを探る注目の作品。

初期作品からは17世紀のオランダ領ブラジルで総督を務めたヨハン・マウリッツの知られざる統治をめぐり、マウリッツの手紙などを読み上げながら議論する《マウリッツ・スクリプト》(2006)、オランダによる植民地政策にラジオがもたらした影響についての対話と、インドネシア独立運動家スワルディ・スルヤニングラットが書いた手記「私がオランダ人であったなら」を読み上げる声とが交わる《偽りなき響き》(2008)を紹介。どちらも撮影場所がもつ歴史的文脈、異なるバックグラウンドや専門分野を持つ人々の声を取り入れるなど、ファン・オルデンボルフの作品の特徴のひとつである豊かな多声性を見ることができる。そのほか、共に1930年代初期にソビエト連邦で活動し、戦後オランダで活躍したドイツ人建築家ロッテ・スタム=ベーゼと、ロッテルダムの差別的な住宅政策に異を唱えた南米・ガイアナ出身の活動家ヘルミナ・ハウスヴァウトの軌跡を取り上げた《ふたつの石》(2019)、20世紀の前衛芸術においても見落とされ、今日の芸術生産の場でも解消されないジェンダー不平等の問題と、これからの変化に対する希望について、ポーランドの映画産業に関わる女性たちとともに共同制作した《オブサダ》(2021)、オランダで音楽活動や文筆活動を行なう若い女性たちが紡ぐ、自らの異種混交的なルーツや性についての表現の交差を繊細にとらえた《ヒア》(2021)を紹介する。また、ファン・オルデンボルフは映像作品のみならず、展示空間の構成においても支配的な言説やイメージからいかに逸脱しうるのかという問いを探求しつづけており、本展をフレームを定めることのない舞台セットのようなインスタレーションとして構成する。

映像作品6点で構成される本展では鑑賞時間を考慮し、希望者には購入したチケットで1回限り再入場できる「ウェルカムバック券」を用意している。会期中には、ギャラリートークのほか、読書会などの関連プログラムも開催予定。参加方法や詳細は公式ウェブサイトで順次公開される。

 


ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《ふたつの石》2019年、映像スチル


ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《Hier./ヒア》2021年、映像スチル

 


ART iT インタビュー・アーカイブ
ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ「まなざしの平等性を求めて」(2018年3月)

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